2001年12月


12月9日

神は銃弾
神は銃弾

GOD IS A BULLET

著者:ボストン・テラン
訳者:田口俊樹
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2001年9月10日
装丁:石崎健太郎

今年の「このミス」海外部門第1位作品。
…「ふーん」って感じです。はっきり言って。
自分が面白くないものを人が褒めるのはよくあることだし、逆もまたナンボでもあろうからいいんだけど、それにしてもここまで僕の心にヒットしなかったものが1位とは正直驚きである。
まあ「このミス」の集計方式では、みんなが1位と推してなくても、結果的に1位になることもあるし(実際調べてみると、回答者69名の内、本作を1位に上げている人は二名のみ!)、…でも、それでも、おかしいよ、これが1位って!
ストーリーは死ぬほど単純で、カルト教団に元妻を虐殺され、娘を誘拐された警官が、教団元メンバーのパンク娘と復讐と奪還の旅に出る、という、昔の大藪春彦と西村寿行に「マッド・マックス」を振りかけたような話。
最後の最後までノレませんでした。うーん。
ちなみに僕の中では10年に一作クラスのベスト作品である「アメリカン・デス・トリップ」は2位でした。そしてこれも1位に上げた回答者は二名のみ。
根本的に順位の決め方が間違ってますね(順位を決めること自体は否定しません)。


12月10日

偽史冒険世界
偽史冒険世界


著者:長山靖生
出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
発行:?
装丁:?

返却期限過ぎてて、読了後慌てて返したために発行日や装丁者をチェックし忘れました。失礼。
最近、と学会によっていろんな意味で電波入った妄想系トンデモ本が紹介されるようになったが、実はそんなの明治時代、いや江戸時代からあったのである。ということをユカイツーカイに教えてくれる本。
義経=ジンギスカン説、日本ユダヤ同祖説、竹内文書、神代文字などの起源を解説しながら、日本人のアイデンティティに鋭く迫っていきます。
この著者、本業は歯医者さんらしいが、只者ではない。
膨大な資料をさらりと読みこなしながら、その引用とつぎはぎではなく、あくまで自分の頭で考えて、しかもわかりやすく記している。
ノンフィクションを書くうえでは当たり前の話ではあるが、それが当たり前に出来ている人はそうはいない。面白いです。オススメ。


12月17日

古地図に魅せられた男
古地図に魅せられた男

The Island of Lost Maps

著者:マイルズ・ハーベイ
訳者:島田三蔵
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2001年10月10日
装丁:坂田政則

むむむ面白くねえ〜。
図書館から骨董モノの古地図を切り取って売買していた男が逮捕され、その事件を追ううちに、著者自身も古地図に魅せられ、古地図ウンチクを交えながらだらだらと事件と事件の周辺について語る。そいだけの本です。
書きようによっちゃ面白くなるネタなだけに、残念。


12月20日

ダーク・ムーン
ダーク・ムーン


著者:馳星周
出版社:集英社
発行:2001年11月10日
装丁:守先正+斉藤有紀

中国人悪徳警官・呉達龍と日系カナダ人組織犯罪捜査官・ハロルド加藤、それに元警官で香港マフィアの手下の日本人、富永脩。
トラウマまみれの三人がヴァンクーヴァーを舞台に、ヘロイン、金、選挙、買収、女、ゲイ、なんでもありにぐちゃぐちゃにもつれ合いながら転がり落ちていく。
足元に何があるかも知れぬ真っ暗な坂道を、止まるに止まれぬスピードで駆け下りていくような焦燥感。しかもその加速度はとどまるところを知らない。
ジェイムズ・エルロイのパクリ作家の中では一番芸がある馳星周。
エルロイが全体小説として物語を拡散させる方向へ向かっているのに対し、その路線をまったく変えることなく頑なにまっすぐに突き進んでいく様は、先には破滅しかないことが見えているのに、ただ駆け続ける三人の主人公達に通ずるものがあるような気がする。
ちょっとこの先どうなるのか心配になってきた。


