作者・りゅう
夏の訪問者
夏も明け切らない夏休み終盤。
あいつは突然やって来た。
トントン・・・
毛利探偵事務所の戸を叩く音が響く。
蘭「あれ?依頼の相談かな?お父さん今麻雀に行ってていないのになぁ・・・」
そう、この時毛利探偵事務所には蘭とコナンの二人しかいなかった。
蘭はとりあえず戸を開けてみた。
蘭「はぁい。・・・っ!?」
そこにいたのは驚くべき人物だった。
新一「よう、久しぶりだな」
蘭「し、新一・・・!!」
コナン「なっ!?」
(なにーーーーー!!!!???)
コナンは状況が理解出来なかった。無理もない。自分が目の前に現れたのだ。
新一「どうしたんだよ蘭、お化けでも見るみたいな顔して」
蘭「・・・・・・・」
俯き、何も言わない蘭を心配して新一は蘭の顔を覗き込んだ。
すると、蘭はボロボロと涙を流していた。
新一「なんだよ、そんなに俺が帰ってきて嬉しいのか?」
新一は普段と変わらぬ、からかい口調で言った。
蘭「そんなことないわよ」
意地を張り、涙をぬぐう。
コナンは今だ放心状態である。
もはや二人の世界。
蘭「で、今日は何しに来たのよ」
新一「いやぁ〜さ、ちょっとお願いがあって」
照れくさそうに、且つゴマをするように言う。
蘭「なによ」
さっきとはうって変わって上手に立つ蘭。
新一「俺の家の掃除手伝ってくれねぇーか?」
コナンはやっと意識を取り戻し始めた。
蘭「えぇー!!この前も掃除してあげたじゃない」
蘭は不満の声を上げた。
新一「そこをなんとかさ」
蘭「そうねぇ・・・、コナン君はどうする?」
コナンはその頃には完全に意識を取り戻し、思考回路をフルに活用していた。
コナン「いいじゃない、夏休みだしさ、新一兄ちゃんが久しぶりに帰ってきたんだよ。手伝ってあげようよ」
(いい機会だ、こいつの正体暴いてやる!家の鍵なしにどうやって入るってんだよ)
内心とは違って子供のような表情である。
蘭「そうねぇ、もう!今回だけよ」
新一「あぁ、よろしくな」
にこにこと愛想を振り撒いている。
蘭「でも、あんな家じゃ何日もかかるんじゃない?」
ごもっともな意見だ、あんな大きな屋敷1日で(しかも三人)終わるはずがない。
新一「あぁ、だから泊りがけでもと思ったんだけど」
蘭「泊りがけ〜!?」
蘭は驚いて大声になってしまった。
まぁ、驚くのも無理はない。
同年代の男子と同じ家で泊まるなどといったら小五郎になんと言われるか・・・。
新一「いいじゃねぇーか、そこの眼鏡のボウズも連れてってさ」
新一はコナンの方を向き、にっこりと笑って言った。
(くそー!なに勝手に話し進めてやがんだ。まさか、コイツ俺の正体知っててやってんのか)
蘭「しょうがないわねぇ、じゃぁお父さんにメモ残していくわ、あと支度してくるね」
トコトコと階段を上がって自宅へ向かった。
新一は薄笑いをしながらコナンを見つめている。
コナン「新一兄ちゃん、楽しそうだねぇ?何考えてるの?」
ちょっと怒った風貌で問う。
新一「そう怒るなよ。久しぶりに会ったんだからさ」
からかうように答える。
コナン「ははは(怒)」
蘭「支度してきたよ〜、コナン君のはこれね」
コナンは荷物を貰う、何処から見ても普通の小学生だ。
新一はそんなコナンを見ながらにこにこしている。
新一「さぁ、行くか」
三人は新一宅へと向かった。
コナン(誰なんだよ、俺の知ってる奴だってことは俺の血のうずきで分かる、誰だ、誰なんだ)
新一「そんでさぁ蘭、俺の誕生日の時がさぁ・・・」
蘭「そうだったそうだった、よく覚えてるわよね」
(あ〜、誰なんだっ!しかも、さっきから、なに人の思い出話してんだよ・・・って、
なんで俺の昔のことしってんだよ!何なんだこいつは!?)
コナンは頭をくしゃくしゃしながら考える。
そんなコナンの姿をまたもや新一がにこにこしながら眺めている。
そして謎は解けぬまま新一宅へと着いた。
(さあ、お手並み拝見と行こうか、どうやって戸を開けんだ?)
