2003年4月
4月4日
深追い
著者:横山秀夫
出版社:実業之日本社
発行:2002年12月15日
装丁:多田和博
今もっとも勢いあるミステリ作家、横山秀夫の短編集。
いや、まったくどうにもこうにも、もうどうしようもなく、泣きたくなるほどバツグンに上手い。
今回は多少完成度にばらつきがあって、「半落ち」や「動機」までの感動ではなかったが、コンスタントにこれだけ書ければもうひれ伏すしかあるまい。
特にこの枚数でこれだけ深くキャラを書き込んでしまえる処理能力、どうよこれ?
ベストは…って選ぼうとしたらどれもいいのでなかなか選べなかった。ええい!「訳あり」か「又聞き」か「深追い」。この三つが同点でベストだ!
4月10日
100人の森博嗣
著者:森博嗣
出版社:メディアファクトリー
発行:2003年3月30日
装丁:後藤一敬・佐藤弘子
装画・本文イラスト:森博嗣
結局森博嗣の小説をなんで今まで読んできたかというと、小説を通して提示される非常に新しい考え方、すっきりと納得できるエレガントな一貫性、など要するに「森博嗣」という人物を面白がってきたわけだ。
ということは、ダイレクトにその思想が読めるのなら小説を読むなどという回りくどい方法をとることはなく、最近は小説を読まずにエッセイ、日記などを読んでるわけだ。
で、本作は今まであちらこちらに書いてきたエッセイを集めたもの。
それなりに面白く読んだが、基本的に日記を読んでいれば書いてあることが多いので、今回はあまり新鮮味がなかった。
この人の面白さはやはり日記につきます。再読に耐える他人の日記なんてそうないでしょう。
4月10日
イリーガル・エイリアン
ILLEGAL ALIEN
著者:ロバート・J・ソウヤー
訳者:内田昌之
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫SF)
発行:2002年10月20日
装丁:ハヤカワ・デザイン
カバーイラスト:加藤直之
おまえはグリシャムかトゥローか、というゴリゴリの法廷サスペンス。
殺人の容疑者にかけられた決定的な嫌疑。敏腕弁護士による一発逆転のアイデア。陪審制が生み出す緊張感。検事と弁護士の紙一重の駆け引き。すべて一級のサスペンス。
そしてなにより凄いのが、被告席に立つのが人類が始めて接触したエイリアンであることである。
人類は始めて宇宙からの友人を迎えた。トソク族と呼ばれる七人のエイリアンとのファーストコンタクトは順調に進行していた。
ところが、トソク族の滞在する施設で、人間の惨殺死体が発見された。死体は人間には不可能な技術でバラバラにされていたのだ。
しかも唯一アリバイのないトソク族のハスクは、事件の直後脱皮していた。返り血を浴びたためか?
カリフォルニア州警察はついにハスクを逮捕、初の宇宙人との友好関係を憂慮した大統領の密命を受けたフランクは、かつて黒人差別問題で活躍した敏腕弁護士に弁護を依頼。
かくしてカリフォルニア州対エイリアンの前代未聞裁判が開廷された…。
ちっくしょー! この筒井康隆張りのアイデアでもう成功は約束されたようなもの。
そして展開や伏線も丁寧で、一級のミステリとなっている。面白かった!
ソウヤーは他にもミステリとSFのいかした融合作品があるようなので、要チェックだ!
4月10日
われ笑う、ゆえにわれあり
著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:1997年11月10日
装丁・装画:宇治野宗輝
いやはや、自らの不明を恥じ入ります。こんなに面白い本を今まで読んでなかったなんて。
これだけ面白いエッセイ書ける人がこの世にあと何人いるのか。
日本人にはあまりないユーモアセンスの持ち主で、とにかく哲学教授らしく(?)屁理屈のオンパレード。
先日も、もし乗っていた船が沈没して、だれかが犠牲にならなくてはならないとしたら、自分はどうするだろうか、と考えたが、わたしはどうしても子供や女のために自分を犠牲にするだろうという結論に達した。
(中略・・・くどくど自分がいかに人道的か述べる)
そのことを自覚して以来、わたしは船に乗らないことに決めている。
結局助ける気ないんかい!
