2003年12月


12月2日

魔


著者:笠井潔
出版社:文藝春秋
発行:2003年9月30日
装丁:京極夏彦 with FISCO

矢吹シリーズではなく、私立探偵飛鳥井シリーズの中編二作です。
ギンギンに「本格ミステリ」するあちらとは違い、こちらは社会派テーマを常に盛り込んだストイックなハードボイルド。
そう、アル中の過去、寡黙、有能というハードボイルドとしては非常にオーソドックスすぎるともいえるキャラを配してますが、そこがかえってストーキングや摂食障害といったテーマの深さを率直に伝えることができるポイントになっているようです。
面白いのですが、会話の不自然さ、というか固さが気になりました。わざとかな?


12月2日

神菜
神菜、頭をよくしてあげよう


著者:大槻ケンヂ
出版社:ぴあ
発行:2003年12月6日
装丁:橘浩貴
装画:羽海野チカ

待望のオーケンエッセイ最新刊です。
いつもならあまりに速く読み終わってしまうのがもったいなくて買うのを躊躇してしまったりするのですが、今回は速攻購入です。
金が余っていたわけではありません。サイン会があったからです。
オーケン「(脱力気味)どうもー。ライブ来て下さいねー」
オレ「は、はい!ぜひ! あああの、ボクこの店の店員なんですけど、今日有休とって並んだんですよ!」
オーケン「ああそー、ありがとございまーす。それじゃあ(握手)」
という感じでした。つかみどころがねーなあ!
中身はいつものとおりの爆笑系です。宣伝が多いのと、「ちょっと悟りすぎちゃったんじゃないか?」というミョーな不安が残りましたが、まずまずのオーケン節。
「忘れない 二人で踊った ヒゲダンス」と「ドアをあけたら森本レオ」のネタがサイコ―でした。がっはっはっは!


12月2日

デブの帝国
デブの帝国

FAT LAND

著者:グレッグ・クライツァー
訳者:竹迫仁子
出版社:バジリコ
発行:2003年6月25日
装丁:河野宗平

んーあんまり面白くなかったです。
もっと痛烈にアメリカ肥満社会を風刺している本かと思っていたら、ものすごくきっちりまじめにどうやってあの肥満大国ができたのかを考察していました。
貿易摩擦から東南アジアの安い油が大量に流入し、マクドナルドがバリューセットを発明し、教育費の削減が学食の衰退、ファーストフードの校内出店を招く…といった流れです。 ま、それはそれで興味深いのですが、文章にあまり芸がなくて面白くなかったな、と。
ちなみに先日の健康診断でビックリするほど太っていたので、今年二回目のダイエット開始中です。


12月2日

空想科学漫画読本3
空想科学漫画読本3


著者:柳田理科雄
出版社:日本文芸社
発行:2003年11月25日
装丁:下平正則

漫画の一コマからどれだけ科学的解釈が可能かを問う、おなじみシリーズです。
例えば「かってに改蔵」という漫画において、主人公は高校プールで水圧0.5%、水温0.2%、水位0.5cm上昇というデータを感知し、勃起者がいる、と結論する。
実はプール内の男子全員勃起していたのだが、そこから著者が算出した結果によると、全員が全員直径48cm、長さ1m45cmというイチモツを持っていたらしい。
というようなどーでもいい計算を延々とやっているわけだ。
しかし、ほんとにどーでもいいな(笑)。


12月17日

山ん中の獅見朋成雄
山ん中の獅見朋成雄


著者:舞城王太郎
出版社:講談社
発行:2003年9月25日
装丁:Veia 山口美幸

お気に入り作家、マイジョウの最新作です。
今回の話は、えーと、わけわかりません。
モヒ寛という書道家と遊んでた中学生の獅見朋(しみとも)くんが、山中異界のような変な人食い風俗のある集落に迷い込んでしまい、そこでなぜか女の子を磨くという仕事を得て、慣れてしまったけどなにがなにやら、ウサギちゃんという女の子となんとか脱出するという、んー―「千と千尋」マイジョウ版といってはそれまでだけど、相変わらずヘンなリズムで一気に読ませてくれました。
今回特に感心したのはほとんどギャグ寸前の擬音描写。「しゅりんこき しゅりんこき」これは墨を磨る音です。他にも擬音だらけで、なかなか新鮮な試みでした。
ただ、残念ながら完成度はあまり高くなかったです。


