2002年10月


10月2日

お言葉ですが…
お言葉ですが…


著者:高島俊男
出版社:文藝春秋(文庫)
発行:1999年10月10日
装丁:日下潤一

再読です。
何気なく本棚から取り出してパラパラしてたら面白くてやめられなくなってそのまま読んじゃいました。週刊文春連載のエッセイです。
著者は中国文学の専門家ですが、とにかく日本語(特に漢字)に詳しい。
日常いろんなところで気づいたちょっとした言い回しのおかしな点を拾い上げ、「ここはこう」と適切で豊富な用例を挙げながら、さらにはユーモアも入れつつ、そしてちくりと嫌味も忘れないという高等技術。これ毎週やるのは並大抵の力じゃないよ。
「おもしろかったです」という言い回しは正しいか?
「龍馬」なのか「竜馬」なのか?
「過半数をこえる」???
などなど。何度読んでもおもろいです。


10月2日

お言葉ですが…2
お言葉ですが…2 「週刊文春」の怪


著者:高島俊男
出版社:文藝春秋(文庫)
発行:2001年1月10日
装丁:日下潤一

というわけで、続けて二巻目。
またもや辛口言葉批評がポコポコ飛んできてもう痛快この上なし!
「全然いい」は正しい?
「初老」とは四十歳のこと。
「享年○○歳」は間違い!

などなどなど。この本読むと、何読んでもその言葉が正しいかどうか疑ってしまう副作用があるのでご注意。


10月2日

怪物たちの夜
筒井康隆自選短編集2[ショート・ショート篇] 怪物たちの夜


著者:筒井康隆
出版社:徳間書店(文庫)
発行:2002年7月15日
装丁:岩郷重力

昔色々読んだ筒井康隆のショートショートです。
「超能力」(これ筒井自らマンガにしたバージョンもあったよね?)とか「亭主調理法」とかなつかしー!
ショーン・コネリーそっくりな男が普通の会社に入ってくるだけのネタ「007入社す」とかほんましょーもなくて笑えます。
しかし今回初めて気づいたけど、「パチンコ必勝原理」って江口寿史が「すすめ!パイレーツ」で思いっきりパクってるな。びっくりした。
筒井のショート・ショートで一番の衝撃は「到着」。この文庫版ではわずか5行、という超ショート・ショートだが、「これぞSF!」と叫びたくなる名作です。短いから思い切って引用してしまおう。

とつぜん地球が、なんの前ぶれもなく「ペチャッ」という音をたてて潰れた。
太陽も「ペチャッ」という音をたてて潰れた。
月も土星も、他の恒星群の星々も、「ペチャッ」という音をたてて潰れた。
宇宙のあらゆる星が、いっせいに「ペチャッ」という音をたてて潰れた。
今まで、一団となって落ちていたのだ。


どーですか!この切れ味。SFが凝縮されてるでしょ。


10月7日

騙し絵の檻
騙し絵の檻

THE STALKING HORSE

著者:ジル・マゴーン
訳者:中村有希
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:2000年12月15日
装丁:小倉敏夫

ときどき、無性にゴリゴリの本格ミステリが読みたくなる。
そんなときに選ぶのはやはり創元推理文庫。前から気になってたこの本を折り良く図書館で見つけた。現在のイギリス本格の旗手だそうな。
物語は、不倫相手を殺害、そしてそれを嗅ぎつけた私立探偵をも殺害した、との罪で十六年間投獄された男、ビル・ホルトの出所シーンから始まる。彼は無実だった。彼を陥れたのは誰なのか。彼は復讐のため、真犯人捜しをはじめる。
というシンプル極まりないお話で、まあ綿密な伏線、限られた容疑者、意外な真犯人と、本格の王道をひた走る。
まあ悪くないな、という感想でしかなかったのだが、ここでちょっとこの作品を離れて一般論へ。
意外な真犯人!とかラスト1ページの大どんでん返し!、とかそういう煽りにつられて本格ミステリを読むことはよくあるのだが、「え、どこが意外なん?つーかよくわからんぞ」てことがよくある。
こちらが勝手に推理して真相に到達していた、とか言うわけではなく(そんなめんどくさいことはしない)、その意外さのレベルがどうも作者の狙いとシンクロしない場合がままあるのだ。
その原因のひとつに、こちらの読み方の浅さがあるようだ。
本格のマニアは非常に深く深く読み込むのだろう。伏線のひとつたりとも見逃さず、真相判明の際には、遡っていかにフェアに作られていたかをチェックしたり、ことによっては丸ごと再読したりするのだろう。
そこまでの熱意が僕にはない。「あ、そうなの」という感じで軽く読み進み、終わっても「ふーん」で次の本へ。特に海外モノでは世界観の違いが妨げになるようだ。
というわけで、この作品も法月綸太郎の絶賛解説に応えられなかった空虚感が残った。
あーあ。


10月7日

歯と爪
歯と爪

The Tooth and the Nail

著者:ビル・S・バリンジャー
訳者:大久保康雄
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:1977年7月15日
装丁:岩郷重力 + WONDER WORKZ.

