2002年12月


12月9日

死体につく虫が
死体につく虫が犯人を告げる

A fly FOR THE PROSECUTION

著者:マディソン・リー・ゴフ
訳者:垂水雄二
出版社:草思社
発行:2002年7月31日
装丁:前田英造

著者はハワイで「昆虫法医学」という非常にオモシロ珍しい学問を研究をしている人。
要するに、死体にたかる蛆や蝿、蜂などから死亡推定時刻を始めとするさまざまな情報を得ようとするのである。蛆のサンプルを育てて種を同定し、何世代目の蛆かを勘定し(散らばる蛹の殻でわかる)、などなどとにかくいろいろやってみる。実に面白い!
途中かなり専門的になってきてややつらいが、それでも具体例をたくさん引いてわかりやすく解説してくれる。目から鱗ボロボロ。楽しい一冊でした。


12月9日

Uインターの真実
UWFインターの真実 〜夢と一億円〜


著者:鈴木健
出版社:エンターブレイン
発行:2002年12月4日
装丁:さおとめの事務所

先日のPRIDE23で引退した高田延彦(引退試合はもう五回見ました。見るたびに泣いてます)がかつて社長兼エースとして活躍したプロレス団体・UWFインターナショナル。
そこでフロント代表として次々プロレス界・格闘技界に挑発的な仕掛けを繰り返した過激な仕掛け人、鈴木健がついに当時の内幕を語り下ろす禁断の書。
一億円トーナメントからリングスとの泥試合、ヒクソン道場殴りこみ、実は裏でかなり進行していた高田−タイソン戦、そして禁断の踏絵となった新日本プロレスとの対抗戦などなど。
当時ガチガチのリングス派だった僕はあまり注目してなかったのだが、今思うとホントもったいないことしたなー。面白すぎるやん、この団体!
ただ、ミスター高橋の本の後では暴露度の衝撃が低くて残念。新日との対抗戦については勝ち負けの条件まで含めた徹底的な暴露が欲しかったところ。俗やし、知らないほうがいいことかもしれんけど、やっぱ知りたいやん!
それにしても高田って結局強くはなかったのかもしれないけど、よく恥をさらしながらもプライドで闘ってきたよな。お疲れ様。引退試合は本当に感動しました!


12月13日

死都日本
死都日本


著者:石黒耀
出版社:講談社
発行:2002年?月?日
装丁:岩瀬聡

第26回メフィスト賞受賞作。
メフィスト賞とは、講談社が発行しているミステリ雑誌「メフィスト」に投稿されてくるものから編集者が随時選んでいる賞で、第1回受賞作は森博嗣「すべてがFになる」である。
雑誌の性格からミステリ色の強いものが多かったが、そのうちなんでもありになってきて、第2回の清涼院流水「コズミック」、第3回の蘇部健一「六枚のとんかつ」で、そのつまらなさに呆れた僕は「もうメフィスト賞は読むまい」と思っていた。
その後、第13回の殊能将之「ハサミ男」、第17回の古処誠二「火蛾」などどうしても気になるものだけチェックしていた。で、久々に僕のチェック機構に引っかかったのが本作。
宮崎で火山が噴火、土石流で南九州が死滅し、火山灰が日本中を覆い、世界経済が崩壊していく中で日本の行動は?という小松左京を思わせる正統派パニックサスペンス。こういうの好き!
著者は相当な火山オタクらしく、火山の話になると脱線しまくってしまうのはご愛敬だが、グローバルなパニック描写と、主人公の九州からの脱出サバイバルアクションを絶妙なバランスで配置し、かなりのオモシロさ。
凄まじい円安に移行していく中での日本政府の一発逆転トンデモアイデアや、衛星徹甲弾なるトンデモ兵器、そしてトンデモを支える意外としっかりした基礎描写。
うーん、やはり偏見はいけないですな。面白かった!拍手。


12月13日

慟哭
慟哭


著者:貫井徳郎
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:1999年3月19日
装丁:岩郷重力

既に発行されて数年経つこの本、どこかの書店の人が気に入って今になって大展開してみたところ、バカ売れしたそうな。その波が全国に波及して、僕の勤める書店でも大きく展開して売れております。
「はー装丁がキレイやなー」という感想程度だったのだが、版元さんに頂いたので読んでみた。
幼女連続誘拐殺人を追う刑事の苦悩と、新興宗教にはまる男の懊悩が交互に語られていき、ラストであっと驚く大仕掛け!て話だが、半ば過ぎくらいでネタがわかってしまった。
いや、もちろん自慢しているわけではなく、ネタバレしても面白い本はそりゃある。
でもそれは当然ながら仕掛けてあるネタ以外のところにも面白いところがあるわけで、本作は正直それほどでもないかと。ネタがばれた時点で致命傷となるタイプです。
別につまらない、ってほどじゃないけど、ちょっと売れすぎじゃないか?


