2003年5月


5月1日

汝みずからを笑え
汝みずからを笑え


著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2003年3月10日
装丁:日下潤一
装画:いしいひさいち

まだ読んでます。われながらストーカーのようだ。
しかしさすがにパターンに慣れてきました。
文庫で手に入るのはこれで後一冊。
単行本までは追いません。たまの文庫化を楽しみに待つことにします。


5月1日

と学会年鑑BLUE
と学会年鑑BLUE


著者:と学会
出版社:太田出版
発行:2003年5月20日
装丁:守先正・重実生哉
カバーイラスト:マー関口

あいかわらず間抜け物件を収集し続けると学会のレポート2003年版です。
某原発の広告キャラクター「プルトー君」が面白い。パンフレットの表紙では、かわいい顔して「プルトニウム」というプレート首から下げて大気中をふわふわ飛んでいます。あかんやん!(笑)映像があったのでリンク貼っときます。これがプルトーだ!
また、政府が設置した機関「教育改革国民会議」が作った報告書の凄いこと!河合隼雄や曽野綾子、江崎玲於奈などが参加した機関だが、「団地・マンションに床の間を作る」「子どもを厳しく『飼い馴らす』必要があることを国民にアピール」「バーチャル・リアリティは悪である」などなど、シャレにならない怖いことを言っています。


5月1日

密室殺人傑作選
密室殺人傑作選

THE LOCKED ROOM READER

編者:H・S・サンスッテン
訳者:山本俊子他
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫HM)
発行:2003年4月10日
装丁:ハヤカワ・デザイン
カバーイラスト:谷山彩子

タイトルどおり、密室物の短編集です。
いわゆる本格ミステリにおいて「密室」は超メジャーなシチュエーションで、自分もワクワクするんですが、どうもほんとにすげえ!と思ったものにほとんど出会ったことがないような気がします(「斜め屋敷の犯罪」がいちばんビックリしたかな)。
ここに収められているものも、ほとんどピンときませんでした。
そもそもあまり本格を読んでないし、どれもこれも無理があって、「ふーん」て感想しかないことが多い。
結局、無理は無理として「どう虚飾するか」、ていうのが大事で、短編はそのあたりを突き詰めにくいから難しいんだろうな。
と偉そうなことを言いつつ、実は今書いてるのが密室モノだったりします。あらかじめ言っておきましょう。トリック的にはまったくたいしたことないです(笑)。


5月8日

哲学者かく笑えり
哲学者かく笑えり


著者:土屋賢二
出版社:講談社(講談社文庫)
発行:2001年12月15日
装丁:バッドビーンズ
装画:いしいひさいち

文庫で手に入る土屋賢二は今のところこれで最後です。
「働く女性の意識調査」の方法が笑えます。
これはとにかく幼稚で間違いだらけのニッポンの社会調査に対する強烈な皮肉になっています。
これでしばらく(次の文庫が出るまで)土屋賢二はお預け。楽しみに待ちましょう。


5月8日

セントニコラス
セント・ニコラスのダイヤモンドの靴


著者:島田荘司
出版社:原書房
発行:2002年12月24日
装丁:スタジオ・ギブ(川島進)

映像にタイトルや著者名が何もないですが、これは本来この上に透明なプラスチックのカバーがかかっていて、そこに印字されているのです。図書館がそれを取ってパッケージしたため、こんな表紙になってしまいました。
さて、御手洗モノの中篇です。石岡君と住んでたころのお話です。クリスマスにからめたちょっとハートウォーミングな不可能犯罪モノ。
うん、悪くないです。悪くないが、どうでもいい短編書き下ろして強引に一冊で刊行する根性はどうかと。


5月8日

第三の時効
第三の時効


著者:横山秀夫
出版社:集英社
発行:2003年2月10日
装丁:多田和博

待望の横山秀夫最新短編集。
F県警刑事部捜査一課の面々が活躍する連作です。
何度でも言います。上手い。本当に上手い。ひたすらに上手い。
白眉は表題作「第三の時効」。
殺人事件の時効が切れた直後、犯人は安心して女に連絡をとってくるかもしれない。しかし犯人は逃亡中七日間海外に滞在しており、その間は時効が停止されていたのだ。「第二の時効」までの七日間に犯人は現れるか。さらにそこに楠見刑事が仕掛けた「第三の時効」という罠の正体は・・・。
アイデア、キャラ立て、サスペンスフルな描写、あっと驚くどんでん返し、まさに横山節というべき傑作。パチパチ。
「密室の抜け穴」もまた上手い。
あらゆる方向から張り込みしていたマンションから容疑者が消えうせた。「密室の抜け穴」はどこにあったのか? 会議で責任をなすりあう刑事たち。その会議室に村瀬刑事が仕掛けたものはもうひとつの「密室の抜け穴」だった・・・。
はああ、ため息が出るほど上手い。テーマ、伏線、どんでん返しが完璧に直結している。参りました。


5月8日

ケンブリッジの哲学する猫
ケンブリッジの哲学する猫

THOMAS Gray, Philosopher Cat

編者:フィリップ・J・デイヴィス
絵:マーガリート・ドリアン
訳者:深町真理子
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫NF)
発行:2003年4月20日
装丁:ハヤカワ・デザイン
カバーイラスト:マーガリート・ドリアン

一応ノンフィクション文庫に入っていますが、基本的にフィクションです。
ケンブリッジの学者バカたちの間を優雅に徘徊する猫、トマス・グレイを主人公としたほのぼのストーリー。
哲学や数学の問題を猫の目を通じて解説するような読み物だと思っていたので拍子抜けでした。ま、勝手に思い込んだほうが悪いのでしょう。
でもつまらない本ではなかったです。あっさりと、すっきりと。


