本文へジャンプ  浅井診療所
Fasciaのハイドロリリース(筋膜リリース)
トリガーポイントブロック(痛点注射)
について
   ●Fascia(ファシア)とは
   ●筋膜性疼痛症候群(MPS)とは
   ●トリガーポイントとは
   ●トリガーポイントブロック(痛点注射)とは
   ●Fasciaハイドロリリース(筋膜リリース)とは
   ●痛みの悪循環とは
   ●トリガーポイント・関連痛の例
   ●お知らせと注意点

Fascia(ファシア)とは
『Fascia(ファシア)』≧『筋膜』
Fascia(ファシア)の代表格⇒筋膜(Myofascia)
    筋膜とはなんでしょう?一般には筋肉を包む白っぽい半透明な膜のことを思いうかべると思います。Fascia(ファシア)筋膜と訳しているため誤解されやすく、その定義は国際的に議論中とのことですが、いのですが、ここでいう、Fascia(ファシア)とは、筋肉を包む膜(厳密には筋外膜)だけを意味するのではありません。
 Fascia(ファシア)とは、筋膜(Myofascia)に加えて、
腱や靭帯や神経線維を構成する結合組織、脂肪や胸膜や心膜など、明らかに骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む概念」と理解されています。
 また、その密度と線維配列から整理されます。例えば、高密度で規則性が高い⇒靭帯や腱、低密度で比較的不規則⇒浅筋膜や固有筋膜。
 つまり、細かいところでは筋肉や神経を、大きなところでは体全体を包む結合組織ということで、それぞれの場所に適正に位置するように互いに支い、かつ体の動きに対して適度に滑走することでその動きを許容し、立体的なバランスも保っています。
 Fascia(ファシア)
自身はコラーゲンやエラスチンという線維性の組織と水分などでできています。皮下組織から深部の組織まで存在する、白っぽい薄い膜様組織です。 イメージ的にはクモの巣や網のようなものが、何層も重なって体全体に広がっている感じでしょうか。
 そしてFascia(ファシア)はすべるものという認識はとても大切です。たとえば、筋膜間が滑走することで筋肉の収縮がスムーズに行うことができるし、筋膜間にある神経組織は損傷されないともいえます。
 
     
  Fascia(ファシア)の異常とは  
     Fascia(ファシア)の一部に機能障害が起きると、離れた部位の機能に影響を及ぼすこともあります。
 機能障害の原因としては、不動(disuse)や過負荷(オーバーユースoveruse)が契機となることが多いと考えられています。例えば、パソコンをはじめとしたデスクワークなど同一姿勢を保持する作業や、外傷に対する炎症反応による瘢痕の形成などです。
 これらの原因にて、Fascia(ファシア)が癒着してしまい、結果として様々な症状が起きる可能性ができてしまいます。
 
     
   神経周囲もFascia(ファシア)  
    神経の周囲もFascia(ファシア)に含まれることは、病態を考える意味でも治療を考える意味でも重要です。
 神経は【神経=神経線維+結合組織(神経鞘、神経上膜など含む)】であり、解剖学的にその周囲組織(筋外膜や血管)は連続していることは、マクロ解剖(肉眼レベル)・ミクロ解剖
(顕微鏡レベル)の両方の立場から指摘されています。
 いいかえると、それぞれの境界を客観的に同定することはきわめて困難であるということで、靭帯・腱・関節包なども同様です。例えば、筋の付着部と関節包を構成する線維群は解剖学的に連続していることが指摘されています。
 また、Fascia(ファシア)と自由神経終末(いわゆる神経末端:すべての侵害刺激に応じるポリモーダル受容器が存在し、皮膚だけでなく筋など含めて全身の各部位に分布)や毛細血管の関係性も解明されていません
 
