2003年7月


7月9日

もっとコロッケな日本語を
もっとコロッケな日本語を


著者:東海林さだお
出版社:文藝春秋
発行:2003年6月15日
装丁:和田誠

「丸かじり」シリーズはまだおもしろいのですが、こっちの「オール讀物」連載のエッセイはちょっとヤバイですね。
文章に往年のキレがなく、だらだら字数稼ごうとしているのが見え見え。
野菜がリストラされる回なんて昔書いたのとまるっきり同じネタがぽんぽん出てくるし。
何度も何度も、ボロボロになるまで読んだ昔の名作の栄光を、みずから貶めるようなことをしないで欲しい。
キツイことをいいましたが、愛ゆえです。


7月9日

疑似科学と科学の哲学
疑似科学と科学の哲学

Philosophy of Science and Pseudo Science

著者:伊勢田哲治
出版社:名古屋大学出版会
発行:2003年1月10日
装丁:?

科学哲学の入門書。これはオススメです。おもしろかった。
科学哲学とは、その名のとおり科学とはなんやねん、というようなことを科学そのものから一歩離れたところからこねくり回して考える哲学のことで、本書ではそのために、では科学ってどこからどこまでや?という「線引き問題」を疑似科学を例に用いることによって語ることをその中心的な論にしている。
疑似科学とは、まあ普通では正当な科学とは認められないもので、超心理学、創造科学、代替医療、占星術などである。
しかし、例えば数百年前では天文学者は占星術師であり、天動説はスタンダードな「科学的見解」であったわけで、その時代時代で「科学」の線引きは変わるものである。
鍼灸医療なども、(現在的パラダイムでの)科学的な証明は得られていないし、しかしそれを信じて、効果がある人もいることも事実であり、ならばこれは科学でないのか? という疑問も生じるだろう。
この本では、これらの諸問題からまったく逃げずに、社会学的見地、統計学的見地、論理学的見地から可能な限り平易に解説することを試みており、それは成功している。
もっとも、どうしても専門的にならざるをえずに、難しい部分もあるが、それは当たり前なのである。
よく、「三時間でわかる〜」とか「サルでもわかる〜」などの本があるが、そんなもんで楽に分かるわけはないのである。
この本はそんな「わかった気にさせる」ための本ではなく、誠実に、読者の「勉強の必要」を求めた良書なのであった。


7月18日

阿修羅ガール
阿修羅ガール


著者:舞城王太郎
出版社:新潮社
発行:2003年1月30日
装丁:新潮社装幀室

うーむ、すごいぞマイジョウ!
講談社ノベルスというコアでマニアックな世界から、ついにブンガクの世界へ殴り込みをかけてきた。
これが凄い。まさに天才の所業。
現実とか、仮想世界とか、夢とか、リアリティとか、小説作法とか、常識とか、そんなすべての「小説的世界」に対する問答無用の暴力的侵略であり、まさに確信犯的テロ行為。
それだけなら単なるアバンギャルドな文学なのだが、この作品の凄いところは、まさに極上のエンターテイメントに仕上がっているところ。
普通の「ちゃんとした傑作」を読むと、その才気に感動したり嫉妬したりするのだが、こんなメチャクチャな「天才の迸り」に対しては、もう距離を置いてひれ伏すしかない。
では改めて。マイジョウ天才!


7月18日

捕虜収容所の死
捕虜収容所の死

DEATH IN CAPTIVITY

著者:マイケル・ギルバート
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:2003年5月16日
装丁:岩郷重力

第二次大戦下のイタリア、捕虜収容所内のイギリス兵たちは、密かに脱出用のトンネルを掘り進めていた。
ところがある日、そのトンネルの奥でスパイ疑惑にあった捕虜の他殺死体が発見される。
トンネルの入り口はカムフラージュのため、四人がかりで器具を使って引っ張り揚げないと開かない食堂の床。誰にも気づかれず死体を遺棄するのは不可能な状況だった。
果たして誰が殺し、どうやって死体を運び込んだのか? また、捕虜の大脱走劇は成功するのか?
というお話です。なかなかおもしろそうでしょ。
実際、脱走のための捕虜の綿密な役割分担、イタリア側との駆け引きなど、本格ミステリとしてだけではなく、純粋に読み物として楽しい。
しかしあちらさんは、捕虜といっても優雅な待遇ですねえ。演劇やったりラグビーやったり、暇だから脱走のアイデア練ってる(イタリア側も半ば承知)って感じで、ミョーにのどかな感じがしました。


7月23日

科学史年表
科学史年表


著者:小山慶太
出版社:中央公論新社(中公新書)
発行:2003年3月15日
装丁:?

ま、その名のとおりの本です。
十七世紀から現代までの、主に、物理学、化学、天文学、生物学のトピックを、簡単なエッセイ風の解説をつけてずらずらと記述しています。
こうやって四百年分を俯瞰してみると、科学の進歩に加速度がついていく様子がよくわかります。特に二十世紀に入ってからは怖いほどです。
そして、昔の人が結構凄いこと考えていたのも、素直に感動します。十七世紀に光速度を測定していたなんて(間違ってたけど)!


7月23日

完全探偵マニュアル
完全探偵マニュアル


著者:渡邊文男
出版社:徳間書店
発行:1995年8月31日
装丁:植野浩二

いろいろ参考になることがあるかと思い、読んでみました。
いや、探偵はじめるわけじゃないですよ。
あ、でももしかしたら将来やるかも。どうでもいいですか。
著者はプロの探偵で、この業界最大手の探偵社の創業者。
イロモノかと思いきや、わりと真摯な本で、丁寧に探偵術をレクチャーしてくれます。
一家に一冊備えておきたい本ですが、今絶版なんだよなあ。
もう図書館に返してしまいました。文庫化希望。


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