2002年7月


7月4日

有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー
有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー


編者:有栖川有栖
出版社:角川書店(文庫)
発行:2001年8月25日
装丁:杉浦康平

有栖川有栖と北村薫が、思い入れたっぷりに編んだアンソロジー。
有栖川氏のほうは、現在は入手困難なマニアックものを中心にしつつも、ネタ的にはオーソドックスなもの多い。
珍品なのが、初期つのだじろうの本格ミステリ漫画。絵の感じからして空手バカ一代や恐怖新聞よりも前だろう。これがかなりよく出来ていて面白い。
他にも評論家・巽昌章のミステリ研時代の犯人当てなど、マニアックというかむしろ極私的に編んだ感じ。
ベストは、これまた珍品、台湾の列車ミステリ、「生死線上」。


7月4日

北村薫の本格ミステリ・ライブラリー
北村薫の本格ミステリ・ライブラリー


編者:北村薫
出版社:角川書店(文庫)
発行:2001年8月25日
装丁:杉浦康平

こちら北村薫編のものは、マニアックはもちろん、裾野を広げて、「それありかよ!」といった「本格テイストがなくもない」ものまで含む。
なんせ西條八十や吉行淳之介まで入れてしまうのだ。しかしこの吉行の「あいびき」がいい。詳しく書けんが、「それがオチかい!」と思わず叫ぶこと必至。
こちらのベストはレナード・トンプスン「酔いどれ弁護士」。なんと著者16歳のハードボイルド風密室本格ミステリ。
この人は「本格原理主義者」を自称しながらも、いろんな本読んでるなあ。
外を見ることによって己の境界がよりはっきりするのであろう。
見習うべし。


7月10日

悪魔の眼
悪魔の眼

A PERFECT EVIL

著者:アレックス・カーヴァ
訳者:新井ひろみ
出版社:ハーレクイン(MIRA文庫)
発行:?
装丁:?

いわゆるハーレクイン的ベタロマンスよりは、わりと一般的なミステリやエンターテイメントの提供を目指してハーレクイン社が発足させた「MIRA文庫」というブランドがある。
そこが、9月発売の超自信作があるので読んでくれ、と見本を送りつけてきたので一応読んでみた(画像は仮綴見本なのでカバーも何もない状態です)。
これがまた、ああた、つまらないのなんのって。もうあたしゃ文体変わるほどびっくりしましたよ。
なんせアメリカの片田舎を舞台に、サイコキラー対FBI女プロファイリング捜査官なんていう遅すぎた「羊たちの沈黙」状態。しかも地元のハンサムな保安官と恋に落ちるといういきなりなハーレクイン的横槍。
少しネタをばらしちゃうと、この捜査官が過去に逮捕した別のサイコキラーが途中で脱走し、次作(なんてものがあるらしいのだ)で対決するというそのまんまハンニバルな展開。
アメリカじゃこのパターンで受けたのか知らんが、こっちじゃ無理だよ、これは。
ああ、しかし出版社に感想をFAXせねばならないのだ…。どーしたらいいかね?まったく。


7月13日

まほろ市の殺人 春
まほろ市の殺人 春

無節操な死人

著者:倉知淳
出版社:祥伝社(文庫)
発行:2002年6月20日
装丁:ランドリーグラフィックス 金台康春

祥伝社恒例の中篇書き下ろし400円文庫シリーズ。
今回はさらに趣向を凝らして、「まほろ市」という架空の町を舞台にした四作家による競作が企画された。
というわけで、まずは倉知淳による「春」。
部屋を覗いていた男を七階から突き落としてしまった女性。だが、地上には何の痕跡もなかった。しかもその男は数時間前に殺されていた――。
ま、いわゆる新本格作家によるライトな不可能モノ。解決はかなりムチャ。
無茶をするなら麻耶雄嵩くらい突き抜けてもらいたいものだが、これは中途半端。
シリーズに対する嫌な予感がよぎる。


