輔星




千陽号に突然あるブームがやってきた。
発信源はいつものようにウソップだったが、その波は瞬く間に全クルーに広がった。

このブームについて発信元であるウソップは、
「今まで知らなかった自分が恥ずかしいです!」
と語り、ルフィとチョッパーはそんなウソップの言葉に大きく頷いて同意している。
普段こんなブームには乗らない19'sもおおっぴらではないが楽しんでいる様子。
千陽号に咲く大輪の花の二人もかなり嵌まっている。
このブームに最後に乗ったブルックはその元を手に取りじっと眺めた。
「これが噂の北斗の拳ですか〜。」
「そうだ。オレ様の人生の書の一つだな。
 この船を作った時、図書室の隅にこそっと全巻仕込んどいたんだが、あいつらようやく見つけたようだな。」
「そうですね〜。見つけた日ウソップさん寝食忘れて読み耽っておられましたねぇ。」
「まあな、スーパーな本は一度読み出すとなかなか止めれねえからなあ。」
「そうですか。」
「そうとも、いい漫画はなあ、麻薬みてえなモノさ!」
「そういうものですかぁ」
「ああ、でおめえはこれからか?」
「ハイ!やっと私の番になりましたので。じっくり楽しませていただこうと思ってます。」
「おう!存分に堪能しやがれ!」


千陽号における北斗の拳ブームはとてもアツかった。
「お前はもう死んでいる」といってよくわかっていない場所を秘孔と見立てて突いたり、胸に7つの傷があるTシャツを作ったりといった表に出たものもあれば、主人公たちに触発されてよりトレーニングを強化した者もいたりした。

そんなブームの中ある夕食の席でチョッパーがいった言葉から事は起こった。
「ねえ、ねえ、皆死兆星って見える?」

皆ふと自分の記憶を振り返る。
すると、ルフィやウソップが、
「オレ見えるぞー。もうすぐ死ぬのか?オレ〜???」
といって騒ぎ出す。その騒ぎを止めに入ったサンジも「オにも見えてたっけ?」と思っているのか少し顔色が青くなっている。
そこにナミの冷静な一言が入った。
「このメンバーは大概見れてると思うわよ。皆視力良いから!」
「そうね。あの死兆星って北斗七星のミザールの伴星アルコルのことですものね。
 あの星は昔戦争に借り出す徴兵用の視力検査に使われていたのよね、確か。」
「そうそう。だからあの星が見えると戦争に借り出されて自然と死ぬ確率が上がったという。そんな話から武論尊先生が死兆星という名をつけてああいったエピソードに上手く使ったのよね。」
「そうそう、レイとマミヤの話は本当に良いわね。二人はどうなったのかしら?」

と北斗の拳の中の恋バナの一つである、レイとマミヤのことで盛り上がる女性陣についていけない男性陣は、そんな盛り上がりを見て逆に冷静になってさっきの動揺も収まったのか、
「じゃあ、オレ達が死兆星見えてても良いんだよな!」
「そういうことになる、な。」
「射撃するのに良く見える目ってのは重要だもんな。
 所詮マンガはフィクション、フィクション。」
「良かった〜。オレ自分が馴鹿だから、オレだけ見えてるのか?って思っちゃってたんだ〜。
じゃあ、フランキーとブルックはどうなの?サイボーグとヨミヨミの実人間だよね?」
チョッパーが科学者らしく疑問を年長者たちに投げかけた。

「オレは戦闘用に目をちょいちょいいじっているから見えるぞあの星。
まあスーパーなオレ様はいじる前から見えてたけれどよ。」
「そうなんだ、じゃあ北斗の拳を読んだ時、心配にならなかったの?」
「そりゃあ、心配したさ。あれはオレの青春時代のバイブルの一つだからよ。
あの星が見えるってわかった時はなかなか寝れなかったぜ。」
「いつ、その心配は消えたんだ?」
つぶらな瞳で次々と質問をぶつけるチョッパーを可愛いなあ、と思ってフランキーはポンポンとチョッパーの頭をたたいた。
「友達が理路整然と説明してくれてオレを納得させてくれたんだよ。」
「そうなんだ〜。」
「おう。」
答えるフランキーはどこか遠くに思いを馳せたようだった。

「で、ブルックは?」
「ハイ?私ですか?」 「うん。見れるの?見れないの?どっち?」
「そうですね〜。まず私目の玉ないですからねえ。
こうして今自分が見ているものが正しいかどうか、本当は自信が無いんですよ。」
何か恐ろしい真実が出てきそうで恐怖に駆られながらもチョッパーはさらに尋ねた。
「ええ?????
 じゃあ、ゾロの髪の色は何色だ?ナミのは?ねえねえ?」
「聞きたいですか?本当に?真実を?」
「う、うん。」
泣きそうになりながらも真実を追究する姿に『それこそまさに漢だ、チョッパー』と周りは思っていた。そこにナミ達から次々と横槍が入った。
「あら?謎は謎のままにしておく方が楽しいわよ?チョッパー!」
「そうよー、チョッパー。ブルックの体の構造は深く突っ込んじゃあいけないものよ!」
「そうね。大人の漢たるもの秘密の一つや二つ無いとね?」
とブルックにウインクまでするロビンの言葉に、真実を知りたいようで知りたくない気分の周りは救われたように、
「そうだな、ブルック。オレは聞かずにおくぜ!」と肩をたたいてウソップは言い去り、
「まあ、言わぬが花ということだな。」
と隅で一人納得するゾロ。
「テメエを含めて野郎の体の構造なんぞ考えたくもなかったな。」と捨て台詞を吐いてナミ達の給仕に戻るサンジ。
「どんな奴でもガイコツ、おめえはオレ様の仲間だからな。」
と少し涙ぐんでいる目を隠すように去るフランキー。
この流れを静かに横で目をランランとさせながら聞いていたルフィも、質問を投げかけた当の本人も自分なりに結着がついたようでこの話題はこれで終わった。


その夜、死兆星の下で悲しげなヴァイオリンの旋律を奏でる姿をクルーたちは目撃した。

「私、まだまだ自分探し中なんです。
 皆さんはそう思われたんですか?ねえ、教えてください!」


輔星とは双子星の別名です。
そしてアニメはやはりこの世界にあわないのでクルーに見させれなかったので色々と不整合がありますがご容赦ください。
でやっぱり私もどっぷり一気読みしたいです。北斗の拳!
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