2003年2月


2月1日

動機
動機


著者:横山秀夫
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2002年11月10日
装丁:多田和博

「半落ち」で、「このミス」1位のみならず、昨年度ハカタベストの1位もしとめた横山秀夫の短編集。
これがもう、「半落ち」と同じくらいの強烈なインパクトだったのです!
日本推理作家協会賞受賞作「動機」を読んでまず脱帽。二つ目の「逆転の夏」で驚嘆。三つ目「ネタ元」で感心。そして最後の「密室の人」で滂沱の涙。
どの話も、無駄な部分が一切なく、ラストですべてが線となって繋がり、一瞬でテーマに収束される。恐ろしいまでの完成度。
決して悪人が出てこないのに、やるせない事件が起こる。そこに宿る悲劇を描くのが本当に上手い。こんなん書かれたらどうしたらいいねん!
「短編ミステリの教科書を作れ」と言われたら、この四作すべてを選出したくなる、そんなすごい本です。こんなん500円で売っていいのか!
横山秀夫。恐ろしい作家です。参りました!


2月1日

フェミの嫌われ方
フェミの嫌われ方


著者:北原みのり
出版社:新水社
発行:2000年8月5日
装丁:kamata motoko

ちょっと今考えているネタに「フェミニズム」が使えるかも、と思って読んでみた本です。 さほど深い意味はありません。
男と女は生得的に違うものなんだから、ホントの平等なんてありえないよ、という考えをもっている人は多いと思う。
それは真実と言えばそうだが、それは思考停止という壁を勝手に作っているだけとも言える。
ゲイ、性同一性障害など、その先の問題で悩んでいる人が、たくさんいる。
「自分は生まれついてのオトコである」という前提自体を一度解体してみないとわからないことがあるのだろう。だが、その勇気、困難は想像に余る。
そのあたりを、あくまで明るく追及していく著者の秘めた強さに拍手。


2月9日

女人禁制
女人禁制


著者:木津譲
出版社:解放出版社
発行:1993年11月10日
装丁:森本良成

これもネタ本候補で読み始めましたが、どうも使えなさそうです。考え直します。
奈良の大峰山の例を中心に、女人禁制についての考察をまとめた本ですが、どうも半ば素人のようで、考察もツッコミも甘い。
そもそも、部落の解放運動をやっている人なので、どうしても話がそっち側に結び付けられてしまい、純粋な研究書とはいえなくなっている。というか、もともとそういう観点から着目したテーマであるようなので、これはこれでいいのかな。
こちらのイメージと違っていました。残念。


2月9日

陰の季節
陰の季節


著者:横山秀夫
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2001年10月10日
装丁:多田和博

最近すっかりはまってしまった横山秀夫の、これがデビュー作です。
四つの短編が入っていますが、やはりどれもこれも上手い。
なんでこんな最初から上手いんでしょうか。いずれも地味な話ながら、いつもながらの丁寧な心理描写、綿密な伏線、意外な展開、感動の結末という腹が立つほどの完成度。
こんなレベルのものがコンスタントに書けるようになりたいものです。
あーちくしょう!


2月22日

発火点
発火点


著者:真保裕一
出版社:講談社
発行:2002年7月15日
装丁:緒方修一

真保裕一は久々な感じがするなあ。
かつての小役人シリーズや、「奪取」などの微に入り細を穿つオタク的薀蓄エンターテイメントは実に好きだったが、今回は直球(著者にとっては変化球か?)勝負。
少年時代、父の友人に父を殺された若者が、犯人の出所とともに自己と事件を見つめなおし、一人の大人に成長していくという恥ずかしいくらいまっすぐな話。
これがどうも、何というか、盛り上がらない。
おそらくそういう趣旨で書かれたのだとは思うが、ほとんど純文学と化していて、しかもあまり成功しているとはいえない。
要するに、あまり面白くないのだ。
鼻につくような「感動のお仕着せ」はないものの、あっさりしすぎていてどうにも薄い話であった。


2月22日

石に刻まれた時間
石に刻まれた時間


著者:ロバート・ゴダード
訳者:越前敏哉
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:2003年1月31日
装丁:中島かほる

いつも献本ありがとうございます、創元さん。
といいつつ、はっきり言ってってあまりこの面白さはつかめませんでした。
ラストがかなり意味不明。きっちり読み込んでいたらわかるの?
なぜアザウェイでは未来や過去を夢見てしまうのかもよくわからない。
わからなくてもいい、というそういう話なのかな?
どうも翻訳モノは、文化的にも言語的にも作者との距離があって、意図がこちらにどこまで伝わっているのかわからない場合がある。ああー消化不良だ!


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