ママのなみだ
「ねぇねぇ、あした ゆうえんちに つれていって!!」
あさこは、てあしを ぱたぱたさせて おおごえで だだをこねました。
むりなことは わかっています。
ママは、あしたも おしごと。
ほんとうは、わかっているのです。
わかっているのだけれど……。
「あさこ、あしたはだめよ。こんどかならず つれていってあげるから。 ね! おねがいだから わがまま いわないでちょうだい」
こまりはてたかおを しているママ。
「やだ! あしたじゃあなきゃだめ!!」
あさこは、ひきさがれません。
「あさこ おねがいだから いいこに してちょうだい」
あさこは、むねのおくが きゅうっと あつーくなるのを かんじていました。
あついものが いまにも ばくはつ しそうになるのを ひっしで こらえていたのです。
それなのに、ママは もっと いいこに して といいます。
「ママなんか ママなんか だいっきらい!!」
とうとう しまっていたことばが、ぽろりと とびだしてしまいました。
しまった! とおもったけど もう もどれません。
「いつも、いつも しごとばっかり! あさこは、いままで ずっと いいこに してたのに! いいこに していても、ちっとも いいことなんか ないんだもん。 ママなんか だいきらい!!」
いままで がまんしていた ことばが、つぎつぎと とびだして しまいました。
ママの めからは はらりと ひとつぶの なみだが、こぼれおちました。
きれいな しんじゅだま みたいな なみだのたま。
ママは だまって だいどころへと いってしまいました。
あさこは なみだのたまを こわさないように そろりと つまみあげました。
どうしよう……。
あさこは ほんとうは ママが だいすき。
ママを こまらせる つもりじゃあ なかったのです。
どうしよう……。
すると あさこの てのなかで、なみだのたまが むくむくと おおきく なってきました。
どんどん どんどん おおきくなって とうとう あさこの かおと、おなじくらいに。
おおきくなった なみだのたまは ふぅわりと うかびあがりました。
シャボンのように、なないろに かがやく きれいな なみだのたまの なかに ママのこころが ありました。
よくみると ママの こころには、ちいさなとげが ささっています。
「ママなんか だいっきらい!」
って とげが ささっているのです。
どうしよう……。
あさこは いっしょうけんめい とげを ぬこうとしました。
けれど なみだのかべが、じゃまをして とげに てが とどきません。
あさこの こころも ちくんと いたみます。
「ママ ごめんね。ごめんね」
あさこの めからは なみだが ぽろぽろ。
こぼれおちた あさこの なみだは、ちいさな こびとに かわっていきます。
こびとたちは ママの なみだに するりするりと はいっていきました。
「よいしょー こらしょー」
いっしょうけんめい とげを ひっぱる こびとたち。
「よいしょー こらしょー」
それでも とげは、ぴくりとも うごかきません。
「がんばって! こびとさん!」
あさこは きゅっと てを ぐーにしました。
「おねがい がんばって!」
とげが くらんと うごきました。
もうすこし。もうすこしなのです。
「ママ ごめんね。 ほんとうは ママ だいすき!」
とつぜん のどの おくに ひっかかっていた ことばが、とびだしました。
ポン!
とげは いきおいよく ぬけて なみだのたまも こびとたちも はじけて きえてしまいました。
びっくりしていると ママが あさこの かたを ポンと たたきました。
「ごめんね。 あさこ ごめんね」
ママの やさしく あたたかな てが あさこを つつみこみました。
「ママ あした おしごとを おやすみするから ゆうえんちに いきましょう。とびきり おいしい おべんとうを つくってあげる」
それから あさこは ママと おおきな おおきな てるてるぼうずを つくりました。
「あーした てんきに なぁーあれ!」
あさこは、こっそり てるてるぼうずに やくそく。
「あしたから ほんとうに ちゃんと いいこになるからね」
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