2002年9月
9月2日
DICE OR DIE
著者沢井鯨
出版社:小学館
発行:2002年8月?日
装丁:?
さあ、今月からフィクション強化月間だ!
第一弾は発売前に版元から貰った見本です。
カンボジアでまさかのフレームアップ(でっちあげ)による逮捕、すべては金次第の狂気の獄中生活を経て奇跡の生還を果たした著者のセミドキュメント・ノベル「P.I.P」から二年。
今度はマニラに滞在していた著者がその経験を活かして書き上げた第二弾。
これがもう、なんというか、とてもつまらない。
実体験の迫力で押し切った前作と違い、今回は(おそらく)大部分フィクションであるため、作家としての力不足が如実に露呈しまくってしまった。
勢いだけで書いてるから描写にも人物にもまるで深みがなく、伏線も安直なのでどんでん返しは薄っぺらい。
小学館さん、貰っといてすんません…。
9月2日
法月綸太郎の功績
著者:法月綸太郎
出版社:講談社(講談社ノベルス)
発行:2002年6月5日
装丁:大路浩実
フィクション強化月間第二弾はこれ。
ここ数年で法月氏があちらこちらで散発的に書いた短編を脈絡なくまとめた短編集。
これが実に面白い。
ピュアでディープな純本格ミステリ・ロジックが楽しめる。
お気に入りは「縊心伝心」。ホットカーペットのスイッチの入り方が逆という一点から鮮やかに事件を紐解き、意外な犯人が指摘されるという本格ミステリのお手本のような作品。
おりしも綾辻行人7年ぶりの長編も刊行され、最近めっきり作品も少なくなってネタが尽きたかと思われる第一期新本格組の逆襲が始まるような予感。
9月8日
トキオ
著者:東野圭吾
出版社:講談社
発行:2002年7月18日
装丁:緒方修一
フィクション攻撃第三弾。
久々に東野圭吾の長編を読む気がする。「片思い」以来かな。
くうー、うまいなあ。
冒頭から、病気で死にかけている息子を見守る両親と、過去の二人のエピソードをカットバックさせていく手法はこなれすぎて腹立つくらいだけど、読んでる間はもうウルウル。
そしてさらに話は一気に二十年前に飛び、若き日の父親がある男と出会い、人間的成長を遂げていく様子が描かれる。
この男こそ、死の淵から過去に飛んできた彼の息子、トキオであり、つまりはそういう話である。
東野版バック・トゥ・ザ・フューチャーつう感じかな。
東野圭吾のすごいところは、ストーリーがきちんと一本の線であるところだ。
いろんなエピソードをゴツゴツと繋げた長編ではなく、すべてが流れるように収束していく。
途中で本を置く暇を与えずあっというまにクライマックスまで引っ張ってしまう(いや、何度か本置いたけど)。
ただ、「ラストが泣ける泣ける」という話を散々聞いていたので、「おっしゃ、泣くでー!」という気構えが強すぎたらしく、それほど感動できなかった。でもいい話です。
9月8日
筒井康隆自選短編集1[ドタバタ篇] 近所迷惑
著者:筒井康隆
出版社:徳間書店(文庫)
発行:2002年5月15日
装丁:岩郷重力
フィクション第四弾。
徳間文庫からこのようなシリーズが始まった。
筒井康隆はかなり昔に一度ハマッたのだが、この本パラパラしてたら急に読み返したくなり、購入。
第一印象は、「か、活字でかっ!」
間違って老人用の大活字本を買ってしまったかのような字のでかさ。なんで? ま、いいけど。
しかしこのシリーズ、今後どういうテーマで何巻続くのかわからん(今のところ[ショートショート篇][パロディ篇]まで出ている)ので即断できんけど、なんかセレクションがイマイチ。
こういうのって基本的に自選より他薦のほうが面白いんやろなあ。自選すると一般読者と明らかに視点が違うからこちらとずれが生じてくるわけだ。
でも久々に読んだ「アフリカの爆弾」とかやっぱり面白い。
とりあえず続きは買っていくことにしよう。
9月19日
航路
PASSAGE
著者:コニー・ウィリス
訳者:大森望
出版社:ソニー・マガジンズ
発行:?
装丁:?
さて、またしても出版社からの頂きモノ。10/4発売予定の新刊のパイロット版です。
完成版は上下巻で出るそうですが、これは強引に一冊にまとめてあります。
上下二段組820ページの超大作。
……これが、これがよかった! 今年のベスト来たかも!
