誓いを背に 中編
conan kudo:side
「なんだってんだよ・・・」
俺は、宮野 新一の言葉に戸惑っていた。
自分の父親を嫌い、貶した相手・・・しかし、俺の知らない父さんを知ってるみたいで・・・。
困惑した。
父さんは、あの優しい父さんは偽物なのか・・・?
あの優しさは、嘘なのか・・・?
「チッ、どうせ戯れだろうけどな・・・」
俺は無理やり、そう結論付けると、自宅へと足を向けた。
「・・・でも、本当なら、父さんは、宮野の母さんになにかした、ってことだよな・・・」
宮野 新一と父さんが接点を持ってるわけがないし、あいつの母さんの名前である”宮野 志保”の名前を出せば分かるかも知れない、と言ったんなら、父さんは、あいつの母さんに危害か、何かを加えた、ってことになる。
俺はそこまで考え、無意識に父さんが悪者、のような考えになって行くのに気づき、慌てて首を振り、今まで考えたことを頭から消し去った。
「ただいまァ・・・」
俺は、気分が優れない状態のまま、自宅へと着いた。
そして、母さんは笑顔でお帰り、と言ってくれた。
・・・父さんは、母さんを裏切ることは、ぜってぇしねぇよな・・・。
「父さん、何処?」
「お父さんなら、書斎にいると思うけど?」
俺は、事件から帰ってくれば、直ぐに父さんのところに行き、事件について二人で話し合うのが決まりのようなもんだから、母さんは俺が父さんの居場所を尋ねても、不審には思わなかった。
・・・白黒、ハッキリつけて、あいつに説明してやらねぇとな。ずっと恨まれっぱなしだと、気分悪ぃし・・・。
俺は、書斎のドアを軽くノックし、部屋に入った。
「お帰りぃ・・・。事件はどうだったんだ?」
父さんは、なんの不審も抱かずに尋ねてきた。
「宮野君が来て、二人で解いたらアッという間に片付いたよ」
「宮野ォ?なんだ、宮野には避けられてるみてぇだって、言ってなかったか?」
「・・・まァ、色々あってさ。・・・ところで、父さんに聞きたいことがあるんだ」
「あんだァ?事件でまだ突っかかってんのがあんのか?」
「そうじゃなくて、宮野って言えば、”宮野 志保”って人もいたよなァ、って思ってさ」
俺は、宮野に聞いた、と悟られないように、さり気なく話題に上げた。
すると、父さんは一瞬顔を引き攣らせた。
「・・・そんな人もいたかな・・・。ところで、誰から聞いたんだ?”宮野 志保”の名前・・・」
父さんは、初めてココで見ていた本から視線を外し、顔を上げて俺を見据えた。
「・・・どこで聞いたか、は忘れたけど、確か父さんの知り合いだった、よね・・・?」
「・・・まァな・・・。で、それは何時頃聞いた話なんだ?」
追求の手を止めない父さんに、俺は逆なでするように口を開いた。
「確か、18年くらい前から姿を見せないんだってね」
コレは、俺の推測だ。
宮野 志保を知っていて、ずっと会ってるんなら、宮野 新一のことを知らないのはオカシイ・・・。
となれば、宮野 新一が身篭った頃から連絡を取ってない、と考えるのが普通だ。
そうすると、アイツは俺と同い年で17歳・・・その1年前に身篭ったことが判明してるはずだ。
それを考慮した上、俺は話した。
すると、父さんの顔は先程よりも一層強張った顔になった。
・・・待てよ・・・。18年前っていやァ、俺が身篭ったことが判明した時期でもあるんだよな・・・。
それでいて、父さんと母さんが結婚した年・・・。
そして、宮野の名である”新一”・・・。宮野が父さんを恨んでることをまとめれば・・・。
・・・・・・嘘だろ・・・・・・?
「誰から、聞いたんだ?”宮野 志保”の名前は・・・!」
ビクリ、と俺は体を震わせた。こんなに心底怒った父さんを見るのは初めてかも知れない・・・。
しかし、俺の推測が正しいとすれば・・・宮野が怒るもの無理はない。
「・・・父さん、俺は真実を知りたいんだ。宮野 志保さんに、なにをしたかってことをね」
俺は、初めて父さんに盾突いた。
父さんは俺を恐ろしい程の怒りの瞳を見つめ、俺はそれを返した。
・・・今の父さんの顔、宮野にそっくりだよな・・・。なんてことを考えながら。
「・・・なにをしたか?・・・ハハ、コナン、何か勘違いしてるじゃないか?父さんはなにもしてないさ。彼女は・・・数年の付き合いだったが、10年分の付き合いに当たる付き合いだった。勿論、付き合うと言っても、友達として、だ。謂わば、戦友だよ」
「俺は、そんな弁解がましい言葉を聴きたいんじゃない!一つは、父さんがしたこと、二つは、宮野 志保さんと、母さんへの謝罪の言葉だ!」
俺は、既に推測を確信へと進めていた。
コレほど表情を崩し、怒りを露にしたのは父さんは初めてだった。それでいて、なにもないはずがない。
・・・事実なんだ。宮野に、謝んねぇとな・・・。
俺は、哀しい程冷静にそんなことを考えてた。
そして、母さんが哀れでならなかった・・・!