新一「ほら、どうぞ」
蘭「わ〜、新一の家って久しぶり」
コナン「なっ!?」
(どうして俺の家の鍵を・・・・)
新一はコナンに薄く笑いかけ蘭を家の中へと入れる。
そして掃除が始まった。
蘭「本当に本ばっかりよねぇ、それにどうしてこんなにほこりが溜まるのかしら」
新一「本は親父がかってに集めてんだよ」
蘭「でも、新一も読んでんじゃない」
新一「う゛っ・・・」
言い返せないといった感じだ。
っとその時、蘭が椅子からバランスを崩して落ちそうになった。
コナンは飛びかかる。
椅子が倒れる。
コナンは床に倒れこんでいる。
蘭は・・・・
新一の腕の中にいた。
新一「ふぅ、大丈夫かよ。―ったく、ガキじゃねぇんだから気をつけろよ」
蘭「わ・・・、分かってるわよ」
照れを隠すようにする。
新一「蘭・・・・」
蘭「な、なによ、そんな真剣な顔して」
新一「俺、お前のことが好きなんだ・・・」
コナン「なっ!」
(なに言い出してんだよ〜(涙))
蘭「・・・・・へ?」
蘭は“かぁ・・・”と顔を赤に染めた。
蘭「なっ、なに言ってんのよ!」
コナン(そうだ!なに言ってんだよ!)
新一「俺は蘭が好きなんだ」
コナン(騙されんなよ、そいつは偽者だぞ!)
蘭「あ・・・私も・・・」
そして・・・二人の顔が近づく。
コナン(どうする!?どうすればいい!?)
コナン「お、おっほん!」
コナンのわざとらしい咳払いで
二人はばっと顔を離し、蘭は、
蘭「む、向こうの部屋掃除してくる」
と言ってスタスタと行ってしまった。
新一「どうしたんだよ、ボウズ。今大事なトコだって分からなかったか?」
新一はコナンにいつもからかい口調で話しかける。
コナン「一体何者だよ、お前。人様に変装して、女落とそうとするとはな」
新一「なに言ってんだよ。俺は新一だぜ、変装も何もないさ」
慌てた様子はない。いつも冷静な表情で薄く笑っている。
コナン「そうか、お前の正体やっと分かったよ。あ〜ぁ、俺としたことがお前を気づかないとはな」
新一「なんのことだ?俺は新一。それに変わりはねぇよ」
コナン「騙されるわけねぇだろ。俺はお前を生涯のライバルに認めてんだぜ?」
新一「完璧にバレてるみたいだが、名探偵。このまま彼女に俺の正体を言わないままの方が
君にとってもいいんじゃないかな」
コナン「そうは行かねぇな」
ギロリと睨みつける。
新一「答え合わせだ。俺の正体言ってみな」
コナン「お前の正体は・・・怪盗キッドだな!」
新一(キッド)「ふふふふ、良く分かったな」
表情は一切変えないキッド。
コナン「人の女盗むとはどういうこった?」
更にギロリと睨みつける。
新一(キッド)「あれ〜?蘭ちゃんは君の女だったとは初耳だなぁ。」
コナン「なにをっ!」
蘭「こっちの方の掃除終わったよぉ」
新一(キッド)「おっ、サンキュ」
表情を一転し、答える。
蘭「なによ、こっちの方全然終わってないじゃない」
コナン(チッ、もうすぐで追い詰められたのに)
コナンは不機嫌そうな表情を浮かべていた。
新一「いやぁ、ボウズと話込んじゃってな」
コナン「そうなんだ。久しぶりだったから」
怪しまれるのはまずいと話を合わせておく。
ボーンボーンボーン
新一「おっ、もう9時だ」
蘭「本当、コナン君そろそろ寝ないと」
完璧に『子供』扱いされているコナンの就寝時間は早い。
新一「お前達、客間使えよ。あとさ、蘭。あとで俺の部屋に来てくれよ。じゃ」
そう言ってスタスタと新一の部屋へと入っていった。
コナン「ねぇ、蘭姉ちゃん」
蘭「・・・・・・・・・・・・」
蘭は新一のいた方向をじーっと見つめていた。
コナン「蘭姉ちゃん!」
蘭「えっ、あ、あぁどうしたの?コナン君。」
コナン「ちょっと博士の家行ってきて良い?」
蘭「もう寝ないと・・・。それに、こんな時間に迷惑じゃない?」
コナン「大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから」
蘭「もう、しょうがないわね。じゃぁ迷惑かけないようにね」
コナン「は〜い」
あっという間にコナンは行ってしまった。
蘭「さてと、新一の部屋でも行こう・・・」
コンコン・・・
新一(キッド)「ん?蘭か?はいれよ」
ガチャ
蘭「何してるの?」
新一(キッド)「ん・・・。いや・・別に、星見てた」
その時の新一は月明かりに照らされ、妙に色っぽかった。
蘭「へ、へぇー」