     
   『癒着』とは  
   「癒着」自体も誤解されやすい言葉ですが、本来は接着強度の概念は含みません。「癒着」といえば、神経や腱や靭帯の癒着剥離という整形外科手術の術式は古くからにあるように、強固な線維性構造を鋭的に剥離しなければならない強度のイメージがあります。しかし、本来の定義では強度の概念は含んでいません。
・Adhesion=異種組織間・臓器間の接着
・Cohesion=同種組織間接着(Fascia(ファシア)同士の癒着はこっち)
 
     
    Fascia(ファシア)が『癒着』すると…  
    Fascia(ファシア)が癒着すると、様々な症状が起きる可能性ができてしまいます。
 病態的には、「炎症や血流増減、異常血管(毛細血管)」、「疼痛物質の局所濃度増加」、「末梢神経(自由神経終末を含む)の過敏性」、「phの低下」などが考えられており、結果的に疼痛閾値の低下による痛覚過敏が生じます。
 機能的には、組織の伸張性の低下、組織間の滑走性の低下が生じてしまいます。結果的に可動域の制限や痛みやしびれが生じます。例えば、神経線維周囲に生じたFascia(ファシア)の癒着(Adhesion/Cohesion)神経の伸縮・滑走を障害して末梢神経障害の原因となりえます。
 過敏化した侵害受容器にて、トリガーポイントと呼ばれる痛みを誘発するポイント(発痛源)ができることもあります。そして、トリガーポイントは筋膜上だけでなく、腱・靭帯・脂肪・皮膚などに広く存在します。
 日常生活でも酷使する部位でもあるため、代償性に(かばって)他の部位にも負担がかかり、さらにその部分にも痛みが出ることもあります。
 また、神経は筋肉と筋肉の間(つまりFascia(ファシア))を走行したり、筋膜を貫いて走行しているため、その支配領域の神経症状(しびれ感やピリピリ感など)を起こすこともあります。神経は神経線維+Fascia(ファシア)であるのは前述のとおりです。
 神経線維はあくまで電気信号を伝える電線のようなものなので、異常シグナルは神経線維周囲のFascia(ファシア)の癒着から生じると考えられます。異常シグナルがその部位に自由神経終末(侵害受容器)から入力されたうえで、脳に伝達されると考えられます。
 例えば、臀部深層において大殿筋と股関節周囲の筋(梨状筋、内閉鎖筋、大腿方形筋など)の間を走行する坐骨神経(ほかにも上殿神経や下殿神経など)周囲のFascia(ファシア)に癒着が生じれば、その信号が上殿神経や下殿神経から坐骨神経を経て、脳に伝達されるというわけです。
 
     
    異常なFascia(ファシア)による症状  
    神経線維の断線(神経線維の切断や、強い狭窄による神経線維の圧迫による神経伝導障害)がおこれば、神経機能の低下(感覚神経:鈍麻、運動神経:麻痺など)をきたすことが必発であり、この症状は、日内変動などの症状の変動がなく、一定の強さ(程度)であることが特徴です。
 一方、「痛み」や「異常感覚や知覚過敏(ピリピリやビリビリといったしびれ感)」という神経興奮症状は、上のような神経線維の近傍の異常なFascia(ファシア)のシグナルを神経線維が伝えていると考えられます。その場合はFascia(ファシア)へのハイドロリリースで症状は改善することになります。
 一般的にいわれている坐骨神経痛の多くは、真の意味での神経障害ではなく、Fascia(ファシア)の異常としてハイドロリリースの治療対象です。つまり、坐骨神経痛ではなく、坐骨神経痛「様」の下肢症状といえることができます。ヘルニアなど脊椎部分での圧迫・狭窄があってもなくても、もっと末梢のFascia(ファシア)部分の癒着にて神経症状を起こすこともあるのです。
 これらを含めて関連痛(痛みだけでなく、しびれ感も)と考えることができますね。関連痛の症状が強いと、もとの部位(発痛源)の症状がマスクされてしまうこともあります。つまり、痛み・しびれの部位と、その原因の部分が離れていることもあり得ます。
 また、話を複雑にさせているのは、必ずしも障害部位は1か所とは限らないことです。経過が長いと連鎖反応のように複数箇所にFascia(ファシア)の癒着が生じていること(飛び石状に点在している場合)もあり得ます(doubule crush、triple crushといった言い方をするようです)。その場合は、それぞれの責任割合のようなものを考えなくてはなりませんね。(経験上、それら障害部位をマークしていくと、いくつかのラインが引けることが多いと実感しています。)
 例えば、脊椎部分でのヘルニアや狭窄が高度の場合(硬膜周囲の癒着が強い場合、神経の絞扼による麻痺症状が生じている場合)は話がさらに複雑になっていきます。つまり、硬膜部分の異常の責任割合が大きい場合は、手術が必要と考えられます(いいかえると、手術をしてよくなる場合)。ヘルニアや狭窄があっても、その責任割合が小さい場合(末梢のFascia(ファシア)異常がメインである場合)は手術の必要性は低いと考えられます(いいかえると、手術してもよくならない場合)。
 