7月13日

まほろ市の殺人 夏
まほろ市の殺人 夏

夏に散る花

著者:我孫子武丸
出版社:祥伝社(文庫)
発行:2002年6月20日
装丁:ランドリーグラフィックス 金台康春

続いて我孫子武丸による「夏」。
一作だけ出版した新人作家の元に届いたはじめてのファンレター。
彼はまだ見ぬ彼女に恋をした。とうとう会った二人に舞い降りたある殺人事件。
展開がスムーズで感情移入もしやすいのだが、やはり結末は強引過ぎるアクロバット。
悪くないんだけど、物足りなさのほうが大きい。やっぱ短すぎるのかな。


7月13日

まほろ市の殺人 秋
まほろ市の殺人 秋

闇雲A子と憂鬱刑事

著者:麻耶雄嵩
出版社:祥伝社(文庫)
発行:2002年6月20日
装丁:ランドリーグラフィックス 金台康春

トンデモ度ナンバー1。
そもそもこの人のひねくれぶりはタダ事ではないのだが、今回もぶっ飛び。
まほろ市を襲う連続殺人鬼。被害者の横に残される物品を繋ぐミッシング・リンクとは?
推理作家・闇雲A子(このネーミングが麻耶イズム)が駆け回る。
オチはすごい。人によっては怒るだろう。もう滅茶苦茶(笑)。
明らかに四作からこれだけ浮いてます。


7月13日

まほろ市の殺人 冬
まほろ市の殺人 冬

蜃気楼に手を振る

著者:有栖川有栖
出版社:祥伝社(文庫)
発行:2002年6月20日
装丁:ランドリーグラフィックス 金台康春

いやいや、上手い。
偶然拾った3000万。兄弟の確執。蜃気楼にまつわる伝説。
あっというまに読者の感情を取り込み、グイグイと読ませる。
往年の島田荘司風ドッペルゲンガーな謎も増え、途中で本を置くことを許さない。
が、やっぱり結末は強引。とはいえ、四作中ではベストな面白さ。

せっかく共通の都市を舞台にしてるのだから、もっと四作が有機的に絡めないかとも思ったが、どうもそういう企画ではないようだ。唯一の共通点は「オチが強引」なことか(笑)。
まあ、遅筆で知られるこの4人の同時書下ろしを実現させただけで偉いというべきなのかな?


7月17日

クマと闘ったヒト
クマと闘ったヒト


著者:中島らも
出版社:メディアファクトリー
発行:2000年8月4日
装丁:日下潤一・大野リサ・川島弘世

アメリカを中心に活躍したベテランプロレスラー、ミスター・ヒト。
現在大阪でお好み焼き屋を営むヒトと中島らもの対談集。
アメリカ・カナダでは無数の日本人レスラーの世話を焼き、その経験から誰は強い、誰は弱いといとも簡単に斬っていく様は実に面白い。
しかし実は一番面白いのが、吉田豪(紙プロ系ライター)による膨大な注釈なのであった。
これだけで読み応えアリ!


7月17日

パンツが見える
パンツが見える

羞恥心の現代史

著者:井上章一
出版社:朝日新聞社(朝日選書)
発行:2002年5月25日
装丁:芦澤泰偉・野津明子

むうう、大労作である。
本来、最も見られてはいけないところを隠すのがその機能であるはずのパンツ。
なのに、なぜパンツそのものが見えた見えないで人は騒ぐのか。
中身が見えたわけではないのに、男は喜び、女は恥ずかしがる。
著者は、いったいどうやって調べたのか、それこそ当時の小説に一行二行出てくるのみのパンツ描写から、雑誌の記事、果ては新聞の投書欄に至る戦前から戦後にいたる膨大な資料から、絢爛たるパンツ成立史を構築する。
その十分な土台の上にたち、羞恥心が中身からパンツにシフトする現象を深く考察していく。
まったく脱帽モノの仕事である。面白かった!