で、こちらは原著は1950年代に刊行された古典本格。
これもクライマックスの大どんでん返しをウリにしており、なんと結末部分は袋とじ、「ここまで読んで袋とじを開けずに小社まで持ってきたらお金返します」という前代未聞の返金保証付ミステリ(ま、図書館の本なので当然既に開いてましたが)。
こんなことされたらそりゃあワクワクするでしょう。
とある奇術師が妻を殺した犯人に復讐するって話なのですが、古い本にしては読みづらさもなく、サスペンスフルな構成にグイグイ入り込む。なかなかおもろい。
で、ついにクライマックス。

「・・・え、それでおしまい?」

うーん、またか。すいません、もう一ひねりあると思ってました。
もっともこれは仕方ない。どうしても現在の本格は、古典の下敷きの上に一ひねり、二ひねりして工夫されたものであるのだから、現在のものを読み慣れた脳には物足りなく映るのだろう。これは新しい本格ファンにとってはつらい命題だ。
だから実はクイーンもカーもクリスティもあまり読んでない。子供のころにもっと読んどいたらよかったとも思うが、思っても仕方ない。ただ、古典本格のもつ雰囲気は非常に好きなので、愉しみの焦点をそちらにシフトして、ときどき読もう。それでいいや。


10月16日

本が好き 悪口言うのはもっと好き
本が好き 悪口言うのはもっと好き


著者:高島俊男
出版社:大和書房
発行:?
装丁:?

発行日と装丁者をチェックする前に図書館に返してしまいました。すみません。
えーと、もう一週間ほど前に読み終わって手元にないので詳細を忘れました。
更新サボってたもんで、重ね重ねすみません。
「お言葉ですが…」の高島俊男の初期エッセイです。
あいかわらずひねりの効いた毒舌が愛敬バツグンで面白いです。
うーんと、これぐらいしか書けないです。ごめんして。


10月16日

世界の終わり
世界の終わり、あるいは始まり

The End of the World, or the Beginning

著者:歌野晶午
出版社:角川書店
発行:2002年2月25日
装丁:角川書店装丁室

もしあなたが人の親なら、近所で発生した誘拐事件についてどう考えるか?
気の毒に、と思うだろう。しかし何よりも、「うちの子でなくてよかった」そう考えるのではないか。
この小説の主人公、富樫修もそう考えた一人であった。
近所で発生した4件の誘拐事件、いずれも金銭の授受とは無関係に人質は射殺されていた。
安心したのもつかの間、彼は六年生の息子の部屋であるものを発見してしまう。
それは、その息子こそが誘拐事件に関与していることを示していた…。

とにかく前半は怖い。
自分の息子が、六年生の少年がこの事件を? 父は否応なく息子を疑い、その行動を調べていく。
事件の派手さと地道に積み上げられたリアリティが緻密に絡まって、「おお、これはもしかして『模倣犯』を上回る珠玉の犯罪小説の誕生か?」と興奮しつつ快哉を叫んだのもつかの間、中盤、作者はこれだけ精緻に組み上げた土台を、いとも簡単に、それもきわめて乱暴な方法で叩き壊してしまう。
そこから作者は不真面目ともとれる逸脱をはじめる。ほとんどヤケクソみたいだ。
おそらくは「一見客観的だが、よく考えるときわめて手前勝手な結論の多い『本格ミステリ』というテンプレートへの懐疑」がこの本のテーマなのであろう。
お世辞にも成功作とは言いがたいが、なんというのか、ジャンルへの懐疑意識や確かな筆力、異常なパワーが感じられ、面白かったことは事実。でも、この後どうするの、この人?


