2003年3月


3月8日

怪しいお仕事
怪しいお仕事!


著者:北尾トロ
出版社:新潮社(新潮OH!文庫)
発行:2001年7月10日
装丁:緒方修一

とにかく怪しいお仕事をナリワイとしている人に突撃インタビューしてみよう!という趣向の本。
読んでるほうは楽しいけど、本人は本当に大変だろうなあ。
なにせ、その怪しいお仕事というのが、悪徳興信所、野球賭博師、お寺売買ブローカー、などなどなど、果ては自分で「寝室覗き屋」まで体験してしまう。
裏世界に生きる人々、というのはなんともいえないオーラを放つようで、確かにその仕事っぷり、語りっぷりは読んでいて面白い。
でも一般人は直接こんな人たちと関わる勇気はないわけで、その仲介を果たしてくれるトロ氏の勇気に拍手!


3月8日

陽気なギャング
陽気なギャングが地球を回す


著者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社(ノン・ノベル)
発行:2003年2月20日
装丁:松 昭教

なんだか妙に軽くてノリが良さそうな「面白オーラ」が発散されていたので迷わず購入、一気読み。
いやー、まったくその印象はドンピシャで、呆れるほど何も考えずに楽しめる純B級アクション。潔いほど読後に何も残らない作品です(褒めてます)。
なぜかわからんが100%他人の嘘を見抜ける男をリーダーに、天才スリ、無駄な雑学だらけの演説名人、秒まで測れる体内時計の持ち主、という漫画のような四人のギャングが銀行強盗からの逃走中、なんと現金輸送車襲撃犯とバッティング! 奪った現金を奪われてしまう。金を取り返すべく、四人のギャングが張った罠とは?
ラストの展開がかなり読めてしまうのはご愛敬としても、なかなか快調な筆捌きで面白かった!
ちきしょう!著者は俺より年下だ!


3月11日

驚異の発明家の
驚異の発明家の形見函

A Case of Curiosities

著者:アレン・カーズワイル
訳者:大島豊
出版社:東京創元社
発行:2003年1月15日
装丁:柳川貴代+fragment

二週間ほどひたすら読んでました。大作です。
十八世紀末のフランスを舞台に、田舎の一人の少年が発明家(エンヂニア)として成長していく人生模様、といってはそれまでですが、そういうとなんかさわやかな話と誤解されそうです。
キリスト教会に背をむけ自動人形作りに精を出す領主のもとで、主人公はエロ細密画入り時計作りを任され、やがてパリで書籍商に弟子入りするも、仕事は本をくりぬいた携帯便器の掃除ばかり。紆余曲折の果てに驚異の自動人形「口をきくトルコ人」を開発!
うーん、わけわからんなあ。モチーフとして面白いネタが無数にちりばめられているのだが、ストーリーの流れが今ひとつスムーズじゃないのでなかなか入り込めない。惜しい!
あ、ミステリじゃないです。念のため。


3月19日

カリスマ大戦争
プロレスVS格闘技 カリスマ大戦争


著者:ターザン山本
出版社:KKベストセラーズ(ワニ文庫)
発行:2002年3月5日
装丁:安居院一展

格闘技ミステリのヒントがちょっとでもあればいいかな、という感じでブックオフで買ってしまいました。
ターザン山本ってそのビジュアルやらわざとらしい煽り方やら(W−1の解説最悪!)気に食わなかったけど、ちゃんと読んでみると結構鋭いことをわかりやすく書いていたりする。
ただ、おそらくろくに構成せずに書きなぐっているような感じなので本としてすごく安っぽい。
もっと腰をすえていい編集者と組んで書いたらいいのに。
一番参考になったのは巻末付録のウルティモ・ドラゴンとの対話でした。プロレスはほとんど見ない僕ですが、闘龍門は最近少し気になっています。
しかしこの表紙のセンス…。


3月19日

夜鳥
夜鳥

LES OISEAUX DE NUIT

著者:モーリス・ルヴェル
訳者:田中早苗
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:2003年2月14日
装丁:井上佳子