参考図書➡  
≪参考≫
  日本整形内科学研究会 https://www.jnos.or.jp/


筋膜性疼痛症候群(MPS)とは

 「筋膜性疼痛症候群(MPS:Myofascial Pain Syndrome)」とは筋肉間に存在する「筋膜(myofascia)」が原因になって痛みを引き起こす病気です。レントゲンやCTやMRIといった、整形外科でおなじみの検査では発見することができない、もしくは変形性の変化(年齢的変化)と診断(変形性関節症や変形性脊椎症など)されて経過観察となってしまうため、あまり耳慣れない病名だと思いますが、筋肉、筋膜(myofascia)および周囲の軟部組織にうずくような痛みやコリを主症状とする疼痛症候群をこのように呼んでいます。こういってしまうと特殊な感じがしますが、実は普段よくみられる、ありふれたものなのです。
 長いあいだ原因不明の痛みとされてきましたが、最近はエコーの発達により、痛みの原因がわかるようになってきています。筋膜(myofascia)をエコーでみることで、明らかに厚くなっていたり、靭帯があつくなっていたりするところにピンポイントに圧痛があるケースが存在し、筋膜性疼痛症候群(MPS)の本態がわかってきました。
 さらに運動器エコーの進歩によって画像がより精密になり、トリガーポイントは筋膜(myofascia)だけでなくFascia(ファシア)に存在することが分かり、またFascia(ファシア)の重積自体も鮮明に見るようになりました。また、生理食塩水を使ってFascia(ファシア)をリリースする方法(ハイドロリリース)が非常に効果的であるという事実も、広まってきています。

筋肉に過度の負担がかかり、筋の緊張をきたし、血流が障害され痛みが発生すると考えられています。通常、筋肉は重いものを持ったりして痛めても数日~数週間すれば痛みは引いてきて回復したり、マッサージしたり温めたりすれば治ったり(いわゆる筋肉痛の状態)するものです。しかし、更に筋肉に過大な負荷や繰り返しの負荷が加わったり、ストレスがたまっていたりして血行が悪い状態ができていると話が変わってきます。『痛みの悪循環とは』参照。
 本来であればFascia(ファシア)の働きによって、筋肉と筋肉の滑走はスムーズなのですが、その働きが阻害されるため、結果的に筋肉は弾力性を失い、痛みを起こす物質が局所にたまった状態となります。コリ固まった状態です。それがたまたま腰の筋肉で起こるとギックリ腰に、首肩の筋肉で起こると肩コリに、肩周囲の筋肉で起こると五十肩になります。もちろん、fascia(筋膜)以外の原因でも起こる可能性はあるので、レントゲンやCTやMRIが全く必要ないわけではありませんが、多くの痛みにはfascia(筋膜)由来のものが含まれていると言えるでしょう。
 「腰痛の85%は原因不明(非特異的腰痛)だ」という表現は、色んなところで引用されています。これは、アメリカの家庭医(非整形外科医)が、腰痛を診た(初診)結果、整形外科医に紹介したのは全体の15%だったという論文から引用されたものとのことです。結構多いですね。もっとも、その15%にもfascia(筋膜)によるものも含まれているでしょうし、逆に85%の中にも原因が同定でき得るものも含まれているとは思います。

