2004年5月


5月23日

横山秀夫
臨場


出版社:光文社
装丁:岡本健
発行:2004年4月20日
ISBN:4-334-92429-8
定価:1700円

ちょっと仕事しすぎでアベレージの低下が気になっていた横山新刊ですが、これは面白かった!
初動捜査に当たる検死官を主役に、相変わらず少ない枚数での驚異的なキャラの書き込み、綿密な伏線、驚愕のどんでん返しというむちゃくちゃな完成度を持つ短編がキラキラと並んでます。あーもう幸せ!
白眉は「餞」。詳しくは書けませんが(実は読んでだいぶたつので忘れた)、もう騙された上にラストはウルウル。名作です。
このキャラならいくらでもこれから引っ張れるだろうに、この一冊できっちりとシリーズを終わらせようとしている意志も潔くていいです。
いわゆるハードボイルド、というものとは違うんだけど、この切り詰めたストイックさは行間にたまらない哀切が漂って、とにかく問答無用にカッチョイイですね。お勧めです。


5月23日

森達也
池袋シネマ青春譜


出版社:柏書房
装丁:?
発行:2004年3月
ISBN:4-7601-2496-9
定価:1600円

今一番のお気に入り作家、森達也。今回は自身の青春時代を回顧した私小説。
大学で自主映画サークルに入り、演劇団体に所属する森の、誰の若き日にも思い当たるような哀愁が漂うモラトリアム時代の甘い描写がたまらない。
個人的に、僕はもう10〜15年ほど早く生まれたかった、と常々思っていて、それは要するに70年代に青春を過ごしたかった、ということなのです。
なぜか僕はこの時代の風俗とすこぶる相性がいい。めちゃめちゃ好きなんです。
そんな僕にバーチャルな70年代体験を与えてくれました。
森と映画サークルで同学年だった黒沢清から電話が入るところから物語は始まります。
「いま、『太陽を盗んだ男』て映画に関わってるんだけど、明日出てくれないか? ジュリーに間違われる役なんだ」
これでメジャー役者になれる、なにしろあのジュリーと間違われる役なんだ、と舞い上がる森(笑)。
いいですねー、たまりません。そのほか、この時代に既に活躍していた人、駆け出しの新人、いろんな人が森の前を通過します。ざっと上げるだけで、長谷川和彦、相米慎二、石井聰互、阪本順治、三田村邦彦、東京乾電池、シティボーイズ、コロッケ、佐野元春、などなど。
ツボ押されまくりです。面白かった。そしてせつなさもあり。


5月30日

森博嗣
四季 春・夏・秋・冬


出版社:講談社(講談社ノベルス)
装丁:辰巳四郎
発行:2003年9月5日(春)/2003年11月5日(夏)/2004年1月8日(秋)/2004年3月5日(冬)
ISBN:4-06-182333-7(春)/4-06-182339-6(夏)/4-06-182353-1(秋)/4-06-182363-9(冬)
定価:すべて800円

デビュー作「すべてがFになる」のキーキャラクター、真賀田四季をメインにした四部作にして、森博嗣の集大成的な作品となりました。
ある意味、真賀田四季は狂言回しで、森博嗣はこれまでの作品を通じて「天才」というものを表現したかったのではないでしょうか。
すごいです。
S&Mシリーズ10作、Vシリーズ10作という長大なシリーズを完璧にまとめ上げ、実はシリーズ通じて丸ごと張られていた伏線が明らかになり、さらにはまったく別世界の話と考えられていたSFミステリ「女王の百年密室」シリーズにまで広げていきます。
やられました。ここまで考えていたとは…。
これまでの読者のためのボーナストラック、と位置付ける評価もあるようですが、そんな簡単なものじゃないでしょう。
もはやミステリという枠は消え去り、ただ一人の天才が残された。その余韻を楽しみましょう。


5月30日

麻耶雄嵩
名探偵 木更津悠也


出版社:光文社(カッパ・ノベルス)
装丁:北見隆
発行:2004年5月25日
ISBN:4-334-07564-9
定価:819円

おっと麻耶雄嵩、久しぶりですねー。「木製の王子」以来じゃないですか?
この人は新本格作家の中でも群を抜いてひねくれた発想を持っていて、メチャクチャ好きなんです。今回は短編集。
なにがひねくれてるって、彼の創造した二人の探偵(とワトソン役)を見ればわかります。
一方の雄、メルカトル鮎はまず名前がひねくれている(笑)、そしてなんとシリーズ一作目で死亡(以降は過去をさかのぼる)!
彼は絶対者としての探偵像の極北におり、神(=作者)から与えられた特権を当然のごとく行使できる立場にあるのだ。
そしてもう一方の雄、今回の主役である木更津悠也は、相対者としての探偵像の極北といえる。どういう意味かというと、ワトソン役の香月のほうがはるかに頭がいいのである(笑)。
ただ、「名探偵」たる資質が自分にないことを自覚している香月は、その意味で華のある木更津にそれとなくヒントを与えて解決させるのである。
そんな探偵たちが活躍する世界観もどう設定されているのか意味不明で、真夏に雪が降り、当たり前のごとく幽霊が登場する。もうわけわからん。で、そこが最高に面白い。
しかし、今回は短編ということもあって、いつものぶっ飛びっぷりは抑えられ、端正な印象。ちょっと物足りなかった。
「夏と冬の奏鳴曲」「鴉」クラスの超大作をガツーンと読ませて欲しいものです。


5月30日

森博嗣
数奇にして有限の良い終末を


出版社:幻冬舎
装丁:鈴木成一デザイン室
表紙イラスト:萩尾望都
発行:2004年4月30日
ISBN:4-344-00612-7
定価:1900円

「四季」を褒めたばかりで何ですが、森博嗣の真価が一番凝縮され、そして一番面白いのがこの日記シリーズだと思います。
今回は第四弾、2001年の日記です。これは公開し、商売にすることを前提とした森博嗣の「仕事」であり、そのために自身に高いハードルを課して書かれ続けたものです。
とにかく、随所に「新しい視点」が意識されていて、含蓄であふれ返ってます。素晴らしいです。
こんなこと僕にはできまへん。
残念ながらこの2001年を持って日記は終了しました。お疲れ様でした。


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