2001年10月


10月1日

都立水商!
都立水商!


著者:室積光
出版社:小学館(単行本)
発行:2001年?月?日
装丁:?

未刊の本です。出版社からのいただきモノ。
装丁もまだちゃんとしていない、まあいわゆる見本です。
えーと、もらっといてなんですが、つまりません(笑)。
歌舞伎町に、都立で水商売を専門教育する高校が出来た。「ホステス科」「ソープ科」「ホスト科」「ゲイ科」「マネージャー科」などからなり、水商売のプロを養成する。
その設定は面白いのだが、ストーリーがまるで面白くない。
とにかく気持ち悪いくらい上っ面だけの美談美談美談…。うんざりする。
ホントにキレイゴトしか書かないから、ストーリーにまるで起伏がない。
でも、予言しておきます。北上次郎あたりがこれ、褒めるよ。
たぶん来月くらいの「本の雑誌」で。ああ嫌だ。


10月9日

90くん
90くん


著者:大槻ケンヂ
出版社:角川書店(単行本)
発行:2000年3月25日
装丁:松岡史恵
装画:ほりのぶゆき

再読。
先日読み始めたノワール系が面白くなかったので、気分転換に軽いものを、と読み始めたら止まらなくなってしまった。
九十年代にあった様々なトピックを、オーケンが自らの軌跡と重ねつつ回想するエッセイ。
オーケンのエッセイは面白い。本人も公言しているが、およそロッカーとは思えぬ脱力のほほん文章がミョーなトリップ感を味わわせてくれる。
特に比喩表現の無節操さは群を抜いていて、
例えば昔のロッカーはAVによく出演していたことに対し、「(今では)クロマニヨン人がマイクロソフトに入社するよりもあり得ない話だろう」とくる。なんだそりゃ!そりゃあり得んわ。
あるいは、オーケンが初めてアマチュア空手の大会に出たときの緊張感を、「ハードコアパンクの集会でヨーデルを熱唱しなくてはいけなくなったときのような恐怖感」と例える。がははは、意味わからなさすぎ!
これをきっかけに、今僕の中で第三次くらいのオーケンブームが到来中。
筋肉少女帯はやっぱすごいバンドだったなあ…。


10月9日

発明超人ニコラ・テスラ
発明超人ニコラ・テスラ


著者:新戸雅章
出版社:ちくま文庫
発行:1997年3月24日
装丁:神田昇和

ずいぶん前に買ったきり放置してたもの。
読む本がなくなったので、昔の本棚を漁ってて再発見しました。
十九世紀末から二十世紀初頭にかけてアメリカで活躍した希代の発明家、ニコラ・テスラ。
エジソンと同時代に生き、彼を上回る発明をも多数なしたにも拘らず、どうにも評価の低いテスラの生涯と、その偉業を掘り起こした本です。
電気的損失の非常に大きいエジソン式の直流送電に対し、安定した高圧の交流送電の技術的基礎を作った功績は巨大である。
卓越した理論家であり、技術者でもあるテスラだが、じつは特に日本では、オカルト系のキャラとしてもてはやされている(「ムー」なんかで)。
その理由はやはり、そのぶっ飛びすぎの先進性だろう。無線遠隔操作や、ラジオ・テレビ、果てはロボット(当時「ロボット」という言葉すらまだない!)の構想など、百年経った今、ようやく時代が追いついてきた感じである。
さらには地球上層部の大気に通電して空を丸ごと電灯にしてしまうだの、地球という「導体」を用いた無線エネルギー伝達「世界システム」構想、ライト兄弟が初飛行する前に設計された垂直離着陸機(!)など、「あんた何者やねん!」と突っ込みたくなるような、評価に困ってしまう引き出しを無限に持っていた。
そして生涯資金難に悩まされ、ひっそりと息絶える。
いやーなんとも面白い人です。


10月14日

ロボット21世紀
ロボット21世紀


著者:瀬名秀明
出版社:文藝春秋(文春新書)
発行:2001年7月20日
装丁:坂田政則

学者でもあるSF作家・瀬名秀明によるロボット研究最前線のレポート。
思った以上に進んでいるぞ、ロボット開発。
ホンダの二足歩行ロボットを遠隔操作するコクピットはほとんどガンダムの世界だ。
ヒューマノイドが複雑な機構を用いてなぜ二足歩行しなければならないのか、そもそもなぜロボットが必要なのか、最先端で活躍するロボット学者達の言葉が面白い。
「鉄腕アトム」の設定ではアトム誕生は2003年となっていた。あと二年――。
完全自律型のアトムはともかく、人間が操縦するガンダムタイプが登場する日は意外と近いのではないか。


10月19日

頭蓋骨のマントラ
頭蓋骨のマントラ(上・下)