  (旧)MPS研究会 のホームページ http://www.jmps.jp/
  トリガーポイント研究所 http://trriger110.net
ためしてガッテン(2015年9月9日放送)では、筋膜リリースが紹介がありました。
     

トリガーポイントとは
 トリガーポイントとは、最新の定義では、生理的に「過敏化した侵害受容器」といわれています。正常な組織を損傷するか、損傷する恐れのある刺激(=侵害刺激)に反応する受容器が、過敏になった状態のことです。トリガーポイントは、関連痛や知覚過敏(しびれ)・違和感といった症状のほかに、感覚鈍麻・発汗・めまいなどの自律神経症状を引き起こすこともあります。このトリガーポイントによる痛みやその他の症状を引き起こす症候群を、筋膜性疼痛症候群(MPS)と呼びます。日本ではまだ筋膜性疼痛症候群という病気自体はあまり知られておらず、「筋痛症」とも呼ばれることがあります。
 トリガーポイントの好発(よく発生する)部位は、筋肉が骨に付着する部分、筋肉と筋肉が連結する部分、筋腱移行部、また力学的にストレスのかかりやすい場所などです。(単に筋硬結というわけではありません。筋硬結とはトリガーポインの形態のひとつにすぎません。)
 最近では、トリガーポイントの多くは重積した(厚くなっている)筋膜にあることがわかってきました。またトリガーポイントは筋膜以外に、腱・靭帯・脂肪などの結合組織(=Fascia(ファシア))にも存在します。つまり、トリガーポイントは侵害受容器などの痛みセンサーが高密度に分布しているFascia(ファシア)にトリガーポイントが優位に存在していると考えられています。トリガーポイントが形成される要因は、主に「不動」と「使いすぎ」と考えられています。
 その他にも様々な原因があるともいわれていますが、正確にはわかっていません。ただ、加齢によって体全体の水分が減ることで筋膜は癒着しやすくなります。栄養状態や糖質の過剰摂取も筋膜の癒着に関連がある可能性が報告されています。
 トリガーポイントは関連痛と呼ばれる痛みをひきおこすことがあります。トリガーポイントは放置すると症状の連鎖を引き起こすことがあります。筋膜の緊張状態が長引いて新しいトリガーポイントが生まれると、症状が複雑化する原因となります。症状の悪化を防ぐためにも、トリガーポイントは早い段階で治療する必要があります。
 筋膜性疼痛症候群では、厚くなったりすべりが悪くなっている筋膜をはがすための治療を行います。海外の論文にも、生理食塩水で筋肉の痛みが取れたという報告(1980年、Lancet(世界で最も権威ある医学雑誌)の論文)が40年近く前から世に出ています。(論文の主旨としては、生理食塩水での注射の効果を積極的に示したというより、むしろ局所麻酔薬での注射の効果が乏しい(コントロールとして生理食塩水を使用)ことを示すためだったようです。)
 トリガーポイントは、腰や背中だけではなく全身に形成されます。そして体のいたるところに痛みを引き起こします。例えば、緊張型頭痛と言われる頭痛は、胸鎖乳突筋と僧帽筋にあるトリガーポイントが原因となります。その他にも、慢性的な痛みがあり大きな病院でいろいろ検査しても原因が分からない場合、実はトリガーポイントが痛みを引き起こしていたということはよくあります。具体的には以下のような例があります
 そして、2014年から2015年にかけて、筋膜以外の靭帯、腱、支帯、腱膜などの結合組織に対しても、生理食塩水によるハイドロリリース(筋膜リリース)が有効なことがわかってきました。

