誓いを背に 後編
shinichi miyano:side
やっと、あいつに会えるんだな。
会おうとも思ってなかった工藤 新一に、これほどまでに会いたいと思わせたもの。
それは、復讐の念・・・それだけだった。
息子である俺が、新聞紙を賑わせているのに、見て見ぬフリをしている。
そいつの面を、拝める時がきたってわけだ。
「そうだ、一つ、言っておきたいことがあんだけどさ・・・」
コナンが切り出したことに、顔を顰めながらも”あんだよ”と聞き返した。
「おめぇのこと、さ・・・。宮野のこと、父さん知らねぇみたいなんだ。・・・その、存在っつうのを・・・」
「知らない?ってことは、俺が新聞紙で名前連ねてようと、他人だと思って呑気に見てたってのか?」
「・・・多分な。でも、もしかしたら最初はそうかもしれないって思ってても、その内その可能性を打ち消したのかもしれない。・・・誰だって、自分の都合に悪いように考えるより、良い方に考えるだろ?」
「自分勝手なもんだな。まァ、そういうことなら、攻め方を変えるのも一興・・・」
「俺は、父さんがどれだけ貶されても怒るつもりはねぇから、好きにやってくれよ。・・・逆に、俺も父さんを責めたい気分なんだ。・・・母さんが、可哀相でさ」
「・・・バーロォー・・・。そう思うんなら、行動に移せよ。思うだけじゃ、誰にでも出来るけどな、実行するのは、誰にだって出来ることじゃない。母さんのためだろうと、誰のためだろうと、お前がそう思うんなら、責めれば良い、だろ?」
ニカッと笑ってやると、コナンは、”そーだな、やってみっか”と笑い返した。
その時、張り詰めていたものが、ふと緩んだ気がしたんだ。
緊張でも、工藤 新一に対する怒りでもない。
なんだろう、こいつ(コナン)といると、素でいられるんだよな・・・。
怒りたいときに怒って、一緒に楽しんで・・・。
もしかすると、俺が探してたのは、こういう友達だったのかもしれねぇな・・・。
「じゃ、宮野。俺が入って、お前のことまず紹介するから、ちょっと待ってろよな・・・」
さっきの笑顔も消え、真剣な表情でコナンは言った。
俺は静かに頷き、コナンが書斎に入っていく後姿を眺めていた。
「父さん、志保さんは来てなかったよ。その代わり、息子さんが来てくれたんだけどね」
悪戯な瞳でそう話すコナンは、合図をし、俺が書斎に入るのを促した。
そして、俺が書斎に入ったとき、あいつがハッと息を呑む声が聞こえた。
「宮野 新一君・・・だったな」
「貴方が、工藤 新一さんですか。始めまして、噂はよく耳にしていますよ。コナン君も、貴方のような立派な父親を持てて、幸せですよねェ」
「・・・お世辞は良い。さっさと本題に入ったらどうなんだ?・・・君は俺を憎くてしょうがない、って顔しかしてないぜ?」
意地悪そうな笑みで、あいつは俺を見ていた。
ハッキリ言って、嫌悪の何物でもない感情が、どくどくと沸き起こるのが感じられた。
「・・・フン、なら話は早い。はっきり言って、俺はお前の子だ。不本意だがな。お前と、宮野 志保との間に出来た、な・・・。俺が聞きたいのは一つ・・・おめぇが、母さんを遊びに使ったのかどうかってことだよ」
「仮にも、初めての親子の対面だろ?それをヒドイもんだな・・・。まァ、そう思われても仕方のないことだが・・・。いいだろう、説明しよう。・・・俺は、今の妻である蘭以外を愛したことはない。それだけは断言できる。かといって、志保を、遊びで・・・抱いていたわけでもないんだ」
「子供の前では適正とは言えない表現だな・・・。で、続きをどうぞ」
はなから信用しない態度で俺が言うと、あいつはギロリとこちらを一瞥し、溜息を吐くと、無駄だと分かったのか、そのまま続けた。
「あの時の志保は、愛情に飢えていたんだ。身内は全て組織に殺され、自分自身を消し去ろうとしたのも一度や二度じゃなかった。博士が家にいないときは、決まってクスリを飲んで・・・」
「ちょっと待て。・・・組織、とか、博士っていうのは何なんだ?」
「・・・?聞いて、ないのか・・・?」
「博士・・・っていうのは、恐らく阿笠 博士氏だと予想はつくけど、組織ってぇのは、予想出来ねぇな」
「聞いてないなら、話してやろう・・・。まず、俺と志保の出逢いからな・・・」
それから1時間程、”黒の組織”と呼ばれる組織に関することが述べられた。
母さんが、その組織の一員だった、ということも・・・。