10月19日

僧正殺人事件
僧正殺人事件

THE BISHOP MURDER CASE

著者:ヴァン・ダイン
訳者:井上勇
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
発行:1959年6月20日(改版は1973年3月30日)
装丁:小倉敏夫

再読です。原著は1929年刊行の古典的名作とされているミステリ。
“コック・ロビンを殺したのはたあれ”
童謡マザー・グースの歌詞に見立てた連続殺人事件。
現場には「僧正」のサインのある犯行声明。
名探偵ファイロ・バンスが僅かな手がかりから真相を看破する。

気障で衒学の天才タイプの探偵像、猟奇趣味満点の見立て殺人。
そして意外な真相…と言いたいとこだが、ま、そうでもない。
前にも述べたが、やはり古典は今読むと謎解きとしては今ひとつの部分がある。
が、今では古い翻訳の読みづらさが却って味になっていて、いい雰囲気。
何で今ごろこの本を読んだかというと…(続く)


10月19日

僧正の積木唄
僧正の積木唄

THE BISHOP MURDER CASE, AGAIN

著者:山田正紀
出版社:文藝春秋
発行:2002年8月30日
装丁:京極夏彦 With Fisco

そう、この本を読むためだったのだ!
なんと山田正紀が書いた「僧正殺人事件」の続編である。
犯人は死んだはずでは?――いや、あの事件は終わっていなかった。
あれから数年後、再び「僧正」が現れた。前回の事件の生き残り、アーネッソン教授が殺害されたのだ。もちろん、マザー・グースに見立てられて。
時はあたかも日米開戦前夜。日系人社会への差別がはびこり、日本人ハウスキーパーが逮捕された。このままでは見せしめとして処断されてしまう。
日系人たちの世話役の久保銀蔵は、解決のために一人の日本人をサンフランシスコから呼び寄せた。
その男の名は――金田一耕助

という、かなりハチャメチャ感とワクワク感の漂う実に面白そうなミステリ!
そして期待を裏切らず、単なるパロディではない凝りに凝った構成と謎解きを魅せてくれる。
冒頭から、前作でのファイロ・ヴァンスの推理の欠陥を容赦なく抉り出し、(しかも完璧なヴァン・ダインパロディを決めながら)全否定して見せた上で、金田一を持ってくる上手さ。 そこから今度は一転して見事な金田一パロディ。
さらにはダシール・ハメットらしき人物まで登場するは、ホームズのパロディはあるは、章タイトルはクィーンのもじりになったりと異常なほど懲りまくる。
いや、面白かった!

これは文藝春秋がはじめた「本格ミステリ・マスターズ」という叢書の第一弾(島田荘司、柄刀一が同時発売)。
こんなのが最初に出るとあとの作家が書きにくいかも。
あ、一応言っておくと装丁は京極夏彦です。本書けよ。


10月24日

お言葉ですが…3
お言葉ですが…3 明治タレント教授


著者:高島俊男
出版社:文藝春秋(文庫)
発行:2002年10月10日
装丁:日下潤一

三巻目が文庫になりました。
相変わらずです。面白いです。
「臥薪嘗胆」に関して日本の辞書はなんといい加減か!
「食う」は下品な言葉じゃない!
「檄を飛ばす」間違って使ってないか?
などなど。
面白いけど、ひとつだけ注文。
本のタイトルに、中の50ほどのエッセイの内のひとつだけを抜粋してつけるのはよくないと思う。「明治のタレント教授」だけを色々書いた本みたいだし、それでは読者を限定してしまう。
単行本時とタイトルが変わるのもなあ。
「お言葉ですが・・・3」でいいやん。含蓄あるいいタイトルである。


10月24日

魔神の遊戯
魔神の遊戯

A Mad Teaparty under the Aurora

著者:島田荘司
出版社:文藝春秋
発行:2002年8月30日
装丁:京極夏彦 With Fisco

「僧正の積木唄」と同時発売の一品。
ファン待望の御手洗ものの長編です。同人誌の借りパクではなく、石岡君出ずっぱりで御手洗は電話のみ、でもなく、単なる近況報告でもなく、2002年現在の御手洗が北欧で出会った連続殺人事件の長編である。ここまで断らなければならないと言うのも厄介だな、島田荘司!
御手洗がロンドンで出会った「未来を幻視する絵描き」ロドニー。彼は頭に浮かぶ未来の映像を片っ端からキャンバスに描きつけていた。そしてその後、彼の故郷のネス湖ほとりの小さな村で、彼が描いた情景とそっくり同じ猟奇的連続バラバラ殺人が起こる。果たして彼は本当に未来が見えるのか?
いつも乱暴なほど豪快なトリックを仕掛ける御手洗長編だが、今回はかなり技巧派。派手でもないし独創性もないけど、きっちりとベテランのいい仕事を見せてくれました(うー、詳しく書けん!)。
しかし2002年の御手洗ってひょっとして50歳くらいじゃないのか?むむむ。
ま、いいや。山田正紀とともに、ベテラン熟練工の技術に素直に感心しました。オッケー!


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