参考図書➡
アメリカ元大統領のジョン・F・ケネディの主治医であるJanet G Travellと、David G SimonsがMPSの概念を提唱した書籍です。
 


トリガーポイントブロックとは

 筋膜性疼痛症候群(MPS)の一般的な予防および治療法としては、適度な運動、ストレスの解消、マッサージ、薬物療法などがあります。しかし、症状が進行したものや慢性化したものに対しては、トリガーポイント(痛点)を中心に少量の局所麻酔薬を注射し、過敏化した受容器由来の、過剰な痛みの信号(日常生活にとっては、もはや不要とも言える余分な痛み信号)が脳に伝わるのを防ぐ、トリガーポイント注射と呼ばれる治療が基本となり、当院でもよく用いる治療法のひとつです。
 ブロックは、痛みを感じている部位を一時的に抑えてしまう治療です。ブロックをすることで、結果的に痛みを感じている部分の交感神経の興奮を抑え、結果的に血管を広げ、血流を改善させます。血流が良くなると、患部に十分、酸素が行き渡り、患部に滞っている痛み物質も洗い流してくれます。痛み物質が綺麗に流れ去り、組織の回復が促されると、筋肉・神経にとっては一時的なブロックであっても、その後、痛みが戻ってきません。不要な痛みを速やかに治療して「痛みの悪循環」を断ち切り、血行の改善を促進し、組織の酸欠状態を回復させることによって自らの治癒力を引き出すのがこの治療をする最大の目的です。

 症状が軽ければ1回の治療でも効果がある場合がありますが、症状が重い場合は複数回に渡って治療をします。さらに長期に渡って痛みを感じていた場合は、痛みの信号が脳に連続して入った事により痛みに対する脳の機能が過敏になっているので、脳の動きを抑える薬(主には安定剤や抗うつ薬など)を併用するとより効果的です。ただし、他疾患の2次的症状による筋膜性疼痛の場合、原因疾患の治療が優先される事は言うまでもありません。

 最近、長引く腰痛などの慢性の痛みの原因が脳の異常にあり、その治療法として認知行動療法が効果的であると言われています。治療にはトリガーポイント注射を行う以外にも、患者さんに対して「認知行動療法」を行う必要があると考えています。トリガーポイントは再発することもあります。患者さんにも痛みの原因が筋膜にあることを知ってもらい、日常の行動に変化を与えるようにすることができれば、患者さんが自分自身で痛みの状態をチェック・改善することができるようになるのではないのでしょうか。トリガーポイント注射や筋膜リリースを受けるだけでは、また再発することがあります。そのため、日々の散歩やラジオ体操などの軽い運動が重要です。
 また逆に、極端に使い過ぎたり日常的に負担がかかっている筋肉があるかどうかを、ご自身でチェックして改善していただくことも重要です。必要以上に腰痛を恐れる必要がないとも言われています。認知行動療法というのは、一般的には認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種です。そして認知というのは、ものの受け取り方や考え方という意味です。
 最終的に痛みを感じるのは脳ですが、最も頻度の多いFascia(ファシア)の異常による痛みが、医療者の間でもまだまだ知られていません。
 「ヘルニアや骨棘が神経が接触しているので痛みがある」「今は、手術するほどでもない」「いずれ歩けなくなるかもしれない」
 このようなネガティブキャンペーンのような言葉を聞いて、不安や恐怖を感じない人はいません。医学的に間違った内容ではないにせよ、医者と患者それぞれの把握している情報量に大きな隔たりがあるため、結果として必要以上に安静にしたり、行動を制限する人が多く見られます。
 このほかに重要なことは、トリガーポイントによるものでない「本物の神経痛」を除外することです。本物の神経障害は、日内変動(一日のうちに症状が変動すること)がなく、姿勢や動作によって痛みの程度が変わりません。また必ず神経の機能低下が持続的に見られます。神経の機能低下とは、運動神経の機能低下による麻痺、感覚神経の低下による知覚低下、膀胱直腸障害などです。
 レントゲン写真、MRIなどの従来の画像所見と痛みが関連しないことは、すでに多くの研究で証明されています。もちろん、手術してよくなった患者もたくさんいます。しかし、手術は上手くいったが痛みのとれない患者がいると、今度はすべて脳のせいということになっているのです。「Fasciaによる痛みを忘れていませんか?」です。
≪参考≫
  加茂整形外科 http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/
心療整形外科 https://junk2004.exblog.jp/
 参考図書➡
一般向けの本です。構造異常が痛みの原因でないと、整形外科医療に一石を投じた、パイオニア的な偉大な本だと認識しています。
 