認知心理学者のジョアンナ・ランダーと神経内科医のリチャード・ライト。
二人の研究者が出会い、取り組んだのは、「臨死体験の科学的解明プロジェクト」。
ジテタミンという薬が擬似的な臨死体験を誘発できることを知った彼らはシミュレート実験を開始する。
だが、ボランティアの被験者は臨死体験に偏見を持つなど不適格者ばかり。
トンデモ系ノンフィクション作家、マンドレイクの横槍をかわしながら、ジョアンナはついに自ら被験者となる。
そして彼女が擬似臨死体験で見た映像は、確かに知っている場所だった。だが、思い出せない。必死に記憶を探り、ついにジョアンナにはわかった。
そう、あそこは「○○○○○○!」
という思わず口アングリのとんでもなくビックリなところで第一部完。
第二部ではなぜそこが「○○○○○○」なのか、臨死体験はどういう意味を持つものなのか、ひたすらジョアンナは考え、調べていく。
徐々に精神の均衡が崩れつつもジョアンナはついにそれを解明したが、さらにそこで思わぬ事態が…!
という第一部の3倍くらい口が開く脅威の展開になってきて第二部完。
そして第三部ではリチャードも×××××からの×××××を解読してついに×××××を×××××する。そして、ああ感動のラスト!
これはすごい。ネタバレしそうなんで詳しく書けんのが残念だが、一押しです。
コニー・ウィリス。早川でSFをよく書いてるみたいだったが、今まで全くノーチェックだった。迂闊!
9月19日
臨機応答・変問自在2
著者:森博嗣
出版社:集英社(新書)
発行:2002年9月22日
装丁:原研哉
「大学生ともなれば、どう答えるかではなく、何を問うか、で人は評価すべき」
という持論から、自身の講義では必ず学生にひとつずつ質問させて、次回にシンプルに答えを付して配るという森博嗣助教授。
二十年間のその質疑応答の中からチョイスして編集した前作に変わり、今回はインターネットで一般から質問を公募して製作された。
相変わらず質問者より一段高い視点からシンプルに切れよく返す見事な「芸」が炸裂しているが、前作よりはっきり言って面白くない。
と思ったら実は前書きで森博嗣自身がはっきりとそのことに言及していて興味深い。
自身の言うとおり、(森博嗣のファンばかりという)質問者の性質がネックだったようだ。
それでも時々はっとする回答があり、やはりこの人はメチャクチャ頭がいいんだな、と思います。
9月26日
異議あり!『奇跡の詩人』
編著者:滝本太郎・石井謙一郎
出版社:同時代社
発行:2002年6月28日
装丁:?
NHKスペシャルとして放映された「奇跡の詩人」。
重度の脳障害を抱えつつも、母親の持つ文字盤を指差すことにより感動的な詩を紡ぎだしていく11歳の少年・日木流奈の話であった。
ところが「感動した」という反響と共に、「嘘じゃないの?」という問い合わせが殺到。
どう見ても母親が文字盤を操作しているようなのだ。
「週刊文春」はこのような否定的な面からこの事件にアプローチしていく。
やがて少年(母親?)の紡ぎだす言葉が、某宗教団体の言い回しに酷似していることが判明しする。
そしてこの両親が実践するドーマン法というリハビリ法への懐疑。
さらにはその後のNHKの対応への疑問。
番組を見ることが出来なかった人たちがビデオ上映会を開こうとすると、NHKから脅迫的な電話があるらしいのだ。
もちろん、本当に少年が書いているのかもしれない。だが、疑うに足る状況証拠は歴然とある。
9月26日
赤緑黒白
Red Green Black and White
著者:森博嗣
出版社:講談社(講談社ノベルス)
発行:2002年9月5日
装丁:辰巳四郎
さて、これでVシリーズも終わり(らしい)。
最後まで乗り切れず、半ば意地で読み続けていたような気がする。
話自体は最後だからどう、というわけではなく、いつもの通りのミステリ。
今回はミステリでは安直になりがちな「殺人の動機付け」への考察が非常に興味深く、これだけでも読んでよかった、と思う。
でも、やはりキャラが…。
9月26日
怪文書U <業界別・テーマ別>編
著者:六角弘
出版社:光文社(光文社新書)
発行:2002年7月20日
装丁:アラン・チャン
前作
にたいしてあんまりいいこと書かなかったのに、なぜか図書館で見かけて借りてしまいました。
こういうところで自分の中にも下世話なのぞき趣味があることがわかります。
ま、しかし、面白くないこともないですが、やっぱり本としてあまり読み応えはありません。
いいですけど。
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