今宵 星のかけらを探しに行こう
舟はもう銀河に浮かんでる
願い忘れたことがあったから
もう一度 向かい合わせで恋しよう


星のかけらを探しに行こう





その日はすぐにやってきた。
気づいているかどうかわからないけれど、その日の店などの手配は全てゾロがすると言ったので任せることにした。私の知らない間のゾロがどんな店を選ぶのか、正直怖くもあるが、楽しみでもある。
どんな感じの店か聞くと驚きも半減なので、その日着ていく服装には頭を悩ませた。半日は仕事をしているので、仕事着が前提だ。だけど、今日はちょっと女らしさも見せたい。そうは言っても、連れて行かれた店が赤ちょうちん系の店だったらそう気張った格好は浮く。そういった場合のことも考えるとそうそうドレッシー系にもできない。またもしゾロがその日がどういう日かという事を覚えていてくれていて、尚且つそれを祝ってくれる気持ちが店選びに生かされた場合は、やはりお洒落した姿でと思うし。
あれこれ悩んで考え出した服装は、エメラルドグリーンのノースリーブのリボンタイシフォンブラウスにライトグレーのスーツ。スカートはタイトではなくマーメード型のものだ。
エメラルドグリーンのブラウスは色を見て一目惚れした逸品で、程よい透け感が堅めのスーツを女らしく見せてくれるだろう。
これらに、いつもより若干高めなヒールの黒のバックスストラップと黒の大ぶりの鞄を持った。
鏡に映った姿はいっぱしのデキキャリだ。中身もそうだと言い切れないのが悔しいけれど。
会社にこの格好で行ったらやはりちょっとした話題だった。
こうした華やいだ雰囲気を見せることを普段は余りしないから仕方がない。
気の置けない同僚からは、
「おや〜?今晩はデートかなあ〜?」
などと聞いてくるので、それにはとびっきりの笑顔付きで
「そうよ、デートなの!」
と返した。
そう、今日は待ちに待った、ソロとのデートなのだから!


ゾロとの待ち合わせは思っていたよりスムーズだった。
お互いやはり社会人だから急な仕事で時間がずれ込むかな?と思っていたのに、ほぼジャストで彼は現れた。
「ごめん遅れて」
何とか間に合うように走ったのだろうゾロに、
「ううん、私も今着いたところだから。」
といいつつハンドタオルを渡した。30分も前に着いていたのは仕事がたまたま定時に終われただけだから。
「で、今日はどんな美味しいものを食べさせてくれるのかな?」

ナミはやっぱり綺麗だった。
記憶にあるよりより自信に満ちた顔をしている。格好もいっぱしのOLだ。
今日のセレクトに間違いがないと良いが。
不安に思いつつナミを予約した店へと誘った。

ゾロが連れて行ったお店は高層ビルの上階にある、魚料理が美味しい洒落た居酒屋だった。
肩ひじばらず、かといってオッサン過ぎない。そして私たちに分相応な雰囲気。
ゾロもそこそこわかる大人になったんだなあ、と思った。
まずは生中で乾杯をした。
その後は美味しい魚の刺身や煮付け、野菜料理や鶏の唐揚げなどを注文した。それらをあてにして、飲み放題にしたことをいいことにガンガン飲んだ。
話は前回と違ってお互いの今の生活について。
あれからの二人の間を埋めていく。但しあの別れにはまだ触れない。あの話はもっと閉じられた二人だけの空間で話すものだから。
互いに社会人になって今まで、想像していた通りだったり違っていたり。他人が聞いたら面白くもなんともないだろうが、二人にとっては大事で楽しい時間だった。
美味しい料理。
気兼ねなく飲める酒。
そして目の前にゾロ。
こんな幸せな誕生日を迎えられるなんて、少し前では想像できなかった。


きっと 近すぎて 遠すぎて
少しずつ見えなくなった
だけど今 素直になれる気がする




楽しい時間だった。
目の前にナミがいると、どれだけ酒が美味しくなるか。安い飲み放題の酒なのに極上の酒を飲んでいるようだ。
いつまでもいつまでも、こうしていたいのに、現実はやってくる。
店員が飲み放題のラストオーダーを聞きに来た。
最後の酒を注文した後、オレは用意していた紙袋をナミに渡した。
「ホイこれ。」
「え?何?」
「い、いや、今日ってオマエ誕生日だったろ?だからそう、何だ。」

ゾロが誕生日を覚えてくれてた。
それは私の血液が一気に沸点に達するぐらい高揚してしまった。
興奮しつつゾロが渡してくれた電気屋の紙袋の中身を探り、包装を解いた中身はデジタルフォトフレームだった。
そんなに写真好きでない私にフォトフレーム。その真意は何?深読みしていいの?

ふたり 夏の星座をくぐりぬけて
光の波間に揺られてる
話し足りないことがあったから
もう一度 向かい合わせで恋しよう





あえて真意は聞かずに感謝の意を告げた。
確かにしないものもあっていい。
今までの過去もこれからの未来も二人で残して、二人で確認していっていいよね?
楽しかったあの日々も辛かったあの年月を経て一層輝いたものになった。
だからこれからも・・・

ずっと そばにいる 愛してる
君だけを感じていたい
誰よりも大切だってわかった





会計を済ませ店を出た。
まだまだ話し足りない、別れ難いのに次の一言がいえない。
だがそっと手を差し出すと、ナミはすかさず握り返してきた。
改札前まで無言で手をつないで、さあ、いい加減に次の一言を、と焦っていたら
「ゾロの新しい部屋見てみたいな。今から行っていい?」
やはりオレ一人では上手く人生渡って行けない。
これからもナミに人生の航路をナビゲートし続けてもらおう。
ナミが嫌になっても、もう絶対手放すものか!

ゾロの部屋へ向かう道すがら、今度はきちんと色んなことを向かい合って進めていこうと心の中で思った。
恋は向かい合ってするものだから。

だから 星のかけらを探しに行こう
舟はもう銀河に浮かんでる
願い忘れたことを届けたい
静かに見つめ合ってね
星のかけらを探しに行こう
舟はもう銀河に浮かんでる
願い忘れたことがあったから
もう一度 向かい合わせで恋しよう
今度はもっともっと素直になれるよ
もう二度とふたりはぐれないように・・・






Inspire by 福耳『星のかけらを探しに行こう Again』
大好きな曲です。
一応一歩進めたでしょう?今年の希望は叶いました。
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