「すげえセクシー。」
というあいつの台詞にいつもどきりとした。
私に対して吐き出された言葉じゃないのに。
それなのに、
それを聞くたび私はどきりとしたのだった。

マガジンの巻頭カラーのグラビアアイドルの写真を
私の前に突き出して
「ねえこれ見て。すげえセクシー。」
とあいつは言った。
私は男じゃねーよと思いながらも
「あーほんまや!ここのラインがたまらんね。」
等と答える。
あいつが「すげえセクシー」といった
女の子の身体をじっと見つめる。
そして、いいなあと思う。
いいなあ、あいつの目を惹くような身体で。
自分の身体に苛立ちを覚える。
スレンダーでありたいと
ずっと願って思って生きてきたのに
あいつのたった一言で
そんな思いは一瞬にして崩れ落ちるのだった。

最後の記憶はインリンだ。
「インリンオブジョイトイ知ってる?」
「しらーん。」
「写真集がすげえセクシーやってん。
俺が今まで見た中で一番セクシーやったわあれは。」
「へえー。見てみたい。
なにが他のグラビアと違うんやろ?」
「身体がエロいんかな。ほんますげえセクシーやった。」
「へー。もってないん?そんなセクシーなら見てみたい。」
「友達んちで見たからなあ。でもほんまみんな大興奮。
おおー!とかどよめきおこってたしな。かなり盛り上がったで。」
「へー。ますます見たくなってきたわ。」

あいつの家でそんな話をしたのは
もう3ヶ月も前のことだ。


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私たちは恋愛をすべきではなかったのだろう。
それは薄々(いや実は心の奥底ではっきりと)
気付いていたことだった。
なのに、無邪気にこころのうちを全て曝け出すようなスタイルで
話しかけてくるあいつに一縷の望みをもってしまった。
2年もの間、
いつ切れてもおかしくないほど細い微かな望みを
私は胸に抱いてしまっていた。


様様な記憶が鮮やかに蘇ってくることに自分でも驚く。
私の記憶中枢にはあいつ専用の小箱があって
その小箱は他の記憶よりも
ずっと丁重に扱われているのだろうと思う。

恋をするというのはそういうことなのだろうか。