THE SKULL MANTRA

著者:エリオット・パティスン
翻訳者:三川基好
出版社:ハヤカワ文庫
発行:2001年3月31日
装丁:ハヤカワ・デザイン

舞台は現代のチベット奥地。
中国の唯物論的圧政に、チベット密教の僧たちは「政治犯」として強制労働に従事させられている。
主人公は単道雲(シャン・タオユン)。中国人。
エリート犯罪捜査官だったが、上層部ににらまれ、チベット人らとともに囚人として服役している。
その強制労働地で首なし死体が発見される。
僧たちは彼の魂を静める儀式をしない限りその地で労働が出来ないと、ストライキ。
おりしも北京から数日後に監査官が来る。責任者・譚大佐は苦肉の策として、囚人・単に捜査を命じる…。
だが、調べれば調べるほど焦点はかすんでいく。犯人はチベットに伝わる魔人・タムディンなのか?
中国上層部の腐敗した魑魅魍魎らが裏で動き、チベット密教の思想が深く絡む、ほとんどチベット版「薔薇の名前」といった感じ。
基本はオーソドックスなフーダニット系本格ミステリだが、その肉付けがあまりに凄い。端的に言うと、メチャクチャ面白いぞこれ!
著者は生粋のアメリカ人。「アメリカ人の描くチベットを舞台にした中国人が主人公のミステリ」というほとんどトンデモ本のようなノリを半ば期待していたのだが、いい意味で見事に裏切られた。なんなのだ、この気品と美しさは!
こりゃ本年度大きな収穫だ。ふっとこういうのに出会うとホント嬉しいな。
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作品。


10月22日

宮崎勤事件
宮崎勤事件

塗り潰されたシナリオ

著者:一橋文哉
出版社:新潮社
発行:2001年6月25日
装丁:新潮社装丁室

「グリコ・森永事件」「三億円事件」「オウム事件」に続く一橋ノンフィクション第四弾は「宮崎勤事件」。
過去三作で、「おいおい、お前それ作ってるやろ!」と言いたくなるくらいぶっ飛びスクープを連発してきた著者(なんせ三億円事件では、アメリカにいる犯人としか思えない男にインタビューしている!)だけに、今回はどんなネタをつかんでの話かとワクワクしたが、うーん、ちょっと肩透かし。
宮崎勤に責任能力があったかどうか、数回の、数人での精神鑑定で、意見は今なお分かれている。
この本では、宮崎の言動はすべて彼自身の描いたシナリオであり、演技している、つまり彼はまったくの正気なのではないか、と推理している。
でも今ひとつ根拠が弱いんだよなー。
しかし彼が捜査官に対し、冷静にマネキン相手に犯行を再現している写真なんか、夜中見ると怖くて怖くて、子供のころに見てたら絶対トラウマ化してただろう。
さらに、彼が送りつけてきた眠っている被害者の顔写真(犯行前の眠っている写真と言ってはいるが、違うかも…)などあー怖くなってきた! はい、この話おしまい!


10月23日

ロシア幽霊軍艦事件


著者:島田荘司
出版社:原書房
発行:2001年?月?日
装丁:?

久々のちゃんとした御手洗モノ。
ちゃんと全編御手洗が出てきて、日本にいるころの話です。スウェーデンじゃないです。子供時代でもないです。
うーむ、これはなかなか良かった。メインのトリックの壮大な馬鹿馬鹿しさは健在。 ちゃんとやれば出来るじゃないか!


10月25日

オーケンのめくるめく脱力旅の世界


著者:大槻ケンヂ
出版社:新潮社
発行:2001年10月20日
装画・挿画:喜国雅彦
装丁:新潮社装幀室

待望のオーケンエッセイ最新刊。
おもろいです。ホントおもろいです。笑いころげました。
無意味に目的を設定してのほほん旅をする連作ですが、最初の「ロックミュージシャン生板伝説を追え!」から大爆笑モンです。見習いたいわ、この文章のうまさ。
また池田貴族が亡くなって線香上げる回なんかマジ泣きしそうになったし。
脱帽です。


10月28日

脳と音楽


著者:岩田誠
出版社:メディカルレビュー社
発行:2001年5月30日
装丁:?

音楽家たちに起きた脳腫瘍などの病気から、脳の働きと音楽的才能との関連性を追及した一冊。
観点は面白いけど、話が専門的過ぎてちょっとついていけず。
しかし脳の言語野が侵され、文字を読んだり書いたり出来なくなった音楽家が、楽譜だけは読み書きできたりするエピソードを読むと、脳の世界ってホント面白いなあと思う。
かつて読んだなかでは、角川書店「脳のなかの幽霊」がオススメ脳本です。


10月30日

トンデモ本の世界R


著者:と学会
出版社:太田出版
発行:2001年10月02日
装丁:守先正+河野牧子

世の中あきれ返るほどのトンデモ本てホントに多いもんだが、同人誌まで漁って見つけてくるこやつらの執念にもあきれ返りますな。
大藪春彦の「餓狼の弾痕」はぜひ読みたいぞ!


10月31日

ペヨトル興亡史

ボクが出版をやめたわけ

著者:今野裕一
出版社:冬弓舎
発行:2001年7月20日
装丁:ミルキィ・イソベ

その特殊な美的感覚で独自の出版活動を続けていたペヨトル工房が解散した。
その過程を社長および関係者が綴った本。
これを読むと、いかに今の出版というシステムがダメダメかわかります。
大量に紙に印刷して、製本して、飛行機や車で運ぶ。あまったらまた運んで、返す。倉庫代だけでもバカにならない。どうしようもなく売れなくなれば、破棄して裁断する。
なんなんだ、それは。非効率も甚だしい。
以前実験的にあった電子書籍コンソーシアムは、システムとしてまだお粗末だったが、思想はやはりあれが正しい。
いろいろ考えさせられた本です。


[書評部屋トップへ]

[トップへ戻る]