2002年6月
6月1日
『赤報隊』の正体
朝日新聞阪神支局襲撃事件
著者:一橋文哉
出版社:新潮社
発行:2002年4月25日
装丁:新潮社装幀室
一橋ノンフィクション最新刊。
1987年5月3日、朝日新聞阪神支局に銃を持った男が侵入し、記者二人が撃たれ、一人は死亡、ひとりは重傷を負った。
後に「赤報隊」を名乗る人物から犯行声明があり、さらに名古屋事件、静岡事件、首相脅迫事件へと続く。
朝日の報道姿勢に疑問を持つ右翼の犯行と思われたが、捜査は杳として進まず、先日時効を迎えた。
著者は一連の事件で、特に阪神支局事件に注目し、「朝日新聞」が標的ではなく、右翼めいた脅迫文句はカモフラージュではないかと疑う。
そう、実は殺された記者が「何かを知ってしまったために」消されたのではないのか。
うーん、なんだか安っぽい映画みたいだが、しかし著者はなんと独自に突き止めた犯人と思われる男にインタビューを敢行してしまう。ホンマかい!
しかも二回目のインタビューでより具体的に詰め寄ると、相手は一切沈黙してしまい、その二週間後にその男は「変死」してしまうのである!ホホホホンマかい!
グリコ・森永事件や三億円事件でスクープを連発するこの「一橋文哉」、実は毎日新聞社系の複数の記者の合作ペンネームとの噂がある(毎日新聞の本社は一ツ橋、文哉=ブンヤ=新聞屋)。
そして、実はかなりフィクションが混じっているという噂も…。
しかし、もしフィクションもあるなら、むしろこれは文学のかなり面白い新形式なのではなかろうか。
今連載してる世田谷一家殺人事件も犯人にインタビューしてるらしいし(笑)。
うーむ、人に迷惑かけない範囲なら、面白くていいぞ!
いや、事件関係者(特に被害者)はやっぱり迷惑か…。
6月28日
オイディプス症候群
著者:笠井潔
出版社:光文社
発行:2002年3月25日
装丁:菊地信義
すいません、久々の更新です。
短編が書き上がるまで資料以外の読書を自らに禁じていたのです。
おかげさまで一作書きあがりましたが、手直し箇所が少々あるので公開はもう少し…(出来とらへんやんけ!)。
というわけで、ようやく読めました。矢吹駆シリーズ最新作1600枚。
今回のテーマはミシェル・フーコーと、なんとエイズ。
外部との連絡が途絶した孤島、ややこしくゴツイ館(もちろん見取り図つき)、見立て殺人、密室殺人、ダイイングメッセージと、これまで以上に「本格」にこだわった作品となっています。
しかし、なんだかそっち側(ミステリとしての側面)にとらわれすぎて、どうもいつも切れ味鋭い哲学的思考がなおざり気味で、しかも風呂敷を広げすぎたのか、解決もかなり苦しい。
待ちに待った作品なのに、これは悲しかった。
もっとも、このシリーズに対する期待のハードルはすさまじく高いので、凡百のミステリと比べて決して見劣りのするものではありません。
例えば、笠井潔という作家を全く知らずしていきなりこれを読むと、「おお、なんてすげえんだ!」と思う人はたくさんいるでしょう。
こればっかりは仕方ない。才能あるものの宿命です。
さあ、気長に次作を待つか…(ちなみに前作から本作のインターバルは約10年です)。
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