≪参考≫トリガーポイントブロックに用いる麻酔薬
塩酸メピバカイン

ネオビタカイン



Fasciaのハイドロリリース(筋膜リリース)とは
 トリガーポイントは筋膜上にあることが多く、エコーで見たときに、白く重積しているように見えます。ここに生理食塩水などを注入すると、画面上は白くなっいる筋膜がばらばらにほぐれていく現象が確認できます。癒着した筋膜をリリースすることによって、「ピリピリ・ビリビリ」や「痛い」といった感覚異常や、癒着したことによる関節の可動域制限を改善することができます。
 治療の広がりは加速度的に進歩しています。筋膜だけでなく、神経周膜や、腕神経叢を包んでいる神経鞘のリリースも効果的なことが分かってきています。今まで神経障害性疼痛と思われていた痛みが、Fasciaの異常である場合もあります。また、仙腸関節の中に生理食塩水を注入すると仙腸関節の関連痛と思われている部分の痛みが改善することも分かりました。仙腸関節を構成しているFasciaである靭帯(後仙腸靭帯、骨間靭帯など)にも作用していると考えられます。
 以上のように、今まで個々に語られていた関連痛の多くがFasciaの異常によるものと考えることができます。つまり、MPSにおけるトリガーポイントと関連痛、椎間関節症の関連痛、仙腸関節障害の関連痛、さらには、神経障害性疼痛による痛みも神経周膜あるいは神経鞘などのFascia異常と考えることができます。したがって、これらの痛みは、「エコーガイド下ハイドロリリース(筋膜リリース)」で安全に治療できる可能性が出て高くなってきました。

   参考図書➡    
   参考図書➡    
      
   エコーガイド下fasciaハイドロリリース(筋膜リリース)には、解像度のいい超音波が必要です。 当院ではコニカミノルタのHS-1を使用しています。針先を強調させる機能により、より正確に針先をガイドすることができます。  
当院では生理食塩水でなく、より体内の水分と同じ電解質濃度になるように作られた細胞外液をfascia hydroreleaseに使用しています。、重炭酸リンゲル液といわれるもので、これはPH(酸性度)の関係で、生理食塩水よりも注射の際の痛みが少ないという点が特徴です。
 


痛みの悪循環とは

 痛みが続き、「痛みの慢性化」になってしまうと、徐々に治療が難しくなっていくだけでなく、心にも身体にも大きなストレスとなり、痛みの改善がますます困難となります。「痛みがある⇒筋肉がこわばる⇒筋肉の血行が悪くなる⇒さらに痛みがでる⇒さらに痛みがでる⇒さらに筋肉がこわばる⇒さらに血行が悪くなる⇒ますます痛みがでる」という「痛みの悪循環」が生じます。