12月17日

隠された証言
隠された証言 日航123便墜落事故


著者:藤田日出郎
出版社:新潮社
発行:2003年8月15日
装丁:新潮社装幀室

なかなか面白かった。
日航123便墜落事故、いわゆる御巣鷹山の大惨事について、今の今まで事故調査委員会が生存者の極めて重大な証言を隠蔽していたことが明らかになった、というノンフィクションです。
隔壁破損→機内急減圧→爆発による垂直尾翼破損→墜落というのが一貫した事故調査委員会の出した結論だったのだが、著者(元日航社員で事故調査のベテラン)は疑い、内部告発者の協力を得て、生存者の収容直後の証言「急減圧はなかった」という資料を得る。
ボーイング社の機体すべての問題ではなく、あくまであの事故機体のみの整備ミスであることを印象付けるためのシナリオだったのか?
早くに米軍機が上空に現れたにもかかわらず、なぜ墜落現場の特定が遅れたのか。
地元ボランティアは別方向に誘導されたという証言、生存者を運ぶべきヘリを要人輸送に優先していたという噂など、「もっと多くの生存者を救出することができたはずなのに(あえてしなかった)」という恐ろしい状況が見えてくる。
この本をきっかけに事故の再調査は始まるのだろうか。


12月17日

やぶにらみ科学論
やぶにらみ科学論


著者:池田清彦
出版社:筑摩書房(ちくま新書)
発行:2003年11月10日
装丁:間村俊一

これも面白かった。 生物学のエライ人だが、社会全般について実に深い考察をしながら、辛辣に、そして年寄りの繰言的に実に楽しくかましてくれる。こりゃ芸のある人だわ。

巨大技術(とその具体化である巨大建造物)は、ひとたび設置が決定されると拒否できないという点で暴力的な装置なのだ。だから、これに反対しようとする人々が暴力的になるのはある意味でやむを得ない。

こういう観点で市民運動の暴力性を見る人は初めてだ。新鮮。
クローン人間の倫理的問題なども、独自の論点からがっちりとまっすぐに意見しているので読んでて気持ちいい。
もう少しこの人の本を読んでみたくなりました。


12月30日

真夜中のマーチ
真夜中のマーチ


著者:奥田英朗
出版社:集英社
発行:2003年10月10日
装丁:岩瀬聡

まあまあでしたね。
ふとしたことで知り合った三人組がインチキ画商の裏金10億を狙う、というお話ですが、この人「最悪」でもそうだったけど、キャラ立てが上手い。
上手いけど、ちょっと今回はコメディタッチでいったのが裏目に出てリアリティのない話になってしまったのが残念。
どうしようもなく追い込まれた人の悲哀が逆に面白おかしくなってしまった「最悪」と、そこが違う。
レベルは高いです。小さな苦言です。


12月30日

ソクラテスの口説き方
ソクラテスの口説き方


著者:土屋賢二
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2003年12月10日
装画:いしいひさいち
装丁:日下潤一

おなじみ週刊文春連載のエッセイです。
ほんとによくネタが続くなあ。というか、どんな小さなことでもこねくりまわしてネタ化することができるのがこの人の才能というべきだろう。
自分にはエッセイの才能が欠片もないと思っているので、この人やオーケンの文才を見ると羨ましいです。
ただ漫然と書いているこのHPもそろそろ考えないとね。


12月30日

洗脳護身術
洗脳護身術


著者:苫米地英人
出版社:三才ブックス
発行:2003年10月20日
装丁:水戸部功

以前読んだ「洗脳原論」には目から鱗をぼとぼと落としてもらったので、その著者の最新作、チェックしました。
前作から一歩進めて、洗脳から身を守るための護身術を説いてくれます。
「護身術」とは何かというと、要するに「洗脳とはどうやるのか」という情報ですね。
敵を知ることによって防衛する。つまりどういうことか。
そう、この本はメチャクチャ具体的な洗脳のやり方を開示しているのである。
自ら変性意識状態になり、相手もその状態に引きこみ、ホメオスタシスを同調させ、情報を刷り込むという方法です。すげえ!
ただ、当たり前だけど相当難しそうです。
今回で目から鱗だったのが、いわゆる「気」のパワーというのは物理量として存在するのか、という論点。
今までのパラダイム的には、これはまあ一種のプラシーボで、例えば気で吹っ飛ぶ人というのは、無意識に術者に洗脳されて自分で飛んでいる、という感じであったと思う。
ところが著者は新たな説を披露。手のひらから放射される電磁波に乗せられた情報が、相手のホメオスタシスデータを書き換えている、と言う。
電磁波そのもので飛んでいるのではない。言語が物理的実体ではないのと同様に、気も物理的実体ではないが、電磁波をメディアとして伝達される情報だというのだ。
んんーほんとだろうか? この著者はちゃんとした学者で脳機能学などで非常に立派な経歴があるので、エセ科学的なハッタリはしないと思われるのだが…。
まあなんにせよ面白い本です。つかえそうなネタいっぱいあるしね。


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