2003年1月


1月8日

奇遇
奇遇


著者:山口雅也
出版社:講談社
発行:2002年10月20日
装丁:京極夏彦 with FISCO

昨年中から読み続けて、年を跨いでしまいました。大作です。
作家・火渡雅はカジノでの取材を契機に、信じられない偶然をいくつも経験する。一日に同じ人物と「偶然」何度も出くわし、その人物がビルから落下した骰子オブジェで死亡する瞬間を目撃してしまう。しかもそのオブジェの出目は六六のゾロ目。さらに数日後、同じビルから飛び落ちる男を「偶然」目撃し、通行人に当たって両者とも死亡。そこには彼らが持っていたのか、六つの骰子が落ちていた。出目は一一一と六六六。
新興宗教「奇遇」教団の小人・福助と知り合った火渡は、「偶然」を巡る思想的迷宮に囚われていく…。
「偶然とは何か?」というテーマを大極思想、量子力学、シンクロニシティ、神学、民俗学まで総動員して、投げつけてくる壮大なエンターテイメント。
「結局は人の介在が根本原因」的な結論が一度出るが、えーと、実はこの辺の考え方が去年僕が書いた短編「必然なる偶然」とかなりネタがかぶってました。
もちろん僕にはこれだけの知識を駆使することも、これだけの深い思索も、またこれだけ壮大なエンターテイメントに仕上げることも出来なかったので負け犬の遠吠えですが。
しかし山口雅也の長編って実はデビュー作の「生ける屍の死」以来だったのね。
なかなか面白かった。結論はともかく満腹です!


1月8日

刑務所のすべて
元刑務官が明かす刑務所のすべて


著者:坂本敏夫
出版社:日本文芸社
発行:2001年7月30日
装丁:若林繁裕

「奇遇」は去年から読んでたので、実質新年一発目はこれです(笑)。
えーと、タイトルどおりで何も付け加えることはありません。
ちょっと刑務所内のことに興味があって読んでみました。その意味ではよく出来た本です。わかりやすいし、実際的。
「特別司法警察職員」という刑務所内の犯罪を捜査する警官がいるらしくて、そんなキャラを作ってみたらちょっと面白そうかと思いました。
以上です。


1月8日

パイド・パイパー
パイド・パイパー 自由への越境

PIED PIPER

著者:ネビル・シュート
訳者:池央耿
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:2002年2月22日
装丁:東京創元社装幀室
イラスト:杉田比呂美

なんなんだろう、このよさは。
第二次大戦下。引退したイギリス人老弁護士、ハワードはフランスの片田舎への釣り三昧旅行に出かけた。しかしドイツ人が侵攻し、彼はイギリスへの脱出を決意する。ところが、人情的しがらみで次から次へと幼い子供を預けられてしまい、しまいには七人の子供を連れた老人のドイツ軍包囲網突破作戦と化してしまう。
シチュエーションは緊張感あるのに、表紙のイメージどおりのやけに牧歌的なアドベンチャーで、子供が増えるたびに笛を作ってあげるハワードの「いい人」ぶりとあいまって実に魅力的な話となっている。なんの仕掛けもてらいもない、シンプルで面白いお話。堪能しました。
ちなみに「パイド・パイパー」とは、いわゆる「ハーメルンの笛吹き」です。なるほどね。


1月26日

物理学と神
物理学と神


著者:池内了
出版社:集英社(集英社新書)
発行:2002年12月22日
装丁:原研哉

「神」と「科学」のかかわりという壮大な歴史を俯瞰するオモシロ本。
それは、神の存在証明のために進化してきた科学が、神の不在を証明していくというジレンマの歴史であった。永久機関、パラドックス、ラプラスの悪魔、量子力学、カオス、フラクタル、ビッグバン…。
面白かった! エセ理系の僕にもわかりやすく、かといってわかりにくい部分をすっ飛ばしもしていない。良書です。


1月26日

ハリウッド・ノクターン
ハリウッド・ノクターン

HOLLYWOOD NOCTURNES

著者:ジェイムズ・エルロイ
訳者:田村義進
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2003年1月10日
装丁:坂田政則

ああ、ジェイムズ・エルロイの新刊が読める。これがこの世の幸せでなくてなんだろうか。
というくらいエルロイ好きな僕だが、実は単行本のときにこの短編集は読んでいなかった。
エルロイの醍醐味はグチャグチャに入り組んでこねくり回して吐き捨てられたような長編にあると思っていたし、これは「まあいずれ」という感じで読んでいなかった。
いや、不覚だった。エルロイのあの狂気の文体、狂気のキャラ、狂気の展開は短編でもなんら変わらない。最高だ!
ページを繰るのがもったいなく、ただこの狂気に身をゆだねる至福に酔う。珠玉。


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