2004年10月


10月3日

綾辻行人
暗黒館の殺人(上・下)


出版社:講談社(講談社ノベルス)
装丁:京極夏彦+坂野公一
発行:2004年9月5日
ISBN:4-06-182388-4(上)/4-06-182389-2(下)
定価:各1500円

ついに出ましたねえ。なんと「館」シリーズ12年ぶり。
正直言ってもうネタがないだろうと思ってました。しかもこれだけ間が開いてしまうと、それだけ周囲の期待も自身のプレッシャーもただごとではないわけで。
軽いネタでさらりとお茶を濁すのもひとつの手だったと思うのですが、やってくれました。
真正面から堂々と、重厚長大、しかも大ネタも炸裂。
これだけの圧力でもって正面突破してくれるとはうれしい誤算でした。
九州山奥にある何もかも漆黒に塗り固められた「暗黒館」。妖しげな住人、いわくありげな儀式、嵐で閉じ込められ孤立、連続殺人、密室、出生の秘密など「お約束」を斜に構えたりせず大上段に振りかぶって斬り下ろしてきます。
そして綾辻のホラー趣味が前面に出た大乱歩系怪奇幻想イメージ。シャム双生児、塔の最上階の座敷牢、近親相姦などなど。文章も流麗で引き込まれます。
しかし幻想文学に逃げないでちゃんと「本格ミステリ」してくれたのが何よりうれしい。ラストに関しては賛否いろいろあるでしょう。
僕はこれは「アリ」だと思うし、作品としてのトータルな完成度にむしろ寄与した展開だったと思います。
素直に賞賛の拍手を送りましょう、綾辻、恐るべし!


10月17日

麻耶雄嵩


出版社:幻冬舎
装丁:?
発行:2004年9月?日
ISBN:4-344-00664-X
定価:1600円

麻耶雄嵩待望の新刊です。しかも幻冬舎からの書き下ろし長編となれば、あの奇跡的傑作「鴉」の興奮よ再び!という気持ちになるのもやむを得まい。
かつて狂気の連続殺人が起こったファイアフライ館。大学のオカルト好きサークルの連中が肝試し的に乗り込む。そこで新たな殺人が…。
というありがちなものですが、なんだかものすごく文章が下手で、キャラ造詣も安直で、あれ?なんで麻耶雄嵩なのにこんなつまらないの? いや、麻耶雄嵩なんだからなんかあるはずだ、と勘繰りつつ読んでいくと、あっさり終わってしまいました。
はじめから感じてた妙な違和感(明らかにおかしいところもあったりして校正ミスかと思っていた)は、ああーそういうことだったのね、という落とし方で、その切れ味はよかったのですが、それを発揮させる土台があまりにも貧弱で手抜き。
もったいないなー。


10月17日

ミネット・ウォルターズ
蛇の形

THE SHAPE OF SNAKES

訳者:成川裕子
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
装丁:志村敏子
発行:2004年7月30日
ISBN:4-488-18706-4
定価:1200円

今年も年末の某ミステリベストに投票することになり、例年のごとくあわてて新刊ミステリ読みまくりキャンペーン開始です。特に海外ものは見事に読んでませんな。
ということでキャンペーン第一弾。
えーと、ミネット・ウォルターズ、お初です。過去の作品は軒並みベストの上位に入ってて華々しかったのに、なぜか縁薄く読んでませんでした(単に自分の読書量が少ないのか)。
うん、これは面白かった!
えーと、これはなんというか、すさまじい「アンチ本格ミステリ」です。
素人探偵が過去の事件のことを調べあげ、関係者を嗅ぎ回り、最後に一同集めて犯人指名、という形だけは見事なクラシカル本格ですが、その性質はまるで違う。
とにかくリアル。一民間人が、皆が封印した過去の事件をほじくり返そうとすることが、どれだけ関係者にとってはた迷惑で、どれだけ探偵役自身が「嫌な奴」と蔑まれるか、そのあたりを嫌らしいほど丁寧に丁寧に描きます。
そして探偵役自身もほとんどノイローゼのストーカーと化して、家族ももてあまして崩壊していく。
そんな展開でラストもさわやかに終わるわけもなく、誰一人望んでいない、皆が不機嫌になるような結末。
でも、そうだよなあ、現実的に考えれば普通そうなるよねえ、という奇妙な感動を与えてくれたのでした。いや、面白かった。拍手です。


10月17日

シェイマス・スミス
名無しのヒル

The Moles' Cage

訳者:鈴木恵
出版社:早川書房(ハヤカワ文庫HM)
装丁:ハヤカワ・デザイン
カバー・イラスト:影山徹
発行:2004年9月30日
ISBN:4-15-173552-6
定価:680円

キャンペーン第二弾。
このシェイマス・スミスも過去二作品上位に食い込んでるけど、初です(やっぱり俺があんまり読んでないだけですな)。
「大脱走」的でノリがよさそうなので期待しましたが、…騙されました。
いや、つまらなかったとかじゃなくて、ミステリじゃなかった
アイルランド人の著者の、半自伝的作品だとかで、イギリス軍にテロリストと決め付けられ、収容所に送られた青年の青春物語でした。
ハヤカワさん、これは卑怯やでー。「こんな非人道的な場所で死んでたまるか。ぎりぎりの状況下、ついに俺は起死回生の大脱獄計画を編み出した!」て煽り文句、うそやん!
脱獄計画など話のほんのツマに過ぎないし、しかもたいした計画でもない。
そもそもこの70年代のアイルランドの政治的状況に詳しくないため、感情移入もしにくい。
読み方を間違えた俺も悪いけど、売り方も間違ってるよ!


10月27日

矢作俊彦
ロング・グッドバイ

THE WRONG GOODBYE

出版社:角川書店
装丁:宮澤大
発行:2004年9月11日
ISBN:4-04-873544-6
定価:1800円

新刊キャンペーン第3弾。バッキバキのハードボイルドです。
むうう、しかし僕はそもそもハードボイルドに造詣が深いわけではないし、それでも好きか嫌いかといえば好きな部類には入るかな、という微妙なジャンルなわけで、結局深く同化することはなく上っ面をなでて終わってしまった感じ。
「ハードボイルド」なんて現代日本ではもはやパロディとしてしか成立しがたいものだと思うが、それでも真正面から取り組む姿勢は偉いな、とは思う。しかし思うだけで共感できず。したいんだけど。難しいなあ。
今年は来月に原りょう(漢字がない)の十年ぶりの新刊が控えており、国産ハードボイルド復興の動きがあるのかな?


10月27日

土屋賢二
紅茶を注文する方法


出版社:文藝春秋(文春文庫)
装丁:日下潤一
カバーイラスト:いしいひさいち
発行:2004年10月10日
ISBN:4-16-758808-0
定価:467円

小休止して軽くエッセイでも。
相変わらずですね。さすがにちょっとパターンが読めて飽きてきたかも(笑)。
しかし僕はいったん好きになるとしつこいのでまだまだ読み続けるでしょう。
あまり書くことないのでこの辺で。


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