映画はあいつと観に行きたかったのばかり。
一緒に観れないどころか、
花とアリス劇場公開になったよ。ということさえ伝えられない。
あいつと連絡のとれない携帯電話なんて
持っててなんの意味があるのだろう。
話したいことが次々と溢れ出てくる。
喉の奥から溢れ返りそうになるそれを、慌てて飲みこむ。
どれも下らない話ばかりだ。
それでもあいつに話さなきゃ意味のないことばかりに思えて
誰にも言ってない。
私はお喋りな女だけど、あいつに話したいと思うことは、
他の誰にも言ってない。
あいつじゃなきゃ意味がないから。
面白いと思ったことも、些細で下らない出来事も、観たい映画も、
ぜんぶ。
ぜんぶ他のだれかに話すのでは意味がないし、
話したいとも思わない。
 
行き場をなくした言葉や気持ちに胸が締めつけられる。
苦しくてどうしようもなくなって泣くことしか出来ない。
けど泣きはじめると、
あいつで胸や頭がいっぱいになって
ますます苦しくなるんだ。
あの日から気付いたら5キロ痩せてて
もともと痩せっぽっちの私の身体は
あばら骨がわかるほどになった。
胸はすっかりなくなってやばいなあと思いながらも
食欲は戻らない。
 
ヨーグルトとうどんばかりをゆるゆると食する。
誰かと食事するときは無理矢理に押し込む。
押し込めばちゃんと身体は受け付けてくれるのだ。
拒食症だとかでは決してない。
ただ食事に対する欲求というのが殆どなくて、
ひとりでの食事は、
喉元を通りやすいゆるゆるとしたものばかりを選んでいる。
センチメンタル気取りの自分にうんざりしながら、
それでもたぶん暫くはこんな日々が続くのだろうと思う。
 
 
 
あいつの声を聞きたい。
ただそれだけでいいのに。