蘭「それはそうと、なんで部屋に呼んだの?」
新一(キッド)「あぁ、ちょっと・・・・・・・・・」
蘭「ちょっと?」
新一(キッド)は蘭に近寄った。
新一(キッド)「さっきの続きでもと思って」
・
・
・
コナン「博士〜!!!」
博士「どうしたんじゃ?新一君」
コナン「灰原何処だ!?」
博士「なにを慌てておるんじゃ?哀君なら地下でパソコンしとるが・・・」
コナン「分かった!」
そう言うと飛び降りるように階段を下りて行った。
コナン「おい!灰原!」
灰原「なによ、そんな大声出さなくても聞こえるわよ」
哀は無関心でパソコンをいじっていた。
コナン「頼むからアポトキシン4869の解毒剤の試作品くれよ」
灰原「一体何があったのよ」
いつも冷静沈着なコナンがどうしたものかとパソコン画面から目を離し、コナンを見た。
コナン「実はさ・・・・」
コナンは今日の出来事を大まかに話した。
灰原「なるほど、で、あの娘(蘭)を取られたくないから解毒剤が欲しい、ってわけ?」
コナン「そうそう、だから頼むよ」
灰原はコナン(新一)が好きなのでライバルである蘭がいなくなれば願ったり叶ったりなのだが・・・
コナン「なんでもいうこと聞くからさ」
この言葉に惹かれてしまったらしい。
灰原「分かったわ、今回だけ特別よ」
コナンは薬を貰うや否やその場で飲み、服を着替えて立ち去って行った。
・
・
・
蘭「なっ、何言ってんのよ!///」
蘭の顔は真っ赤になっていた。
新一(キッド)「俺は本気だけど?」
そう言って、新一は右手で蘭の顎をクイッと持ち上げた。
蘭「え・・・・・・」
二人の顔が近づく・・・・そして・・・・
ドンッ
コナン「はぁはぁ・・・、っその、薄汚い手を、離しやがれ!」
大急ぎで走って来た為、息は切れ切れだった。
蘭「え・・・コナン君?どうしてそんな服・・・・」
新一(キッド)「どうした?なにかあったのか?」
キッドは慌てることなく、ポーカーフェイスを保っていた。
コナン「蘭!離れろ!そいつは怪盗キッドの変装だ!」
蘭「えぇ〜!!!?」
新一(キッド)「ご名答。私の正体は怪盗キッド、ですよ?」
バサッ
そこにいたのは真っ白なタキシードとマントをはおった怪盗キッドだった!
コナン「はぁはぁはぁ・・・・く゛っ・・・う゛、う゛わ゛〜!」
コナンが大声で雄叫びを上げると、体がグングン大きくなり、ついには新一の姿へと戻った。
蘭「・・・っ!!??」
蘭「し、新一・・・・。コナン君が新一に・・・・」
蘭はもはや放心状態と化していた。
新一「怪盗キッド!てめぇ・・・、なんの目的で蘭に近づいた!」
キッド「さぁ?どうしてでしょうね。まぁ、しいていえば愛する人の本音が聞きたかったってとこですよ」
新一「どういうことだっ!」
キッド「ふふふ、私は忙しいのでそろそろいかせてもらいますよ」
バッッ
そういうや否や、ハングライダーを広げた。
新一「おい!逃げる気か!」
キッド「その内また会いましょう、名探偵♪私は、月が同じ形を描く前にまた来ますよ」
そういうと、キッドは窓から飛び立った。
新一「おい、待てよ!おいっ!チッ、逃げられたか」
蘭「え?あ・・・し、新一?」
新一「あん?なんだよ」
蘭「新一・・・だよね?」
新一「それ以外になんだってんだよ、怪盗キッドは飛んでったぜ?」
蘭「新一・・・・」
不思議と涙が溢れ出してくる。
蘭「し・・・新一・・・・新一・・・・」
新一「泣くなよ」
新一「蘭、あいつに先に言われちまったが俺は・・・お前が好きだ」
蘭「うん・・・、私も、新一のことが好き・・・」
そして・・・月の光の差し込む窓の前で二人は唇と唇を重ね合わせた。
キッド「さてと、彼女から彼を取るにはどうしたものかな?Good Bye. 僕の愛しき人――新一――♪」
END?
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((管理人の感想))
りゅう様の行き場のなくなった作品を譲り受けました。
やっぱり、新蘭ですね。
一番、読みやすい。
今回の作品は、最後のシーンが印象的です。
これは、キッドが蘭を取るのではと
心配していましたが、実は新一が目的だったんですね。
そして、蘭が新一を見て
安心して泣くシーン。
爽やか〜〜〜。
こっちが恥ずかしくなるような台詞も
幼馴染だからこそ言えるのでしょうか?
これからも、ほのぼの小説を書いてくださいね。