「父さん、俺は全部知ってるんだ!どうして、どうしてなんだよッ!母さんを愛してなかったのか?それとも、志保さんは・・・志保さんは・・・」
「もういい!黙るんだ!」
父さんの制止の言葉に、俺は言葉を止めた。
そして、いつの間にか溢れ出た涙を、一生懸命拭った。
「明日、明日話そう・・・。明日は仕事もなにもないからな。久しぶりに、話そうとは思ってたんだ。・・・こんな話題になるとは思わなかったけどな」
「・・・今話すと、困ることでも?」
「・・・母さんがいるだろ。明日、母さんは服部のところの和葉さんと出かけるらしいから・・・。それに、今立て続けに怒鳴りあったからな。そろそろ不審がって覗き込んでくる・・・。いいか、明日まで、自然に振舞ってろ。・・・それと、もしもお前が宮野 志保の居場所を知ってるとするんなら・・・呼んでくれるか?どうも、お前は話を聞いただけじゃねぇみてぇだからな」
疲れたように笑う父さんは、今にも消えそうだった。
疲れて、全てを失った人のようで・・・、儚かった。
「・・・志保さんは、家族がいるんだ」
「・・・そうか、家庭を持ったのか・・・」
「家庭、とは呼べない家庭をね」
「?」
「一応、その人も関係者だから、呼んどくよ」
そう言って、俺は書斎を出た。
・・・父さん、やっぱ知らないんだよな。
自分に、もう一人子供がいること・・・。
「どうかしたの?」
「あ、母さん。・・・何にもないよ、気にしないでいいからさ。ちょっと、父さんと推理の意見がかみ違ったんだ」
母さんを心配させないように、俺はそう嘘を吐いた。・・・母さんに嘘を吐いたのも、初めてだな。
なんか、今日は初めて、が多かったような気がする。
初めて、噂の宮野にあって。
初めて、父親を貶されて。
初めて、父さんに盾突いて。
初めて、父さんの本当の怒りを見て。
初めて、父さんの過去を知って。
初めて、父さんを許せないと思って。
初めて、母さんに嘘を吐いた。
いや、良く考えればもっとあったかも知れない。
でも、父さんの瞳が思い起こされて・・・怖い。
所詮、俺は子供なんだ。
コレが、宮野だったら平気に立ち向かって行くのかも知れない。
・・・坊ちゃん、か・・・。
まるっきし、外れてるってことでもねぇよな。宮野は、色んな辛いこと経験してんのに、俺はノウノウと暮らしてて、探偵もやってさ・・・。
俺は、自嘲したような笑みを浮かべながら、部屋に戻り、宮野に電話をかけた。
明日、さっきのことについて話したい。勿論、父さんも一緒に・・・。だから、志保さんと一緒に来てくれ、と・・・。
そして、俺は疲れきって眠りについた。ご飯を食べる気力だって、もうなかったしな。
翌日が訪れることが、一生無ければいいのに・・・。でも、父さんの真実を、父さんの口から聞きたい・・・。
そんな想いが交差していた。
翌日―
親子三人で、一緒に朝食を食べて、楽しく話をして・・・。
母さんは何も知らずに和葉さんと買い物に出かけた。
・・・一番の被害者は、誰なんだろう・・・。
出て行く母さんの後姿を見詰ながら、俺はそんなことを考えてた。
「コナン、宮野・・・志保は来るって言ってたか?」
「・・・俺は、直接志保さんと接触してるわけじゃないんだ。志保さんの、家族の人と知り合いになったんだよ。その、家族の人は、来るって言ってたよ」
「そうか・・・。それじゃ、その人が来るまで、どうしてようか・・・。昨日の事件の話でもしてくれると嬉しいんだけどな?」
ニコリと笑う父さんは、いつもと寸分の狂いもなかった。
・・・この笑顔が、俺達を騙してたんだな。
「いいぜ?まァ、今回は難しかったから、父さんにも解けねぇんじゃねぇかなァ?」
笑顔を取り繕って、楽しく演じる・・・。
初めてのことなのに、楽に出来た。
・・・それは、父さんの血か?
こんな才能、欲しくはないのに・・・。
それから、1時間ほど事件のことで話し合ったところで、玄関のチャイム音が響いた。
「俺が出るよ」
そういって、席を立ち、玄関へ向かう。
そして、ドアを開けると、そこには宮野が立っていた。
・・・一人、か・・・。
「昨日は、ごめんな。何も知らねぇのは、俺の方だったみてぇでさ」
「別にいいさ。それより、あいつ、いるんだろ?さっさと会って話をつけたいんだけど?」
「・・・俺も一緒に、だぜ?父さんの口から、真実を聞きたいんだ」
「フン、好きにすればいいじゃねぇか」
そして、俺達二人は、父さんが待っている書斎へと・・・真実への道を歩み始めたんだ。
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管理人の感想
もしかして二人で組んで工藤新一殺害事件!?
とかも、思っちゃう中編。
幸せな家庭と生活は音を立てて崩れた。
とかもあり?、と思っちゃう中編。
後編は果たして・・・