12月23日

流血の魔術最強の演技
流血の魔術 最強の演技

すべてのプロレスはショーである

著者:ミスター高橋
出版社:講談社
発行:2001年12月10日
装丁:守先正+斉藤有紀

さあ、今年最大の問題作。
なんせ新日本プロレス(一応言っておくと、アントニオ猪木がずっとエースだった団体です)で25年間レフェリーを務めてきた著者が、その八百長史をすべて暴露してしまうというスーパーヘビー級の爆弾本である。
「プロレスが真剣勝負ではなく、ショーである」というのは、もう半ば公然化していて、それはプロレスに詳しくない人もなんとなくわかっているだろう。
だが、どこまでショーなのか、八百長であるなら、誰が勝敗を決めて、本人達にどう伝達するのか、この本ではそれらすべてを公開してしまっているのだ。
なんせ猪木が真剣勝負したのは生涯二試合だけとか、何するかわからない初来日の外人とかは密かに道場に呼んでリハーサルするとか、血はホンモノだが、レフェリーが隙を見てカッターで切ってるとか(イテテテ)、マイクアピールまで何をどう言うか会議で決められるとか、まったくこれまで業界一丸となって隠し続けてきたものがバッサリ剥き出しにされている。
もっとも、著者はスキャンダラスな意図で書いたものではなく、こうしてカミングアウトすることによって、「スポーツではないが、きわめて高度なエンターテイメントである」ことを宣言し、それが選手もプライドを持つことができ、世間的にも認知され得る手法であると主張する。
まあ正論である。特に、90年代に入り、UFCからパンクラス、そして現在勢いに乗るPRIDEなど、ガチンコ(真剣勝負)が興行として成立してしまい、更にインターネットの普及が裏の裏までの情報流出に繋がり、「キング・オブ・スポーツ」としてのプロレスはすっかり裸の王様になってしまったこの状況では。
だが著者の言は、完全に現在のアメリカンプロレスの猿真似なのである。
アメリカのメジャー団体WWFは、完全にこの点カミングアウトし、例えば会議で誰が勝つかを相談しているところに選手が乱入してくるシーンを撮ったり、完全に逆手にとって綿密なシナリオに則ったエンターテイメントを展開している。
「アメリカがうまくやってるから俺らも」てのは安直だなあ。
日本の観客の受けを考えた場合、個人的には第二次UWF程度の試合展開に試合外のアングルをうまく絡めたような形式がちょうどいいんじゃないかと思う。アメリカンプロレスは国民性を考えると日本に合わないよ。
はっ!つい長くなってしまった。すいません。そろそろ失礼します。


12月30日

立花隆先生、かなりヘンですよ
立花隆先生、かなりヘンですよ


著者:谷田和一郎
出版社:洋泉社
発行:2001年12月7日
装丁:坂本志保

実を言うと、立花隆の本てほとんど読んだことなかったりする。
唯一読んだのがいろんなジャンルの最前線の学者達との対談集なのだが、どうも博識振りが鼻について(というか話してる内容がよくわからなくて)、その一冊でほっぽりだしてた。
「はー偉い人でんなあ」という感じでそれ以上突っ込まずに今まで生きてきたのである。
すまん。
この本を読むと、「懐疑主義」というのがいかに重要な思想かわかる。
日本を代表する「知の巨人」がいかに裏づけのないいいかげんな発言をしているか、いかに偏った思い込みに支配されているか、疑って調べたからこそこれだけ明らかになったわけだ。
しかし今までほとんど批判されてなかったのが不思議なほどの豪快さんないい加減っぷり。
つうか、ほとんどオカルトな人やん! 「ムー」あたりで発言してるのが似合いそうな人だ。
違った意味で相当すごい人であることが分かったよ。
よし、来年の俺のテーマは「懐疑」と「調査」だ!(半分マジ)


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