5月14日

数の日本史
「数」の日本史

われわれは数とどう付き合ってきたか

著者:伊達宗行
出版社:日本経済新聞社
発行:2002年6月3日
装丁:間村俊一

縄文時代から現代にいたるまでの日本の数学が、どのように独自性を持ち、またどのように大陸、西欧の影響を受けたかを詳細に調べ上げた労作。
著者は物理学者だが、おそらく「数学史」オタクなのだろう。微に入り細を穿つ執拗な調べが実に面白い。
文章もキチンと客観視されて明快なものである。
個人的に、「自己を客観視できるオタク」は人としての理想形と思っているので(笑)、羨ましい限りである。
西欧数学をまったく取り入れずに発達した和算が、円周率を42桁まで計算していたなど、ワクワクしてしまう。
いい本でした。ごちそうさま。


5月22日

お言葉ですが4
お言葉ですが…4 広辞苑の神話


著者:高島俊男
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2003年5月10日
装丁:日下潤一
装画:藤枝リュウジ

さて、大好きなこのシリーズも四巻目が文庫になりました。
芸達者な頑固親父がヘンな日本語をバサバサ斬ります。面白いです。
「数はすべて算用数字で表示」と決めている毎日新聞が「十六文キック」を「16文キック」としたことに怒り、「○○にやさしい」という言葉の裏の意味を訝しみ、太宰の「津軽」新潮文庫版のメチャクチャな注釈に呆れかえり、「しかし」をなぜ「併し」と書くのか高説賜い、「聖人君子」は「正人君子」だと例を挙げて主張する。
なにげない事象が多いが、この人が積み重ねてきたものの大きさがわかります。
はい拍手!


5月22日

反逆の獅子
反逆の獅子

陸軍に不戦工作を仕掛けた男・浅原健三の生涯

著者:桐山桂一
出版社:角川書店
発行:2003年1月25日
装丁:角川書店装丁室

いやはや、こんな男がいたのか。
浅原健三。大正九年、二十二歳にして左翼活動家として八幡製鉄所の大ストライキを指揮、八時間労働制を勝ち取り、政治家へ。日中不戦論者として右左の思想を超えて同じ主張を持つ石原莞爾と意気投合し、戦争をとめるため、政界を裏から操ろうと画策。国外追放されるも、上海で巨万の富を築き、帰国。その資金で再び戦争中止のための暗躍を続けるが、ついには東条英機暗殺計画に関わり投獄。戦後を迎える。
かっこいい! 自分の利害を超えた理想に邁進する、というシンプルで骨太で、そして誰もが出来ないことを生涯やり続けた。
「憂国」。こんな抽象的観念に人生をかけて動ける若者が今どれだけいるのだろうか。
そして浅原の凄いところは、あくまで「空想」ではなく「理想」を追ったところだ。
常に現実を視野に入れて机上の空論に終わらせず、走り続けた。
いや、参りました。拍手。


5月22日

ストロボ
ストロボ


著者:真保裕一
出版社:新潮社(新潮文庫)
発行:2003年5月1日
装丁:新潮社装幀室

小憎らしいほど上手いなあ。
一人のカメラマンの人生の軌跡を、晩年から逆にたどっていく構成の連作短編集。
五十歳の第五章から始まり、二十二歳の第一章で締める。
それぞれきっちりテーマを絞り込んであり、謎もあり、泣かせもある。
相変わらずのディティールの細かさといい、技術的には申し分ないのだが、どうも距離を感じてしまってのめりこめなかった。
なんだか、若き日の主人公が撮っていたテクニックに縛られた写真のような感じだ。皮肉だが。


5月30日

おれは非情勤
おれは非情勤


著者:東野圭吾
出版社:集英社(集英社文庫)
発行:2003年5月25日
装丁:飯田貴子

「非常勤」ではなく「非情勤」です。
ちょっとクールぶった非常勤教師が行く先々の小学校で発生する事件を推理する、ライトなハードボイルド・ミステリ連作。
異色なのは、これが掲載されたのが「五年の学習」「六年の学習」だということ。
かなり子供向けなわかりやすさを追求した、読み応えのないものかなと思ってしまったのですが、違いました。
さすが何でもこなす全方向作家・東野圭吾。まったく手を抜かず、きっちりと大人も納得の完成度です。
さすがに読みやすい文体は意識しているようですが、ネタ的には殺人、放火、不倫なども躊躇せず書いてます。
あまりに読みやすすぎて一瞬で読み終わってしまうのが欠点ですが、文庫なのでまあいいでしょう。なかなかよかったです。


5月30日

顔


著者:横山秀夫
出版社:徳間書店
発行:2002年10月31日
装丁:坂川事務所

今もっともノリノリな作家・横山秀夫の短編集。似顔絵を専門に担当する婦警・平野瑞穂を主人公とした連作です。
警察という保守組織内における女性差別、拳銃配備についての緻密な知識など、相変わらずディティールが実に細かい。
併し今回はどうもいつもに比べて完成度が低めの作品が集まってしまったように思います。
キャラも立ってるし、ストーリーも相変わらずよく練られているし、これといった理由が思いつきません。 たぶん、たまたまでしょう。ま、こんなこともあります。
これまでの傑作群の貯金があるのでまったく評価は揺らぎません。
そういえば、これテレビドラマ化されていますね。まったく見ていませんが。


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