2002年1月
1月3日
21世紀本格
責任編集:島田荘司
出版社:光文社(カッパノベルス)
発行:2001年12月20日
装丁:フィールドワーク
さあ、2002年の一発目はこれだ!
どうも最近島田荘司はブレイン・サイエンスやバイオ・テクノロジーに傾倒しているらしく、作品の随所にそういうくだりが出てくる。
一人で悦に入ってる分には構わんが、「これこそ来るべき次世代の本格だ!みんなこういうの書くんだ!やっぱ21世紀の本格は、理系っすよ!理系!」と叫んだかどうかは知らんが、そんな感じのテーマで安直に編まれたアンソロジーがこれである。
メンツは、響堂進、瀬名秀明、柄刀一、氷川透、松尾詩朗、麻耶雄嵩、森博嗣(+島田荘司)という、見るからに「島田シンパと理系っぽいの書けそうな人」というこれまた安直な人選。
僕自身は、「本格」というジャンルはすでに方法論的には行き詰まっていて、(無理だろうけど)構造的なところにメスを入れてこその新世紀本格だろうと思うのだが、案の定島田荘司本人を始めとして皆バイオ、脳、DNAなどを「ネタ」としてしか活用しておらず、「だからどうやねん」という短編がほとんどであった。
そんな中、方法論的な部分に少しでも意識を伸ばした麻耶雄嵩と森博嗣作品でなんとか救われた感じ。
ちなみに島田自身の短編「へルター・スケルター」は、「脳のなかの幽霊」「犯罪に向かう脳」という二冊の脳入門書を読んでれば身につく程度の専門知識しか使われてません(笑)。
うーん、新年一発目から辛口でスンマヘン。
1月7日
発掘捏造
著者:毎日新聞旧石器遺跡取材班
出版社:毎日新聞社
発行:2001年6月5日
装丁:山館徹
毎日新聞が思いっきりビデオに撮ってしまって大スクープとなった上高森遺跡の発掘捏造事件。
いかに彼らはこの事件を追い詰めていったのか。
著者が「毎日新聞旧石器遺跡取材班」となってるので実際執筆しているのが誰かは分からないのだが、上手い。
「石器を埋めるシーンをビデオに撮る」という派手なシーンの裏で、どれだけ資料を読み込み、執念深い地味な取材を続けてきたか。
いざスクープを載せる際にも、浅いスキャンダルに走らず、地に足をつけて十分足元を固めたうえで重厚に、そして一気に畳み掛ける。
うーん、ジャーナリズムに好感を持ったのは久しぶりかも。
「言ったもん勝ち」的な日本考古学界の体質もひどいが、この事件の裏には、義経=ジンギスカン伝説、日本−ユダヤ同祖説などにも通じる、日本人の無意識に見え隠れする「日本人って偉大だぜ!」思想があるように思う。
「日本の原人が一番古くて頭良かったんだぜ」という幻想にみんな惑わされていたんじゃないのか?
1月19日
緋色の時代(上・下)
著者:船戸与一
出版社:小学館
発行:2002年1月10日
装丁:多田和博
装画:北川健次
船戸与一渾身の1900枚! しかし……。
昔から船戸のファンで、ほぼすべて読んでいる。
「猛き箱舟」はもう何度読んだか知れぬし、「山猫の夏」「伝説なき地」「夜のオデッセイア」などなど、熱い男の成り上がりと破滅をド級のスケールで描写する情熱は眩しかった。
だがここ数年、正直低迷していて、路線変更して直木賞を受賞してしまった「虹の谷の五月」といった佳品はあるものの、明らかにパワーダウンしていた。
このままやや文学色の強い方面へ行くのかな、と思いきや、出た出た!
殺戮と裏切りの大長編。帯によると「死者累計800人!」って自慢すんなよそんなことと言いたくなるが、なんしか往年の熱気ぷんぷん漂う本作を手にして興奮してしまったわけだ。
ところが…これが面白くない。
今回の舞台は、ソ連崩壊後、マフィアが横行し官憲は腐敗したロシア・エカテリンブルグ。
旧ソ連時代のアフガン侵攻時に血の契りを交わした4人のアフガンツィ(アフガン帰りのソ連兵士)が、国家崩壊後時を経て、運命のようにエカテリンブルグで再会するも、ロシアンマフィアとして敵味方に対峙していた、てのが骨子なのだが、最初のアフガン時代のエピソードがやけに印象が弱く(分量も少ない)、そのせいで後半の緊張感と悲劇に全く重みがなくなってしまった。
キャラクターも整理されておらず、「週刊ポスト」連載ということで、ダラダラとメリハリなく続いてしまった感。
なんだかなあ。ああ、魂が震えるような冒険小説が読みたい!
1月21日
もてない男
著者:小谷野敦
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
発行:1999年1月20日
装丁:間村俊一
漫画を含んだ広範な文学知識を駆使して、徹底的に「もてない男」の側から描いた恋愛論。
もてなくていじけているというキャラになりきりつつわかりやすく上手い文章。
うーむ、これは相当な芸の持ち主といえる。
「オナニーのおかず」という観点から日本文学史を捉えなおそうという大胆な意見を述べたかと思うと、フェミニストを名乗る男は「いい男」が多いと、ヤケクソ気味に実名挙げてひがんだりしている。
おそらく全部計算の上で演じているのだろうが、かなり面白い。
エッセイストとしてブレイクできるよ、この人。
1月22日
捩れ屋敷の利鈍
The Riddle in Torsional Nest
著者:森博嗣
出版社:講談社ノベルス
発行:2002年1月10日
装丁:辰巳四郎
西之園萌絵と保呂草潤平の共演、「斜め屋敷」なみにキッカイな「捩れ屋敷」、その中での密室殺人、うーん、途中まで面白かったのになあ!
捩れ屋敷の構造をもう少し上手くテーマとリンクできなかったものか。
肩透かしの一作でした。
しかしこの屋敷(というか建造物)、一度入ってみたいぞ。
1月25日
作家小説
著者:有栖川有栖
出版社:幻冬舎
発行:2001年9月10日
装丁:大路浩実
「作家」の生態をブラックに描いたギャグ(?)短編集。
実はこの人かなりギャグセンスあると思う。
まあ普通こんなこと思いついても書かんと思うが(笑)。
最後の「夢物語」で、不釣合いなくらい幻想的にかっこよく締めてるのもにくい。
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