書評部屋

活字離れ?




2005年4月


4月9日

リチャード・モーガン
オルタード・カーボン(上・下)

ALTERED CARBON
アスペクト

SFです。ハードボイルドです。なかなか面白かった。
懲役170年の刑に服していた犯罪者、タケシ・コヴァッチが、ある日見知らぬ男の体に「ダウンロード」され、目覚める。彼を呼び覚ましたのは、地球の大富豪、バンクロフトだった。バンクロフトは、「自分を殺した犯人を探し出して欲しい」とコヴァッチに依頼する…。
そう。すでに、肉体はデバイスとしてのハードウェア、記憶、精神はデジタルなソフトウェアとして交換可能なテクノロジーが確立されている未来が舞台。
この世界では、人は殺されても、首筋に埋め込まれているメモリースタックを破壊されない限りは新たなスリーブ(肉体)にダウンロードして復活できる。スタックを破壊されたとしても、バックアップがあればその時点まで遡った記憶をもって再生できる。
バンクロフトは四十八時間おきに自らをバックアップしていたが、更新直前に自ら銃でスタックを打ち抜き、自殺した。最後のバックアップで再生したバンクロフトはそのことを聞かされたが、自分が自殺したとは考えられない。その空白の四十八時間の裏を探れ、という依頼だったのだ。
うむ、正統派ハードボイルド。しかし、この「たやすく人が復活する」という設定が生命の価値を非常に軽いものにしてしまっているのが実に面白い。みんな死んでも死んでもすぐ復活するんだもん!
拷問の手段として、女性の体にダウンロードされて犯されるとか、コヴァッチ君も大変な目にあいます。
しかし最近の低読書モードで読むのに時間がかかってしまい、ラストまで気力が続かずテンションが下がってしまいました。これは自分の責任。それをさっぴいても面白いものでした。


4月9日

池田清彦
やがて消えゆく我が身なら

角川書店

以前読んだこの著者の「やぶにらみ科学論」が面白かったので、新作エッセイも読んでみました。
面白いです。「理路整然とした頑固親父」ある意味僕の理想形です(笑)。
「科学の進歩は慶賀すべきことであるが、我々は科学がよしとするものに従う義務はない」
至言です。
性同一性障害の人の性転換手術特例法の悪法ぶりも理路整然とぶった切る。適用には生殖能力を失っていること、などが条件なのだが、「生殖能力を失わなければ性別変更を認めないなんていうのは、指をつめなきゃ組抜けを許さないというヤクザの感性と同じじゃないか」と冷静に吠える。いいねえ。論点を外さず単純化してわかりやすく文句をたれる。素晴らしい技術です。


4月17日

芦辺拓
紅楼夢の殺人

文藝春秋

本格ミステリ作家クラブの主宰する、本格ミステリ大賞というのが毎年選定されています。作家クラブ会員が投票して決めるもので、今年の候補は、綾辻行人「暗黒館の殺人」、法月綸太郎「生首に聞いてみろ」、麻耶雄嵩「蛍」、横山秀夫「臨場」、そしてこの芦辺拓「紅楼夢の殺人」の五作品。
これらすべてを読破しないと投票できません。たまたま今年からクラブに入れていただいたので、せっかくなので読破して投票しましょう。いや、たまたま四つはすでに読んでいてあとはこれだけだったというのが幸いしました。なんせ僕は読むのが遅い。
で、中国文学にはとんと暗いので、オリジナルはもちろん読んだこともなく、似た名前に混乱しながらもなんとか読み終えました。
オリジナル云々ではなく、ひとつの本格推理モノとして、かなり面白いものだったと思います。犯人(というか犯行)と探偵役との関係性が、舞台設定と上手くリンクしていて納得。
さーて、どれに投票しようかな。まあ、アレかアレのどっちかです。今のところ。もう少し考えます。


4月17日

大槻ケンヂ
綿いっぱいの愛を!

ぴあ

オーケンエッセイ最新刊ですが、ちょっと苦しくなってきましたね、最近。
ネタがないのに無理やり書いてる感じ。むやみに多い宣伝もどうか。
突如04年度オーケン賞なるものを発表するのだが、CD部門は特撮、本部門は自著、ってなんだよそれ(ちなみに映画部門は実写版「くりぃむレモン」)。
なお、先日職場でオーケンサイン会があり、控え室にいるところに乱入して僕の本をプレゼントしてきました。狙え今年のオーケン賞!


4月17日

中山健児
ドクターストップ!

BNN新社

今ちょっと格闘技におけるドクターチェックとかを調べる必要があって、参考に買ったのですが、あまり役に立ちませんでした。なんせ著者があまりにミーハーな格闘技ファンで、あの試合はこうだった、この選手はこんな人なんだと嬉々として語るだけで、専門的な話はほとんどなしでした。まあそもそもそういう企画の本なのでしょうが。
このあたりもう少し突っ込んだ本てないのかなあ。


4月30日

森達也
ドキュメンタリーは嘘をつく

草思社

表面的な事象だけでヤラセだなんだと糾弾されることのあるドキュメンタリー。
ヤラセってなんなのか。報道とドキュメンタリーの違いとは。フィクションとノンフィクションの境界などあるのか。
相変らず、森達也は揺れ動きながら、真摯に己をさらけ出す。
結局のところ、表層的なヤラセなど問題ではなく、カメラを持つものの主体性と覚悟こそがドキュメンタリーを創り上げる、という意見に実に納得。
森達也が今考えている二つのドキュメンタリー企画、「今上天皇」「中森明菜」、どちらも楽しみでしょうがない。


4月30日

ロバート・J・ソウヤー
ホミニッド―原人―

HOMINIDS
早川書房(ハヤカワ文庫SF)

出ました待望のソウヤー新刊。前作「イリーガル・エイリアン」がめっぽう面白くて、今回の新作も面白そうな匂いがぷんぷんしていたので読みました。
今回は平行世界もの。クロマニヨンではなく、ネアンデルタールが進化して独自の文化と社会で発展した現代地球のパラレルワールド。ネアンデルタール物理学者のポンターは、量子コンピュータの実験の失敗により、こちらの世界に飛ばされてくる。
要するに異人種とのファーストコンタクトものですね。このパターンはカルチャーギャップが面白さのキモですが、うーん、顔、体格の違いが後の文化にここまで影響してしまうという、ネアンデルタール社会の創造が見事。
ただ、ラストが急ぎすぎで、とってつけたように終わってしまうのが残念。続編が順次刊行されるようなので期待しましょう。


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