銀の鈴
「こんなところに、お星さまが、いっぱい!!」
なつみが見ているのは、野原一面に咲く、たんぽぽでした。
みどりの中に、小さなかわいらしい黄色いたんぽぽが、あちこちに咲いているようすは、まるで、野原に光るお星さまのようだったのです。
「これは、きっと、お星さまの子供なんだわ。」
なつみは、ものすごい大発見を、したと思いました。
そして、お星さまの子供が、いつ空にのぼって、お星さまになるのかを、毎日、ちゃんと見はりをしなければと思いました。
けれど、見はりが、できるのは、お昼の間だけです。
夜は、一人で、公園に来ることはできません。
なつみは、何かいい考えがないかしらと思っていました。
そのとき、「チリリ、チリーン」とかわいらしい音が、聞こえてきました。
近くのベンチに座っている、おばあさんのほうから聞こえてきます。
それは、おばあさんのかばんについている、小さな銀の鈴の音でした。
なつみは、とってもいいことを、思いつきました。
「あのぅ、その、鈴、もらえないですか?」
勇気を出して、おばあさんに聞いてみました。
「いいけど、どうしてこの鈴がいるのか教えてちょうだい。」
おばあさんは、小さな女の子の、とつぜんのお願いが、うれしかったのです。
なつみは、しばらく、うつむいて考えこんでいましたが、おばあさんの顔をのぞきこんで、耳もとでささやきました。
「あのね・・・ないしょだよ! あそこにある、お星さまの子供につけるの。そうしたら、夜に、お空にのぼって、行く時が、わかるでしょ。」
そう言って、なつみは、たんぽぽの花を指さしました。
「まぁ、素敵! じゃあ、いっしょに、この鈴をつけましょう。」
なつみとおばあさんは、たんぽぽの花に、小さな銀の鈴を、むすびました。
風にゆられてたんぽぽにつけられた鈴は「チリリ、チリーン」とかわいらしい音を、ひびかせていました。
「あのね、これは、おばあちゃんとなつみの、二人のひみつだよ!」
おばあさんは、二人のひみつと言う言葉がとてもうれしかったのです。
「はい、はい。約束するよ。」
二人は、約束すると、それぞれのうちに帰っていきました。
約束をしてから、何日かがすぎました。
なつみは、毎日鈴をつけた、たんぽぽをしっかりと、見はっていました。
「きっと、そろそろ空に、のぼっていく時だわ!」
たんぽぽの花は、ふんわりとした、わたぼうしにかわっていたのです。
まわりでは、みんなが楽しそうに、あそんでいます。
なつみは、ほんとうは、みんなと遊びたかったのだけど、がまんしました。
ふわふわ、わたぼうしのたんぽぽは、今にも、空に飛び出していきそうです。
おばあさんは、なつみが、あんまりにも、いっしょうけんめい、見はりをしているので、心配になってきました。
「どうか、銀の鈴が空にのぼって行きますように」
おばあさんは、なつみにないしょで、お祈りをしました。
その日の夜、なつみは、おふとんに入ってからも、耳をすませて、鈴の音がしないか、聞いていました。
すると、「チリリ、チリーン」とかわいらしい鈴の音が聞こえてきました。
なつみは、おおあわてで、まどをあけました。
わたげになった、たんぽぽが、小さな銀の鈴をつけて「チリリ、チリーン」と空にのぼっていきます。
「やっぱり、お星さまの子供だったんだわ!」
なつみは、いつまでも、空にのぼっていく小さな銀の鈴の音を聞いていました。
「チリリ、チリーン」おばあさんにも、鈴の音がとどきました。
「さて? 鈴虫の季節にはまだ早いわね。まさか、あの鈴の音かしら?」
おばあさんは、どきどきしながら、まどの外をのぞいて、びっくりしました。
「あらま! ほんとうに空にのぼってるわ!」
それから、くすりとわらって、言いました。
「長い間、生きていたけど、たんぽぽが、お星さまの子供だったなんて、はじめて知ったわ。」
おばあさんも、いつまでも、小さな銀の鈴の音を聞いていました。
やがて、空高くのぼった、鈴の音は、聞こえなくなりました。
夜空には、小さな星が、いつもよりもたくさん、かがやいていました。
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