2004年2月


2月11日

鈴木晃
裏ビジネス 闇の錬金術


出版社:講談社(講談社+α文庫)
装丁:鈴木成一デザイン室
発行:2003年3月20日
ISBN:4-06-256716-4
定価:680円

総量規制により崩壊したバブル経済。
混乱する日本経済界に雨後のタケノコのごとく登場した裏の新商売たちの実態をルポしたものです。
目次をざっと見ただけで恐縮屋(恐喝じゃないよ)、身分証偽造、軽油密造、海上ラブホなどワクワクする商売が目白押し(笑)。
ちなみに恐縮屋とは、バブルが崩壊して債務が払えなくなった人に成り代わり、債権者の前で土下座する商売です。
ただひたすら、「申し訳ございません」と何時間と土下座し続ける。債権者に殴られても蹴られてもただ土下座するのみのだ。要するに債権者があきらめて帰ってくれるのをひたすら待つ、というメチャクチャな商売。ひたすらに土下座する姿を見て、あきらめるだけでなく、「誠意は分かった。頑張れよ」と声をかけていく債権者などもいるらしい…。そしてみなが去ったあとに、債務者から報酬をもらうわけだ。
海上ラブホとは、クルーザー買った成金が、バブル崩壊で維持できなくなって、キャビンをラブホ代わりに貸してしまう、というなんともトホホな商売。
これは面白い一冊でした。混乱期にはどんな小さな隙間にも巧みに入りこんで儲ける人がいるんだなあ。


2月11日

横山秀夫
看守眼


出版社:新潮社
装丁:新潮社装幀室
発行:2004年1月15日
ISBN:4-10-465401-9
定価:1700円

横山秀夫、さっそく今年一発目の新刊です。
いつもながらの短編集。
刑事に憧れ、警官になるも、ついに留置所の看守で終わった男。拘留された容疑者を見続けたその眼が捉えた未解決事件の真実。引退してはじめて「刑事」として真実を追う、という表題作のほか、粒ぞろいの短編が並びます。
しかし、今回は、少しだけ切れ味が鈍かったように思う。
いつもの絶妙の伏線の張り方、「なるほどー!」と一人で読んでても大声出してしまう衝撃の展開が、大人しめでした。
それにしても、毎回毎回きっちり調べて書いてますね。これはホントに脱帽します。
ハッキング、テレビ局スタッフ、県知事、その秘書、離婚調停委員など調べただけじゃなく、キチンと咀嚼してキャラに溶け込ませて描写しているのが素晴らしいです。


2月20日

渋谷知美
日本の童貞


出版社:文藝春秋(文春新書)
装丁:坂田政則
発行:2003年5月20日
ISBN:4-16-6603161-7
定価:760円

今書いている話の資料といえば資料です。
主人公がマゾヒストの童貞、というだけなんですが(笑)。
日本において、童貞に対する評価がどう変遷したかをめぐる論考です。
なかなか面白かったです。
男の貞操が放縦だった頃に「妻にささげるために純潔を保持する」とした1920年代の学生達の動きから、「童貞は恥ずかしい」となった80年代、そして現代の童貞再評価(?)まで、大量の雑誌文献などからトピックを掘り下げていきます。
惜しいのは、著者も書いているが、引用される統計が怪しくて、有意とは認めにくいものが多いこと。性に関する統計は難しいのです。
それを前提に論考するよりは、著者自ら統計に乗り出して欲しかったところです。
まあしかし、なかなかためになる一冊でした。


2月27日

フロイド・E・ブルーム 他
新・脳の探検(上・下)


BRAIN,MIND,AND BEHAVIOR

訳者:中村克樹・久保田競
出版社:講談社(ブルーバックス)
装丁:芦澤泰偉・児崎雅淑
発行:2004年1月20日
ISBN:4-06-257461-4(上)/4-06-257432-2(下)
定価:2000円(上)/2000円(下)

はあー一月かかってようやく読み終わりました。
これはすごいです。早くも今年のノンフィクションベスト候補。
文字通り、脳の機能について、徹底的に細かく、可能な限りわかりやすく描いたもので、特徴的な事象をトピックとして抽出した凡百のブレインサイエンス本とは違い、基礎の基礎から脳についての何もかもを叩き込んでくれます。
なんせブルーバックスという新書シリーズなのに、上下合わせて4000円。これだけでその密度が知れましょう。
カラー図解も豊富で、取っ掛かりの敷居の高さを越えれば、後は目くるめく面白さです。
「新」とついているように、これは以前出た本の改訂版ですが、脳科学は日々急速に進化しているので、ほとんど別の本となっているようです。
いろいろ教えてもらいましたが、恥ずかしながら初めて知ったのが、いわゆる「同性愛」は、心理学的、学習経験的なものである、という説はほぼ否定されていて、脳の異常(それも幼い頃からの)によって引き起こされている、という事実です。これは衝撃でした。
その他さまざまなネタを拾わせてもらいました。いや、ホントに楽しかった。
これは、これから数年はブレインサイエンスのスタンダードとなる本でしょう。


2月27日

高島俊男
本と中国と日本人と


出版社:筑摩書房(ちくま文庫)
装丁:南伸坊
発行:2004年2月10日
ISBN:4-480-03916-3
定価:950円

偏った本の読みかたしかしていないのはわかっていますが、僕が知る限りでは、高島俊男の文章がいちばん上手いと思います。
流麗というのは、少し違う。くいっと読者を引掛けて自分の領域に引きずり込む。
その手管がなんとも小憎らしいほど上手いのです。
莫大な知識があるが、それをアピールするような野暮はしない。
これは中国関係の本の書評集ですが、紹介されている本がどうとかより、高島さんの筆捌きにただただ感嘆してしまいます。
ボロクソに貶すときがまたいい芸なんです(笑)。


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