誓いを背に… 前編
shinichi miyano:side
俺の名前は、宮野 新一。杯戸高校に通う、2年生だ。
世間一般じゃ、工藤 コナンって言って、元高校生探偵の工藤 新一の息子と並び称されてる高校生探偵だ。
それで、そのコナンって奴と一緒で、工藤 新一って奴と俺がソックリなんだそうだ。
しかも名前が新一っていうもんだから、工藤 新一の愛人の子じゃないかって、色々と雑誌やら新聞紙に叩かれてる。
そんな俺は、母親である宮野 志保と二人暮しで、今はあるマンションの一室に暮らしてる。
・・・俺の父親は、俺と母さんを捨てて出て行ったらしい。
ま、父親が分からねぇってのも、工藤 新一の息子だ、なんて叩かれる理由の一つでもある。
・・・だけど、もしかすると本当にそうなのかも知れない、って思うこともある。
母さんの、俺を見る瞳が・・・違う。
たまに、俺を見ているその瞳が、愛しそうにジッと見詰てる時が・・・ある。
それは、息子に対して、ではなく、愛しい”男”への視線だと気づくのに、そう長くは掛からなかった。
とすれば、考えられるのは、たった一つ・・・。
俺が、その男に似ている、ってことだ。しかも、母さんはまだソイツのことを、愛してる・・・。
どうして?俺と母さんを捨てて出て行った奴のことを、どうしてそこまで愛する?
違うんだ。きっとソイツは、俺達を、母さんを一時でも愛してはいなかった。母さんは騙され、見捨てられたんだ・・・。
もし、俺の父親が工藤 新一だと想定するなら、その頃工藤 新一は、結婚した頃・・・。
しかも、相手である工藤 蘭が身篭ったことが判明した頃だ。
・・・母さんは、二股を掛けられてた?・・・いや、違う。遊ばれてたんだ。
「工藤 新一、か・・・」
俺は、ポツリと呟いた。
確か、母さんの話を聞く限り、その当時親身に関わった相手は限られてる。
阿笠 博士・服部 平次・黒羽 快斗・工藤 新一
その中で、母さんが殆ど語らなかった相手・・・それが、工藤 新一だった。
もっとも、母さんは俺が小学校に上がった頃からは昔の頃の話はしなくなった。
俺の記憶にあるのは、幼稚園の頃、母さんがたった一度だけ話してくれた時の記憶だ。
母さんも、流石に幼稚園の頃の些細な記憶が残ってるわけない、と踏んだ上で話したんだろうけど、俺は他の奴とは違う。
いやに、頭が良いし、・・・記憶力もいい。ホント、嫌なくらいに・・・。
そして、開花した探偵としての素質・・・。全てが、工藤 新一、その人を指し示していた。
「工藤 コナン・・・いい材料じゃねぇか・・・」
俺は、今まで工藤 コナンとの関わりは一切持たないようにしていた。
俺と同じ顔をしている奴と、会いたくはなかった。
だから、俺を贔屓にしてくれてる高木警部にも、どちらかが呼ばれてる時に、もう一方を呼ぶのを差し止めていた。
ある雑誌では、二人の高校生探偵の対談、なんて企画も考えたみてぇだけど、全部断った。
しかし、今回、時が廻ったらしい。
俺は、手元にあった携帯に手を伸ばすと、高木警部の携帯に電話をかけた。
『はい、高木ですが』
「お久しぶりです、警部。新一です」
『あァ、宮野君か。一瞬、工藤君かと思ったよ。目の前にいるのに、どうやって!ってね』
明るく笑う高木警部とは反対に、俺は顔を顰めた。
「高木警部、今、厄介な事件が出てるらしいですね」
俺は、手元にあった新聞にチラリと目を走らせながら言った。
見出しには、”女子大生連続殺人事件に”高校生探偵 工藤 コナン”出陣!”と間抜けな文章が書かれていた。
『連続殺人のことかい?・・・しかし、これは工藤君がもう出てるよ?』
「クスッ・・・。最近、こっちに廻ってくるのって、大抵簡単な事件なんですよ。だから、久しぶりに頭を回転させておきたくって」
『簡単って・・・。これでも、警視庁が手を焼いてる事件ばかりなんだけどねェ』
「兎も角、現場に行っても構いませんか・・・?」
『あァ、勿論だよ。宮野君が居てくれれば、解決もスムーズになるだろうしね。現場だけど、住所は米花町の・・・』
俺は、事件の要点と住所を聞くと、着替えを済ませ、家を出ようとした。
「あら、何処かに行くの?」
「・・・あァ、ちょっと現場にな」
「現場・・・って、最近は連続殺人の事件以外、目ぼしい事件はないんじゃなかったかしら?」
「・・・だから、その連続殺人の現場に行くんだよ」
「・・・!?で、でも、その事件には、工藤君・・・工藤 コナン君が出てるんでしょ・・・?」
”工藤君”と発した時の表情、それは尋常じゃなかった。
・・・トラウマ、みたいなもんか。
「”厄介な事件”なんだよ。だから、もしかすると長いこと現場に居ることになるかもしんねぇ」
「厄介な、事件・・・ね・・・。分かったわ、気をつけてね」
「あァ・・・」
なんだ・・・?
