「ほんと、昨日の電話はないですよ。非常識と思います。」と彼が言った。
(昨夜、友達と麻雀中だった彼を無理矢理カラオケ行こうと呼び出した。
また、酔った勢いで電話してしまったのだ。)
「今までにも、行くの無理とか遊ぶの無理とか言ったら、
友達と思ってないん?とか、もうええわ!とか言うし、
そういうの、もうちょっと考えた方がいいですよ。
俺には俺の都合があるし、昨日は友達にも迷惑かかったし。
あと、酔って電話してくるとかも。」
というようなことも言われた。
 
私は、ごめん、という気持ちよりも、
なんで、こいつはわからんのやろう?という気持ちでいっぱいだった。
好きだから、電話してしまうし、誘ってしまうし、わがまま言ってしまうのに!
胸の中で、何度も何度もそう思った。
確かに、恋人でもないのに、わがままを一方的に押し付けるのはよくないと思う。
彼の迷惑を考えずに、会いたいだとか、話したいだとか、
いつも自分の気持ちばかりを押し付けるのは、申し訳ないとも思う。
けれど、どうしようもないのだ。
胸の中から気持ちが溢れてしまうのだ。
その全てを理性で抑えられるほど、私は大人ではない。
 
泣き出しそうになる気持ちを抑えながら、
「ごめん。」と言った。
その吐き出した一言は、自分でも驚くほどに、つっけんどんな声だった。
「なんやそれ、ほんま腹立つわ。」
今まで聞いたこともないような冷たい声で、彼がそう言った。
 
なにを言えばいいのかもわからず、
なにを言ってもすれ違いになるだけの気がして、
車に乗ってから、一言も話せなかった。彼もなにも話さない。
顔を見るのが怖くて、ずっと窓の外ばかり見ていた。
がおーがおーがおーとゴジラの音で、彼にメールが届く。
車を運転しながら、彼はメールを返す。
再び、
がおーがおーがおーと音がする。
助手席に座っているのに、とても遠くにいるような気がした。
彼の周りの空気と私の周りの空気が、決して交わることがないような感じ。
水と油のような、私がまるで隣にいないような、そんな感じ。
 
昨日飲んでいた居酒屋の前で降ろしてもらう。
やっとの思いで「送ってくれてありがとう。ごめん。」と言った。
でも、それも、なぜか、低く冷たくつっけんどんな声になった。
 
 
 
自分の車に乗りこんで、しばらく身動き取れなかった。
 
号泣というよりも、静かに涙が零れ落ちた。