2004年7月


7月10日

トリイ・ヘイデン
シーラという子


ONE CHILD

訳者:入江真佐子
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫)
装丁:BUFFALO.GYM
発行:2004年6月10日
ISBN:4-15-110201-9
定価:724円

児童虐待ノンフィクションの先駆けとなった本ですね。
満を持してようやく文庫になりました。というわけで、いただきものです。
なかなかよかったです。
近所の三歳の子どもを木に縛りつけて火をつけた六歳の少女、シーラが問題児ばかりを集めたトリイ・ヘイデンのクラスに送り込まれる。
アメリカ版金八先生といった感じで、トリイの情熱的な教育で徐々に心を開いていくシーラと子どもたちが描かれます。
しかしお涙ちょうだい的な安易さはなく、そのへんはわりとクールに淡々と進行するのが好みでした。
続編(タイガーと呼ばれた子)は、まあ折りを見て読みましょうか。


7月10日

高島俊男
お言葉ですが…5 キライなことば勢揃い


出版社:文藝春秋(文春文庫)
装丁:日下潤一
発行:2004年6月10日
ISBN:4-16-759806-X
定価:619円

五巻目が文庫になりました。めでたいめでたい。
何度も言うけど、メチャメチャ好きなんです、このシリーズ。
お行儀が悪いですが、僕は片手で食べられるご飯(カレーとかね)のときは、なにか読まないと気持ち悪いんです。
そういうとき小説は重いし、初めて読むものも集中力が偏ってしまうしで、今まで読んだことあるエッセイなんかをもう一度紐解くわけです。
というわけで、このシリーズはご飯のお供として、何度も何度も読み返してしまいます。
また、それだけ読み返しても常に新たな発見というか、眼から鱗が落ちる思いがして、実に楽しい。
そんなに好きなら単行本のとき買えよ、という意見もあるでしょうが、この手のものはやはり文庫だからいいんです(うまく説明できないけど)。
それに、この本、週刊文春で掲載したときの読者からの反応や意見に対して「あとからひとこと」ってのを単行本のときに加えるんです。
で、その単行本でさらに読者や識者から反応があり、文庫ではさらに書き加えられる。
つまり文庫版が最も充実しているわけです。
素晴らしく楽しい文章で博学をさらりと披露し、またときには舌鋒鋭く斬って捨てる。
今回では「符号は意味をハッキリと」の回の「あとからひとこと」が実に痛快でしたね。
読んだことのない方、オススメします。


7月10日

大槻ケンヂ
オーケンの、私は変な映画を観た!


出版社:キネマ旬報社
装丁:加藤靖隆
発行:2004年6月30日
ISBN:4-87376-249-9
定価:1400円

オーケンお得意の、アングラ、サブカル、極北の映画評論。
相変わらずオーケン節が唸ってます。面白いです。
「エアポート'80」で、飛行中のコンコルドの操縦席横のガラス窓をがらりと横開きに開けるジョージ・ケネディには大笑いしました。
ちょっとオーバーに書いてるのかもしれないけど、話芸で許す、みたいなおかしさ。
ひとつヘンな映画を観たらば、そんなテーマならこれもヘンだったなあ、と次々思い出して話を広げられるのは、なにげに積み重ねと記憶力がすごいんですね。
「トカレフ」の阪本順治超能力肯定説は違うんじゃないかと思いましたが(笑)。


7月25日

大沢在昌
パンドラ・アイランド


出版社:徳間書店
装丁:岩号重力+WONDER WORKZ
発行:2004年6月30日
ISBN:4-19-861868-2
定価:1900円

大沢氏の「新宿鮫」ではない小説を読むのはほんとに久しぶりです。
更新が遅れてしまったのですが、先日東京に行ったときに大沢在昌氏、宮部みゆき氏、京極夏彦氏にお会いする機会があったので三人の新作を読んでおこうという目論見でした。 これがなかなか面白いものでした。
いろいろあって警視庁を辞めた刑事が、南海の孤島(一応東京都)で村役場所属の「保安官」として再就職。
しかし彼が来たとたん、一見平和だった村と化学反応を起こしてしまったかのように事件が次々と起こる。
村自体が隠蔽してきた過去、主人公の過去、両者が徐々に明らかになってきて緊迫感ある展開です。上手いなあ。
この作品は新聞に長期連載されたものですが、大沢氏にお会いしたときに「長編を連載するとき、どこまで最初に考えているのですか?」と訊いてみたところ、「ほとんどなんにも考えてない」というすばらしい答えが返ってきました(笑)。
キャラクターと設定だけ決めて後は筆の赴くままだそうです。そうやってもちゃんと話が落ち着くべきところに落ち着いてしまうのがやはりプロの技量というものでしょう。
ただ、やはりときどきちょっと無理もありますけどね。この作品では、狭い村中をしらみつぶしに探したはずなのに、中盤になっていきなりまだ見ていなかった家というのがあっさり発見されたりしたところにそんなひずみも感じました。
ともあれ、久々に大沢ハードボイルドを堪能しました。良作です。


7月25日

宮部みゆき
ICO 霧の城


出版社:講談社
装丁:鈴木成一デザイン室
発行:2004年6月15日
ISBN:4-06-212441-6
定価:1800円

さて、これも同様に著者にお会いする前に、と読んだものです。
宮部みゆきは現代物は好きなのですが、最近よく書いているファンタジー系は読んでいませんでした。
聞けば、本人があまりにゲームにはまっていて、ファンタジーを書きたくなったとか。
この作品も、オリジナルはゲームだそうで、宮部さん自らノベライズを希望したそうな
。 いかに映画の「ロード・オブ・ザ・リング」にはまったとはいえ、そもそもファンタジーは僕にとって鬼門。
ファンタジー特有の設定のご都合主義というのがどうにも好きになれなくて、その点やはりこの作品でもなかなか入り込めませんでした。
しかし筆力はさすがなもので、読んでいる間は飽きさせず引っ張ります。このへんは貫禄ですね。
ご本人は、とにかくかわいらしいお方でした(笑)。


7月25日

京極夏彦
百器徒然袋 風


出版社:講談社(講談社ノベルス)
装丁:坂野公一
挿画:石黒亜矢子
発行:2004年7月5日
ISBN:4-06-182379-5
定価:1300円

で、京極夏彦氏にもお会いするので…と思いましたが、残念ながらお会いするまでには読めませんでした。
探偵榎木津礼二郎シリーズ(別名、本島くん巻き込まれシリーズ?)の中篇三作の詰まった濃い本です(笑)。
とにかく文章と展開のくどさがたまりません。これがないと京極とはいえません。
語り手の本島くんがとにかく愚痴ばっかり言ってます。もちろん超絶探偵・榎木津の豪快なめちゃくちゃさを引き立てるためでしょう。 ベタですが、見事な対比で痛快です。
しかしこのシリーズになると、なんか京極堂のキャラがいつもの長編のときと違うような気がするんですが。
作風に合わせてなんか茶目っ気のある人になってるような…。
なお、姑穫鳥の映画版には京極氏はまったく関わっていないとのことです。
個人的には、阿部寛の榎木津はかなりオーケー(笑)。


[書評部屋トップへ]

[トップへ戻る]