 この状態になってしまうと、ちょっとマッサージをしたり、患部を温めたりくらいでは解決することができず、時に激しい痛みを伴う慢性的な痛みになっていきます。
 痛みの状態が急性痛から慢性痛に移行すると、心身面に影響が表れ、ワインドアップ現象、中枢性感作、痛みの可塑性などの影響により脳が痛みに過敏になるなど、難治性に進行する可能性が高くなります。
 筋膜性疼痛症候群(MPS)は、骨格筋が存在するところであれば全身どこにでも起こりうるものですが、好発部位として姿勢筋(背骨を支えて姿勢を保つ筋肉)に起こりやすく、後頭部、頚部、肩甲部、背部、腰部などの痛みとして表現されます。
 例えば太ももやふくらはぎの痛みは、腰のヘルニアや脊柱管狭窄症による坐骨神経痛と間違われることが多いですが、殿部の筋肉(小殿筋や梨状筋など)が原因になっている場合もあります。
      『トリガーポイント・関連痛の例』参照
 近年、生活様式の変化(運動不足やストレスなど)による筋肉の弱体化に伴い、この筋筋膜性疼痛症候群は増加の傾向にあるといわれています。
 よって、筋膜性疼痛症候群(MPS)および異常なFascia(ファシア)の治療においては、以下の3点が重要になります。
 ①適切な評価により発痛源を検索し、治療すること。
 ②悪化因子(アライメント、身体の使い方による「使いすぎoveruse・廃用disuse・誤用maluse」、心理的緊張、中枢過敏)を取り除くこと。
 ③早期の治療により痛みを取り除くこと。


トリガーポイント・関連痛の例
①肩コリ関する部位
②肩関節周辺の部位(五十肩など)
③腰痛、臀部痛、坐骨神経痛に関する部位
④膝関節周辺の部位
肩コリに関する部位
 下図は胸鎖乳突筋のトリガーポイントと関連痛を示しています。この筋肉は首には痛みを出さず、顔面、頭部に痛みを放散します。鎖骨部のトリガーポイントは自律神経現症としてめまい、胸骨部のトリガーポイントは流涙、目の充血を起こすことがあります。
肩コリが長引いた場合や、むち打ち症などで頚部前方筋に負担がかかった場合は、下記部位の症状が出やすくなります
 
図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記は肩コリでも最も多いと考えられる僧帽筋です。肩コリであっても、頭痛や上肢痛がでる原因のひとつと考えられます。


図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記は側頚部の深層にある斜角筋(前・中・後の3種類)です。とくに前斜角筋と中斜角筋の間を、上肢を支配する腕神経叢が通る場所でもあるので、下記のように上肢の症状を起こします。前方に上記の胸鎖乳突筋があるので、いろいろな症状が出やすい場所です。また、腕神経叢は下記の小胸筋周辺を走行するため、肩関節周辺の症状と絡み合うことも多いです。


図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

肩関節周辺の部位(五十肩など)
 下図は棘上筋(上)と棘下筋(下)のトリガーポイントと関連痛を示しています。それぞれの筋肉は腱板とよばれている肩の回旋筋群に含まれています。いずれも肩から上肢にかけて痛みが出現します。
 

図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記は胸板の筋肉の一部です。表面は大殿筋、その深層に小胸筋があります。さらに小胸筋と肋骨との間を腕神経叢や動脈が通るため、上肢のしびれ感や血行障害が起こりやすい場所です。胸郭出口症候群といわれる病態の一部は神経・動静脈周囲のfasciaによるものと考えられます。


図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

 下図は肩甲挙筋のトリガーポイントと関連痛を示しています。この筋肉はその名が示すとおり、肩甲骨を持ち上げる格好をしています。そのため常に負担のかかりやすい位置にあります。肩や肩甲骨周囲に痛みが出現します。棘上筋・棘下筋や肩甲挙筋は肩コリでよく起こる部位です。その表面にある僧帽筋との筋膜リリースを行うと改善することが多いです。肩コリでも眼精疲労を自覚したり、神経周囲のfasciaの異常から、頭痛(大・小後頭神経)、上肢痛・しびれ(腕神経叢)に広がりやすい部位でもあります。
 
 図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

腰痛、臀部痛、坐骨神経痛に関する部位
 下図は腰方形筋のトリガーポイントと関連痛を示しています。この筋肉は脊柱を起立させる筋肉の一部で、比較的深部に存在します。腹部臓器が近くにあるため、エコーガイド下での筋膜リリースでなければアプローチが必要な部位となります。腰部・殿部に関連痛が出現するため、坐骨神経痛と間違われることがあります。また、さら深層には大腰筋(腸腰筋の一部)があるため、ソケイ部に関連痛が出やすい部位になります。
 