さっきの”工藤君”と同じような反応してたけど、思いつく節がねぇ・・・。
復唱した、”厄介な事件”ってのに、なんかあんのかァ?
俺は、首を傾げながらも、家の前に置いてある単車に跨り、現場へと向かった。
現場―
現場に着くと、高木警部が快く向かい入れてくれた。
「やァ、すまいないね。わざわざ来てもらって・・・」
何故か、警部のクセに腰が低い警部は、皆にも好かれてる。
「いえ、いいんですよ。・・・それで、工藤君は?・・・実は、初めて会うんで、挨拶くらいしておかないと、ね」
「そうか、初めて、か・・・。工藤君・・・あ、工藤 新一君の頃は、大阪の服部 平次っていう高校生探偵のコと仲が良かったんだけどね。そうか、君達は初めてか」
同じように仲が良くなるといいよねェ、などと呑気に言っている警部には悪ぃけど、仲良くする気なんて、さらさらねぇよッ!
そして、少し歩いていくと、まるで鏡でも見てるかのようにソックリな、工藤 コナンは居た。
「・・・宮野 新一君、ですよね?」
コナンは、ニッコリと笑って見せた。
「どうも、工藤 コナン君」
俺も、敵意を出さないよう、最大限に注意を払って微笑んだ。
「それじゃ、僕は現場で目ぼしい物証が出てないか、確認してくるよ」
「あ、お願いします」
高木警部の発言に、コナンはニッコリと微笑みながら言った。
「・・・で、何で俺をそんなに避けてたわけ?」
突然の質問に、俺は吃驚した。
そして、その質問を投げかけたコナンには、ニヤリと意地悪そうな笑みを称え、上目遣いで俺を見た。
「・・・別に避けてたわけじゃねぇけど?」
「嘘つくなよ。警部に言ってたんだってな?俺とは一緒に仕事したくねぇって・・・」
「したくねぇってわけじゃねぇよ。二人居ても、無駄なだけだと思ったんだよ」
「ふぅん。で、今日来たのはどういう風の吹き回しなんだ?」
懐疑的な表情をしながら、納得したように鼻を鳴らしたコナンは、事件の資料に目を落としつつ尋ねてきた。
「どういう・・・って・・・。事件が難航してるみてぇだったし、最近はつまんねぇ事件ばっかだったから、ってだけだよ」
「へぇ、そう・・・。にしても、ホント似てるよな?俺と、お前」
ピクリ、と俺は体を震わせた。
コナンには悪気は無いらしい。ニッコリと微笑んでいる。
しかし、俺にはその口元の笑みが、工藤 新一が母さんを嘲笑う顔に見えた。
「・・・おめぇと俺が似てる、だと・・・?冗談じゃねぇ、おめぇみたいな・・・あんなクズの息子と一緒にすんじゃねぇよ」
俺は、白い目でそう言うと、呆気に取られてるコナンを他所に、踵を返し、警部の元へと向かった。
それから、俺は一切コナンと口を交わさず、警部を通しての事件の意見交換をする程度だった。
そして、俺達の知恵がどうにかして上手くかみ合い、事件はその日のうちに結末を迎えた。
結局、犯人は前に被害者達に苛められていた女性で、同じように痛めつけてやりたかった、と言ったらしい。
そして、事情聴取も終わり、警視庁から出たのは、夜の9時ごろだった。
ま、いつもに比べれば早い時間帯に帰れた、ってところだ。
「おい、挨拶もなしに帰る気じゃねぇだろうなァ?」
