ふしぎなお客
窓の外には、まん丸なお月さんが姿を見せました。
「さて、そろそろかたづけるとするか」
マスターは、お湯を沸かしている火を止めました。ポッと火が消えると、窓辺の月明かりも消えたのです。
「おやおや? 今日は、お月さんも店じまいかな?」など思っておりますと、カランカランと入り口のベルが鳴りました。
「すみません。お茶を一杯いただけませんか?」
でこぼこ肌のまん丸顔をしたその人は、なぜかなつかしい感じがしました。
「さぁさ、こちらにかけてくださいな」
マスターは、そう言うと、急いで、ティーポットを温めました。そうしていつもどおりに、ていねいに紅茶をいれました。
「いつもこの前を通るんですよ。いーい香りがただよってきてねぇ。だからどうしても一度、ここでお茶を飲んでみたかったのです」
マスターはニッコリとほほえんで、紅茶をさしだしました。
まん丸顔のお客さんは、満足そうに、最後の一滴まで紅茶を飲みほしました。
「お礼に、これをどうぞ」
まん丸顔のお客さんは、そう言うと、テーブルにたくさんのおもちをおいて、出ていきました。
マスターが不思議に思って、おもちをながめておりますと、窓辺にポッとまた月明かりがともりました。そしてお月さんには、おもちをつくウサギの影が映っていたのでした。
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