図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記は腸腰筋と呼ばれる筋です。腰椎前方から始まる大腰筋と骨盤(腸骨)内面から始まる腸骨筋とに分かれます。最終的には股関節の下方までつながります。体幹筋、コアマッスルといわれる部位のひとつで、姿勢の保持でも重要な役割を果たします。大腰筋は上記の腰方形筋の前方に位置するため、腰部痛からソケイ部、大腿前面部に症状が広がることが多いです。


図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

 下図はよく坐骨神経痛と間違えられやすい部位です。小殿筋(一番上)、梨状筋(上から2番目)、中殿筋(上から3番目)、大殿筋(一番下)のトリガーポイントとその関連痛を示しています。臀部だけでなく、下肢まで症状が広がります。腰部と臀部は同時に負担がかかることがほとんどなので、腰部や臀部とあわせて下肢まで症状が広がりやすい場所です。また梨状筋から下方は坐骨神経本幹が通るため、神経周囲のfasciaの異常がおこると膝から足趾までのピリピリ感・ビリビリ感を生じることもあります。MRI検査で椎間板ヘルニアがあると、このヘルニアが原因と間違えられることも多いです。神経根部での癒着が強いとヘルニアや狭窄による病変単独で下肢痛が出ますので、腰椎MRIでの鑑別は有用だと考えます。

 



 図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記図は仙腸関節を示しています(左:体表からみた仙腸関節の位置、右:仙腸関節(やや拡大))。上にも出てきた腰部の傍脊柱筋群と殿筋群の連結部にあたるので、腰部痛や下肢痛を起こすことが多い部位です。単純に関節内だけでなく、靭帯部分(後仙腸靭帯や骨間靭帯など)のトリガーを起こすことが多いです。これについては、「その原因Xにあり!」(2017年2月17日放送)でも腰部痛の原因としても取り上げられています。



膝関節周辺の部位
 下図は大腿四頭筋(上:内側広筋、下:外側広筋)のトリガーポイントと関連痛を示しています。大腿四頭筋は太ももの前面にある大きな筋肉で、一部の筋肉は股関節・膝関節をまたぐため、負担がかかりやすく痛めやすい筋肉です。また、膝周囲に関連痛が出現しやすいため、膝関節の軟骨がすり減って痛んでいると間違われることが多いです。
 

 図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

下記はハムストリングスといわれる部位で、膝関節内側関節裂隙の下方まで及ぶため、膝内方の痛みの大きな原因要素のになります。


図は 『Myofascial pain and Dysfunction The Trigger Point Manual』 より引用

   詳しくは下記参照
    The Trigger Point & Referred Pain Guide(http://triggerpoints.net/


筋膜リリースを希望される患者様への
お知らせと注意点について

 当院では筋膜リリースやトリガーポイント注射を行っておりますが、下記の注意点があります。
①テレビや雑誌などで生食(生理食塩水)のみでの筋膜リリース(厳密にはfasciaのハイドロリリース)が紹介されていますが、兵庫県では生食のみでの注射は認められておりません。保険適応となる局所麻酔薬でのトリガーポイント注射や関節内注射での治療が基本となります。その上で必要に応じて生食でのリリースを追加する形となりますので、ご了承ください。ただし、兵庫県では週1回までという制限があります。それ以上のペースでの治療(週2回以上)を希望される場合は、超過日(週2回目以降)は自費診療となり、その当日は保険診療との併用はできません。(混合診療となるためです。)
②筋膜リリース(生食または細胞外液によるfasciaのハイドロリリース)のみでの治療も可能です。その場合は自費となります。金額については部位・範囲によって異なりますが、合計で3000(+税)円~5000(+税)円の設定となります(初診の場合は、初診料として2000(+税)円が追加になります)。自費での筋膜リリースを行った当日は保険診療との併用はできません。(混合診療となるためです。)