「そして、その組織が壊滅した後、俺たちは元の姿に戻ったが、・・・あいつの心の傷は、誰も癒せはしなかった・・・。そして、俺は気づいたんだ。あいつが、今誰を求めているのか、をな・・・」
「それが、工藤さんだったわけですか?」
俺が呆れたような口調でそういうと、あいつは”あァ”と小さく肯定した
「あのままなら、最初に述べたように、そのまま自殺を繰り返して死んでた・・・。だから、俺は博士がいないときはウチに呼び寄せたんだ。そしたら、最初の時に告白されてな・・・。そのまま、その関係を引きずってた。いつかは終わらせなければいけない関係なのに、止めることが出来なかったんだよ。だから、”結婚”っていう重要なきっかけが出るまで、その関係は続いた。・・・はっきり言って、志保が俺の目の前から姿を消したのは、俺が関係を絶ったからだとばかり思ってた。しかし、実際は、君が身篭ったことだったんだ。今、自分自身に問いかけてるんだ。もし、最初に志保の方が身篭ったことを知ってたら、どうしてた?ってね・・・。ハッキリ言って、まだ答えが出ないんだ。恐らく、蘭には捨てられてるだろう?そしたら、志保と結婚してたと思うか?・・・分からないんだ。愛してない人と、一緒に結婚出来るかな?勿論、父親だという認知はする・・・。でも、多分結婚はしないんだろうな・・・」
「結局、母さんを捨てるのを前提に抱いてたってことですよね?」
あいつの長い話の後、俺は責めるように言った。
「そういうことになるな・・・。今、ココで二人の息子に攻め立てられてるのも、その系統の罰なのかも知れないな」
可笑しそう笑い、ニッコリと笑顔を造っていた。
「ハッキリ言って、俺は遺伝子ではてめぇの息子かも知れないが・・・。認めねぇぜ?てめぇの子供だ、なんてなァ」
「大体、これが罰だとしても、罪はまだあるんじゃねぇの?父さん」
ずっと傍観に廻っていたコナンが口を開き、一度に注目を集める。
「どうするつもりだよ。ココで責められりゃ、全部が許されるわけじゃねぇんだ。宮野のこれからは?志保さんのこれからは?それに、母さんと志保さんへの謝罪は?」
「・・・コナン、もちろんその通りだ。これだけで許されるわけじゃない。父さんとしても、宮野君を息子と認知してもいいし、志保をこの家に向かいいれても構わないと思ってる・・・。しかし、騒がれると困る人物のいるんだ」
「そうだぜ?コナン、お前は坊ちゃんだからな、全てがいいようになると思いすぎてる。マスコミに叩かれんのは、少ねぇほうがいいんだぜ?第一、認知はいらねぇし、俺はお前と母さんを会わせる気なんてさらさらねぇよ」
「そういうことだ、コナン。俺に出来ることは、母さんへ事情を話して謝ることと、宮野君ところの家庭を援助するくらいだな?」
このとき、不覚にもあいつのことを、良い奴なのかも知れないと思ってしまった。
それに、俺が同じ立場だったらどうしただろう?
家に呼んで、告白されて、愛に飢えた彼女を、俺はどうするだろう?
・・・同じ道を進むのかもしんねぇな・・・。
「まァ、金に困ったら集(タカ)りにくるから、そんときはよろしく頼むぜ、オヤジ・・・」
「・・・!・・・・・・・あァ、いつでも遊びに来ていいんだぜ?ほら、ココって推理小説も沢山あるしな!」
「いいなァ、シンがくればさ、いっぱい事件の話も出来っし?」
「・・・おい、”シン”ってあんだよ・・・」
「へ?だってよォ、宮野ってのは堅苦しいし、新一だと父さんと一緒だろ?だから、呼びやすいように”シン”ってな」
「あんだよ、それ・・・」
工藤邸に、久しぶりの笑い声が響いた瞬間だった。
END
さてさて、二人は名探偵としての道を歩み、二人は友となった。
彼ら二人の手に掛かれば、どんなトリックだろうと簡単に解けてしまう。
勿論、難航すればその父親がやってくることもあったが・・・。
まァ、この話の後も、工藤 新一氏が妻:蘭にこのことを打ち明けたことにより、工藤氏が重症を負ったのは言うまでもないが、彼らはより一層仲睦まじい夫婦になったそうだ。
結末よければ全て良し。
宮野女史を含めても、全員が仲良くなる日は、遠くはないだろう・・・。
では、次の物語を楽しみに・・・。
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作者りゅうの感想
はァ、ダーク玉砕。
最後、なにノホホンと終わってんだ。
志保出番少なすぎるよ、という突っ込みはやめて・・・(笑)
とっても耳に痛いので・・・。