2001年11月


11月1日

誰も知らない名言集


著者:リリー・フランキー
出版社:情報センター出版局
発行:1998年9月7日
装丁:常盤響

初リリーである。面白いとうわさには聞いていたが、うん、なかなか。
名言自体がオチとしていまいちなモノが多いという欠点があるが、面白いよ。
イラストも味があるし。


11月2日

絶叫城殺人事件


著者:有栖川有栖
出版社:新潮社
発行:2001年10月20日
装丁:大路浩実

いわゆるゴシック系『館モノ』かと思って期待したら、意外とこじんまりしたいつものような短編集。
相変わらず高レベルにはあるけど。
そろそろ長編読みたいね。学生アリスの。前にも書いたかな、これ。


11月15日

今昔続百鬼―雲
今昔続百鬼―雲


著者:京極夏彦
出版社:講談社ノベルス
発行:2001年11月5日
装丁:辰巳四郎

憑き物落とし京極堂シリーズではなく、新シリーズ、妖怪研究家・多々良勝五郎先生モノです。あんま変わらんな。
語り部の伝説蒐集家・沼上さんと、とにかく頭の中は妖怪のことしか詰まっていない非常識バカの多々良先生のズッコケ旅行珍道中、って感じのかなりコメディタッチの短編集。
ちなみにタイトルの上には「冒険小説」と書いてます(笑)。
旅先で殺人事件に巻き込まれ、なぜかまったく自覚もなく多々良先生がいつのまにか解決してしまうというのが基本パターンで、ホントに本人は自覚なく半ば偶然に解決してしまう、というところがかなり面白い。
コメディならコメディ、と世界観を設定すると、そのレベルで完璧に筆捌きを抑えてしまえる京極の実力はやっぱり底知れないです。
書き下ろしの「古庫裏婆」には、スペシャルゲスト、「黒衣の男」も登場!


11月16日

自堕落にもほどがある
自堕落にもほどがある


著者:黒木香
出版社:ネスコ
発行:1987年10月31日
装丁:鈴木成一

どういう経緯か読んでしまいました。懐かしのワキ毛AV女優・黒木香の自伝。
いやはや、これは面白い。
彼女自身の人生の面白さもさることながら、語り口のうまさが絶妙で、ぐいぐい読ませる。
頭いいんだろうなあ、と素直に感心してしまううまさなのです。
わりとハードな人生を送っていて、それを恐ろしいほどに客観視して、例の「〜でございます」口調でさらりと語る。ちょっと怖いほどの才能です。
ラストでAV女優として初めて村西とおるとセックスする描写があるのですが、これがもうおかしくておかしくて。笛吹かせんなよ!
村西とおるという才能と黒木香という才能、この運命的なぶつかり合いは、黒澤明と三船敏郎、あるいはYOSHIKIとhide、はたまた雁屋哲と由起賢二(笑)のような巨大なものだったかもしれない。
今どこで何をしているのでしょうか…。


11月28日

アメリカン・デス・トリップ
アメリカン・デス・トリップ(上・下)

THE COLD SIX THOUSAND

著者:ジェイムズ・エルロイ
訳者:田村義進
出版社:文藝春秋
発行:2001年9月15日
装丁:坂田政則

ああ。これはなんという、なんという小説なのか。
小説――これは小説なのだろうか?
1963年11月22日。ジョン・”ファックのF”・ケネディ暗殺。
1968年4月4日。マーティン・ルーサー・キング暗殺。
1968年6月6日。ロバート・F・ケネディ暗殺。
この間のアメリカの暗部が、徹底的に、露悪的に、虚実織り交ぜてこねくり回され、吐き捨てるように描写される。
すべての登場人物はもはや「神」たる作者の手綱を振り捨て、「物語る」ことを放棄したかのように闊歩する。
暗殺。マフィア。FBI。人種差別。盗聴。醜聞。CIA。ベトナム戦争。セックス。ヘロイン。殺人。オカマ。壮絶なドライブ感/まさにデス・トリップ。
「ホワイト・ジャズ」で完成された悪夢のようなブツ切れ文体。

掲示板で、「(読破には)通常の本20冊分のパワーがいる」と書いたが、その苦労は報われる。なぜなら、通常の本100冊分の面白さがあるからだ。保証する。今年度ベスト1。


11月30日

怪文書
怪文書


著者:六角弘
出版社:光文社新書
発行:2001年10月25日
装丁:アラン・チャン

近頃の新書創刊ラッシュでただでさえ新書の新刊は埋もれがちなのに、光文社新書のこのまんま集英社新書な装丁はどうか。
ま、それはさておき、創刊ラインナップの中で、一番僕の興味を引いたのがこの「怪文書」である。
企業や政治家、宗教団体に送られる無数の怪文書。我々が目にすることは非常にまれなこの「怪文書」というアイテムに関する研究書である。
うーん、おもしろそうじゃないの!……と思いきや、むうう、面白くない
どうもこの本の主眼は「怪文書」そのものではなく、怪文書が登場する「事件」であるらしく、どの章もどんどん怪文書から話は逸れていく。
それでも面白ければいいけど、なんか自分の経験談ばっかで興ざめである。
怪文書という事象そのものを掘り下げてもらうともっと面白かったのになー。


11月30日

失敗成功中ぐらい
失敗成功中ぐらい


著者:吉田戦車・川崎ぶら
出版社:角川書店
発行:1996年10月31日
装丁:坂本志保

「たのもしき日本語」という本がある。吉田戦車と川崎ぶらの二人が日本語について語り合った対談集なのだが、これが滅法面白い。
それが近頃角川書店で文庫化された。それを機に急に読み返したくなり、ハードカバー版を家中探したのだが、出てこない。
結局続編であるこの「失敗成功中ぐらい」しか発見できなかったので、これを読んでしまった。
面白い。
「お前ら絶対そんな口調でしゃべってないやろ!」と思わず突っ込みたくなる不思議な口調でどーでもいいことをただ語り尽くしている。

戦車:……そういうわけさ。
ぶら:ちょっと、話を逸して構わないかね。
戦車:ぜひとも逸してくれよ。
ぶら:では逸するが、そこを見てくれ。……

てな感じ。うーん、うまく伝わらないかな。
気になる人は読んでみてくれ。
また、対談中にリアルタイムで吉田戦車が書いた即興イラストが面白すぎて電車の中では読めん一冊です。おすすめ。


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