背後からの問いかけ・・・。
誰か、なんて振り向かなくても分かってる。
工藤 コナンだ。
「別に、おめぇに挨拶しなきゃならねぇ義務はないはずだけど?」
「フッ、口が悪ぃな。なんか、俺のこと嫌ってるみてぇだし?あ、あれか、雑誌とかで言われてる、愛人の子じゃないかってやつ」
ずばり、コナンの奴は言い当てた。
「あんなもん、気にすることじゃねぇだろォ?俺だって、いつ事件を解いたって、工藤 新一の名前が付いて廻ることくらい、もう分かったしな・・・」
「フン、そんな単純なことじゃねぇよ・・・。俺はな、おめぇみてぇな恵まれた環境で育ったわけでもねぇ・・・。お前みてぇな坊ちゃんが嫌いなだけだよ」
「妬みか?・・・それこそ、単純過ぎるな。もっと、深い訳があるって踏んでたんだが・・・、違ったか?」
無邪気に笑顔を振りまくコナンに、俺は嫌悪感を覚えた。
「おめぇには関係ねぇだろ!?話しかけんじゃねぇよッ!」
「ほら、そうだ。坊ちゃん、ってのが嫌いなわけじゃない。お前は、”俺”が嫌いなんだよ・・・。何でだ?今日初めて顔あわせて、それ以前から嫌ってる」
「んなことねぇって言ってんだろ!?」
「・・・父さんか?工藤 新一が関係してるんだろ?」
「くっ・・・!!」
どうして、探偵ってのはこんなに鋭いんだよッ!
唇をかみ締め、俺はコナンを睨みつけた。
「・・・殺人者の瞳をしてる。俺と、お前は外見は似てても、瞳が違うんだな。・・・やっと、最初に感じてた違和感が分かった・・・」
「殺人者の瞳、だ・・・?フン、おめぇみたいな下種に、んなこと言われたくねぇな!」
「下種、あんなクズの息子・・・。色んなピース(キーワード)が出てくるな・・・。ま、どっちにしても、お前は工藤 新一が嫌いで、その息子である俺すらも嫌ってる、ってことだろ?」
呆れたような物言い方に、俺は怒りを沸騰させた。
「おめぇは、何も分かっちゃいねぇんだよ。工藤 新一の上っ面しか知らねぇ・・・。父親としての、優しい表面しか知らねぇんだよ。あの、残忍極まりない、最低男の素顔すら想像出来ない・・・」
「・・・俺だってな、自分の父親が貶されたら、頭にくるんだぜ・・・?その、貶す理由を聞かせてもらわねぇとなァ・・・」
「フン、おめぇの親父さんに聞けばいいだろ・・・?宮野 志保って、名前出せば、分かるかも知れねぇぜ・・・?」
「宮野、志保・・・?それって、おめぇの母さんの名前か?・・・ってことは、父さんとおめぇの母さんは知り合いなのか・・・?」
「・・・存在すら知らなかったようだな。そんなおめぇに、工藤 新一の何が分かる・・・?まぁ、精々、工藤 新一のポーカーフェイスを見破れるようになれよ」
俺は、そうはき捨てると、自宅へと帰った。
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管理人の感想
「誓いを立てて」の続きだと言うことです。
この高校生探偵って危険だなあ・・・
パートナーでもないし、憎しみと言う言葉が浮かんでしまう。
でも、どこか新鮮ですねえ。りゅうさん有難う!!
次は、中編です。お楽しみに!!