日本の探偵小説黎明期(乱歩とかのころね)に翻訳され、彼らに熱狂を持って迎えられたルヴェルが、当時の田中早苗の名訳で復活。
「フランスのポオ」と呼ばれたルヴェルの、ほとんどショートショートとでもいうべき十ページほどの短編群がたっぷり詰まっています。
なかなか雰囲気がよくて楽しめました。やはりこれは翻訳の漢字使いなどにしびれます。
昔の探偵小説読んでて楽しいのはやはりこのおどろおどろした言葉づかいなんだよなあ(当時はそれが普通だったのでしょうが)。
ちょっと鮎川哲也編「怪奇探偵小説集」(ハルキ文庫)を思い出しました。あれはいいアンソロジーです。


3月25日

誘拐の果実
誘拐の果実


著者:真保裕一
出版社:集英社
発行:2002年11月10日
装丁:岩瀬聡

大病院の院長の17歳の孫娘が誘拐された。犯人の要求は、入院中の一人の患者の、医師による殺害。
その患者とは、未公開株譲渡事件の公判中に、急病と称して懇意のその病院に匿われた大会社「バッカス」の社長だった。
誘拐犯にとって最大のネックである身代金の受け渡しがない、という革新的発想に警察は翻弄される。
そしてその直後、神奈川の19歳の青年が誘拐された。犯人の要求は、「バッカス」株7000万円分。
果たして二つの誘拐のつながりとは? これで得られる犯人の「果実」とはなんなのか?
相変わらず調べに調べたディティールと独創的なアイデアでぐいぐい読ませる。
しかし、物語を引っ張っていくという意味での主人公の不在と、独創的過ぎたために段々とひずみが生じて無理がたたってくる後半が苦しい。
あと一歩で本年度ベストクラスの傑作になったのに、惜しい。


3月30日

拳銃猿
拳銃猿

Gun Monkeys

著者:ヴィクター・ギシュラー
訳者:宮内もと子
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫HM)
発行:2003年2月10日
装丁:ハヤカワ・デザイン

年に何度か、新刊を見た瞬間に、「これ、おもろいはずや!」という電波が走ることがある。
内容に関する情報は何もないのに、タイトル、装丁、帯の文句、などなどがこちらのアンテナをちぎらんばかりに掴むわけである。
この本がそう。シンプルでアホ臭いタイトル、「撃て!撃て!撃て!」と三段スライド式に大きくなる問答無用コピー。面白そうなB級スメルがぷんぷんしてるじゃありませんか? してない?
で、内容はというと…。もうこれがそのまんま。とにかく銃の腕は凄い殺し屋主人公が縄張りを攻めてきたギャング相手に撃ちまくって撃ちまくって撃ちまくって撃ちまくってもうええっちゅうねん!というくらいに殺しまくる。
その合間合間のミョーにブラックなギャグも冴え、なかなかの痛快エンターテイメント。
このページ上のほうにある「陽気なギャングが地球を回す」にも共通する、潔いまでの一過性娯楽アクション。
満足じゃ!


3月30日

ウェブ日記
ウェブ日記レプリカの使途


著者:森博嗣
出版社:幻冬舎
発行:2003年2月27日
装丁:鈴木成一デザイン室

森博嗣がウェブ上で公開している日記をまとめたシリーズ第四弾2000年編。
はっきり言って、今の森博嗣は小説よりエッセイのほうがはるかに面白い。
なんに対しても、偏見なくニュートラルな出力がすぐにできる頭のよさが読んでて実にためになる。
「そうか、こう考えればいいのか」と目から鱗がボトボト。
今読むと、2001年から2002年はこうしたい、てのがよく書いてありますが、ほぼすべてちゃんと現実化しているその計画性が恐ろしい。
出版計画も完全に出来上がっており、2001年中に出版される本の原稿は2000年中にすべて書きあがっている。
それにしても100枚の短編を出力するのに六時間程度か…。
自らの能力が悲しくなります。ちきしょう! 自己管理なんてそんな上手く出来ねーよ!(涙)


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