7月21日

トンデモ99
トンデモ超常現象99の真相


著者:と学会(山本弘・志水一夫・皆神龍太郎
出版社:洋泉社
発行:1997年3月26日
装丁:坂本志保

だいぶ以前に一度読んでるはずだがなんとなく再読。
UFOとかムー大陸とかダウジングとか百匹目の猿とか怪しげに世間に流布している伝説を、きっちりとぶった切ってくれる本。
これらの都市伝説の何がおかしいって、結論ではなく前提が平然と間違っていることだろう。
例えば、「ノストラダムスは『諸世紀』で1999年に人類は滅亡すると言っている」という伝説は有名だが、実は『諸世紀』なんて本は存在しないし(これは誤訳らしい)、人類が滅亡するなんてことも一言もいっていない。
全く滅茶苦茶だが、都市伝説というのはそういうものか、と納得しつつも、やはり『疑う』という姿勢は常に持っておきたいものである。


7月21日

奥様はネットワーカ
奥様はネットワーカ

Wife at Network

著者:森博嗣
イラスト:コジマケン
出版社:メディアファクトリー
発行:2002年7月27日
装丁:守先正

森博嗣最新刊。
とある国立大学で起きる連続殺人事件を、6人のキャラの視点でキョロキョロと見渡すようなライト・ミステリ。
随所にあるコジマケンのイラストが効果的で、とにかく隅々までつくりがかわいい。
スマートでポップなこの装丁が先にあって、あとから合わせて話を作ったかのような感じです。
内容は、特にどうと言うほどではないけど、「小説」としてよりは、ひとつの「商品」として非常に面白いものだと感じました。


7月30日

人類はなぜUFOと遭遇するのか
人類はなぜUFOと遭遇するのか

WATCH THE SKIES! A Chronicle of the Flying Saucer Myth

著者:カーティス・ピーブルズ
訳者:皆神龍太郎
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発行:2002年7月10日
装丁:?

画期的大著。 1947年のケネス・アーノルドの目撃報告から始まる「UFO史」を、一切の虚飾を加えず事実のみをひたすらこれでもかこれでもかとぶつけてくる。
あまりの情報量にこっちがおぼれそうになっても構わずに「まだまだ!」とばかりに投げつけてくるのだ。
UFOというひとつの都市伝説が国家的な「神話」に変じていく様子が手にとるようにわかる。
UFO信奉者(ビリーバー)にとっても懐疑主義者(スケプティスト)にとってもとにかく史料的に役立つことこの上なし!
欲を言えば、図版を多用して、さらに用語・人名の索引があれば嬉しかったのだが。


7月30日

五感喪失
五感喪失


著者:山下柚実
出版社:文藝春秋
発行:1999年11月30日
装丁:坂田政則

排泄物の匂いを消す薬を飲み、アロマテラピーで匂いを作り出す女性。
体中にピアス穴を開ける人々、整形で自身をオブジェ化していく人々。
業者がまがい物を混ぜても気づかない舌。
などなど、「最近ちょっとみんな感覚がおかしくなってきてないか?」というテーマでのルポ連作。
テーマ的に面白いものを追ってるし、文章も悪くない。でもなんだか突っ込み不足のような感じがしてもどかしい。もっと深く切り込めるテーマだぞ、これは。


7月30日

リンダリンダラバーソール
リンダリンダラバーソール

いかす!バンドブーム天国

著者:大槻ケンヂ
出版社:メディアファクトリー
発行:2002年3月29日
装丁:大路浩実
イラスト:D[d:]

オーケン最新作はバンドブームに投げ込まれた時代を回顧する自伝的エッセイ。
自己表現する欲求だけは溢れるほどあるのに、表現したいこと自体は自分でもわからない。
もどかしくも同じ思いの仲間が集まって、モラトリアムな自己満足的バンド生活で細々と生きていた若者たちが、突如バンドブームという波に飲まれ、「実社会」に次々に放り込まれていく。
彼らは戸惑い、増長し、傷つき、そしてブームと共に大多数が消えた。
ちょっとおセンチなそんな話をいつもながらの爆笑オーケン節で描く。
しかし井上陽水、面白すぎるぞ!


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