という感じで落とし方バツグンのくどい考察が続くのだ。これはツボにはまった。
少しでも興味を持った人は、この方の本の「はじめに」や「まえがき」だけでいいから立ち読みして欲しい。この「自信満々の自虐」に買わずにはおれなくなるだろう。
4月13日
われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う
著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:1999年4月10日
装丁:宇治野宗輝
あまりに面白かったので立て続けに土屋賢二第二弾。
これまた絶好調の語りっぷりで、やはり特に面白いのが「はじめに」。
最初の原稿では全三巻となっていたが、余計な部分に容赦なく大ナタをふるったところ、半ページになってしまった。句読点ばかりを半ページ集めたものが本になるわけもなく、妥協の結果、余計な部分を再び入れることにした。
(前作を出版して)親切に感想を寄せていただいた人もあった。大多数は批判的な感想だったが、わたしは多数に従うのを潔しとせず、、あえて無視することにした。きわめて少数ながら好意的な感想もあり、これには謙虚に耳を傾けた。
本書には、以前雑誌に発表したものも含まれている。(中略)かなりの訂正も加えた。ところによっては「……である」を「……でない」に替え、「ホーキング博士はこういった」を「わたしはこういった」に変更した。
延々引用してもしかたないのだが、とにかく淡々と自信と自虐がめまぐるしく入れ替わるのが楽しくて楽しくてしょうがない。
またなんでそんなに、と思うほど妻を恐れているのがサイコ−に面白い。
いやはや、こんな素晴らしいものにめぐりあえて幸せです。
4月13日
人間は笑う葦である
著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2001年2月10日
装丁・装画:宇治野宗輝
さらに行きます第三弾。
とにかく、うまーいこといつのまにか語る対象をずらしてしまっている面白さ、というのが絶妙。
例えば、ジャズピアニストの松本峰明のCDに寄せたライナーノーツで、
わたしは大学で哲学を教えるかたわら、アマチュアバンドでジャズピアノを弾いているが、以前からプロのジャズピアニストに異常なあこがれをもっている。(中略)松本氏の美人の奥さんを見て、ジャズピアニストへのあこがれはますますつのった。こういう奥さんをもらえるなら、ジャズピアニストでなくてさえいいと思う。
という感じ。途中で興味の対象がピアニストから美人の奥さんにごく普通にシフトしてしまっている。上手いなあ、とホントに思います。
今回のお気に入りは「高級レストランでのふるまい方」。最初にある「高級レストラン」の定義づけが最高。曰く、
1.カウンターがない
2.ウエイターまたはウエイトレスがいる
3.食券を買う方式ではない
4.注文を聞きにくる人と調理をする人が違う人間である
5.そこで働いている人が同一家族ではない
6.テーブルがモーターで回っていない
7.店の下に車輪がついていない
ぷぷぷ。引用ばっかりですみません。
今まで読んでなくて損した!とも思うけど、まとめて読める幸せで帳消し!
4月19日
ツチヤの軽はずみ
著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2001年10月10日
装丁:日下潤一
装画:いしいひさいち
まだまだ続きます。今回から週刊文春連載のエッセイです。
まあ何度も同じ著者で書くことないので、また引用します。
このように、何回かくりかえすうちに定着するという現象は広く観察されるが、よく知られた古典的な例は「パブロフの犬」の実験である。これは、パブロフ博士が犬に食事を与えるたびにベルを鳴らすのを十数年続けたところ、犬が死んだという実験である。これにより、ベルで死を防ぐことはできないことが判明した。さらに、犬が死ぬ以前には、ベルが鳴るだけで、自動的にパブロフ博士が犬に餌をやるようになっていたという。
こういうナンセンスな嘘をしれっと書けるのが羨ましいのです。
4月19日
棚から哲学
著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2002年8月10日
装丁:日下潤一
装画:いしいひさいち
われながらどんだけ連続で読むねん!て感じですが、とりあえず文庫読破まで頑張ります(あと二冊)。
相変わらず安定した面白さです。
高熱が出た。三十九度以上の熱が三日巻続いた。だが、どういうわけか、苦痛も不快感もまったくない。(中略)発熱が苦しくないのは、おそらく、熱を出したのが妻だったためだろう。
人間には二種類ある。人から信用されないタイプと、一トンの物を持ち上げられるタイプである。ほとんどの人は前者のタイプだ。
今回で連載が百回目を迎えた。当初は百回もつか、もたないかだ、と思っていたが、その通りの結果になった。
今回、巻末の解説を著者の母親が書いているのですが、なんか知らんがこれがまたメチャクチャ面白い。土屋賢二が書いてるんじゃないの?と思わず疑ってしまう(そうかもしれない)文才です。
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