12月18日

半落ち
半落ち


著者:横山秀夫
出版社:講談社
発行:2002年9月5日
装丁:多田和博

本年度「このミステリーがすごい!」国内部門第1位。
本年度「週刊文春傑作ミステリーベスト10」国内部門第1位。
W県警に勤務する梶警部が「アルツハイマーの妻を殺した」と自首してきた。
警察官による妻殺し――取調べには「落としの志木」が呼ばれた。すべてを自白した「完落ち」の犯人になぜ志木が?
梶には犯行から自首までに空白の二日間があった。動機も、手段もすべて語った梶だが、その二日間の行動だけは完全に黙秘。彼は「半落ち」だった。
その二日間に歌舞伎町にいた、という目撃談から生じるスキャンダルを抑えるべく、調書が偽造され、「司法のベルトコンベア−」に乗せられる梶。
物語はベルトコンベア−に沿って流されていく梶に関わる六人の男達を順に主役に据えた連作短編集であり、妻殺しの後梶が何をしていたかを焦点とする長編でもある。
上手い。本当に上手い。
取り調べ刑事→検察官→事件記者→弁護士→裁判官→刑務官、それぞれに悩みを抱え、それぞれに生きている人々が、梶の事件から自らを見つめなおし、真相を追い求める。
そしてラストで明かされる空白の二日間の真実。
上手い。ひたすら上手い。
短編集として完璧なのに長編としても完璧という恐ろしい作品。1位納得。
それにしても尼崎北図書館!表紙に無粋な紙貼るな!


12月26日

マレー鉄道の謎


著者:有栖川有栖
出版社:講談社(講談社ノベルス)
発行:2002年?月?日
装丁:辰巳四郎

表紙スキャンし忘れて返してしましました。すみません。
国名シリーズ最新刊で久々の火村シリーズ長編。
マレーシアの風光明媚な高原地帯で起こった密室殺人事件。
毎度申すように、有栖川有栖は短編作家であると思う。
今回も、このトリックで短編にしていたらキレのいい佳品になったであろうが、どうにも無理やり引き伸ばしてる感があって惜しい。
キャラ萌えしている読者にはこれでいいんだろうけど。
あ、面白くないわけじゃないですよ。


12月26日

あしたのロボット
あしたのロボット


著者:瀬名秀明
出版社:文藝春秋
発行:2002年10月15日
装丁:斎藤深雪

「ロボット」をテーマにした連作SF短編集。
もはやSFではレトロなテーマといってもいいロボットにあえてスポットを当て、二十一世紀半ばまでの未来像を描く。
アトムに憧れてロボットを志した研究者たちのロマンティシズム、現実的にヒューマノイドがどうなるのかのリアルな展望、各話のテーマ性が実に愛情と哀愁に溢れ、本当に上手い。
そしてロボット云々以前に、ひとつの物語としてどれも完成度が高く、素直に感動する。
瀬名秀明は前作「八月の博物館」あたりから妙なロマンチストぶりが出てきて違和感があったが、今回は完全にプラスのほうに出た。
これからのロボット像に興味ある方は必読の良書です。


12月29日

黄金の80年代アニメ
黄金の80年代アニメ


編者:20世紀アニメ研究会
出版社:双葉社(双葉文庫)
発行:2000年9月7日
装丁:長崎力

ああ〜懐かしい〜!
我々の世代にとって80年代サブカルチャーというのは、最も多感な時期に刷り込まれ、自らの肉体の一部と化してしまっているわけで、こんなダイレクトな本読んだ日にゃーそりゃ興奮しますよ!
「ウラシマン」とか「レイズナー」なんかはよく覚えていたが、「ドラグナー」とか「ゴーグ」なんてすっかり忘れてたわい(でも言われると条件反射的にオープニングとかプラモの箱の絵なんかを思い出す。ああ!)。
実はけっこう荒いつくりで誤字や事実誤認が多い本だが、一晩で読み尽くしてしまいました。
巻末の80年代全作品リスト見てるだけで脳髄を映像が駆け巡ります。
「天使の卵」はよかったな〜(押井守+天野喜孝のOVA)。「ロボットカーニバル」もすごかったな〜などとオタクなあの頃へと一夜のタイムスリップ。堪能しました。


[書評部屋トップへ]

[トップへ戻る]