2004年9月


9月14日

張平
凶犯

凶犯

訳者:荒岡啓子
出版社:新風舎(新風舎文庫)
装丁:中澤裕志
発行:2004年8月5日
ISBN:4-7974-9427-1
定価:753円

出版社からのもらい物です。わりと面白そうだったので読んでみました。
現代中国文学のベストセラーだそうです。
いやはや、これがもうなんと言うかよくこんな一冊(370ページ)もたせたな、というくらい超シンプル。
傷痍軍人の主人公・李が国有林の管理人として派遣されるのだが、そこは近隣の村人の当然のような盗伐の対象となっており、誇り高き李は賄賂も受け付けずそれに立ち向かい、村人から半死半生のリンチにあい、ボロボロの状態で復讐する、という話です。簡単でしょ?
しかも話はほとんどクライマックスから始まり、死にかけの李がひたすら這いずって復讐に向かうパートと、事後の役人による事情聴取のパートが数ページおきに繰り返されるだけ。
ところがこれがなかなか読ませます。まず、この主人公の超人的な体力がすごい。リンチでは体中の骨を折られ、さらにブスブス刃物で刺されるというめちゃくちゃなやられ方をされ、はみ出た腸をかき集めて腹に押し込みそのまま歩いて生還
ろくに水も飲めぬまま(イジメで水を止められてる)、ライフルを背負って這いずって復讐に再出発
もう「ダイハード」どころじゃない、地球外生命体かも、という体力です。
ほんとは民衆や政府上層部の腐敗の告発という側面がテーマなのでしょうが、そんなことどうでもいいくらいこの不死身っぷりが素敵な話でした。


9月14日

ジーン・ウルフ
ケルベロス第五の首

THE FIFTH HEAD OF CERBERUS

訳者:柳下毅一郎
出版社:国書刊行会(未来の文学)
装丁:下田法晴/大西裕二
発行:2004年7月20日
ISBN:4-336-04566-6
定価:2400円

埋もれた傑作SFを掘り返すというコンセプトの「未来の文学」シリーズ第一巻です。
いや、これ、なんと言うか…ちょっと敷居が高すぎません?
三作の中篇からなる連作なのですが、どこがどうつながっているのかなかなかつかめず、背後に大きな世界観があり、それがひたすら小出しにされていき、はっきり言って語り手が誰なのかすらわかりづらいという混乱の一冊。
読み終えるのに二週間くらいかかり、そして読み終えてもほとんど意味不明でした。
SFマガジンのネタばれ座談会を立ち読みして初めてわかったことがたくさんあり、ていうか「そんなもんわかるか!」というものばかりでした。
第三話のメイントリックに気づいてなかった僕は読み込みが足りないんでしょうか。
SFのイマジネーションを楽しめなくなったら歳である、と日ごろ思っているのでちょっとショックです。とほほ。


9月14日

土屋賢二/森博嗣
人間は考えるFになる


出版社:講談社
装丁:坂野公一
イラストレーション:コジマケン
発行:2004年9月1日
ISBN:4-06-212580-3
定価:1400円

対談集です。好きな二人の対談集なのですが、掛け合わせて見るとそれほど面白くなかったな。
土屋賢二が自分のエッセイと同様の巧妙なボケをかまし、森博嗣はまるで無視して冷静に会話を進める、というパターン。
おそらくわざとなんでしょうが、でもあまり面白さにつながらず。残念。
ミステリの書き方について話していましたが、森博嗣の書き方はちょっと自分と似ていました(犯人も決めずに書いていくとか)。


9月14日

マーティン・ガードナー
インチキ科学の解読法

DID ADAM AND EVE HAVE NAVELS?

監訳:太田次郎
出版社:光文社
装丁:松田行正/中村晋平
発行:2004年8月30日
ISBN:4-334-96170-3
定価:1700円

マーティン・ガードナー、まだ現役で疑似科学攻撃本出してたんですね(原著は2000年発行)。
著者略歴を見ると、なんと現在90歳。心強い限りです。
この手の本が好きでたまらない僕ですが、でも今回はうーん、ちょっと物足りなかった。
扱ってるトピックがかなりマニアックなものが多く、またガードナーもアホ理論を正面から論破するのはあまり意味がないと考えてるようで、むしろ「後はあんたら突っ込んでね」とばかりにアホ理論を細かく紹介するという感じ。
しかしいくつか一概にトンデモとも言えない境界線上のトピックもあり、「人食い人種なんて過去も現在も存在しない」という主張は説得力があり面白いものでした。


9月14日

森博嗣
Φは壊れたね


出版社:講談社(講談社ノベルス)
装丁:坂野公一
発行:2004年9月5日
ISBN:4-06-182392-2
定価:820円

森博嗣の新シリーズです。
やはり気になるので読んでみました。
これまで以上に先鋭化された感じです。必要なことすら削ぎ落としてしまったと言うか
。 読み終わっても解決されていないことがたくさんあるのに、謎めかして終わるわけでもなく、「別にいいでしょ」って感じでクールに閉じてしまう。
もっともS&MシリーズとVシリーズで二十冊かけて壮大なトリック仕組んだ作者のことだから、今後どこがどう解明されるとも知れませんが。
しかしこのクールさはわりと好みかも。しばらく様子を見ましょう。


9月21日

石持浅海
水の迷宮


出版社:光文社(カッパノベルス)
装丁:?
発行:2004年10月?日
ISBN:?
定価:?円

来月発売のものですが、出版社がえらくプッシュしているらしく、ゲラを頂きました。
水槽の前で謎の死を遂げた社員。その三回忌の日、彼が亡くなった水族館に次々と脅迫メールが舞い込む。水槽にアルコールや酸が投げ込まれ、そしてついには殺人が…。
「水族館」というネタはかなり面白い着想だと思うけど、ちょっと話がとんとん拍子過ぎるというか、探偵役の深澤の、「お前、それはちょっとわかりすぎやろ!」と突っ込みたくなる頭のよさがご都合主義的でした。
前作の「月の扉」の評判が高いので気にはなっていた著者です。十分化ける素材のある著者だと思います。


9月21日

ガストン・ルルー
黄色い部屋の謎

Le Mystere De La Chambre Jaune

訳者:宮崎嶺雄
出版社:東京創元社(創元推理文庫)
装丁:小倉敏夫
発行:1965年6月21日
ISBN:4-488-10801-6
定価:563円

急に読むものがなくなって、だいぶ以前に古本屋で買った本を取り出してきました。
ええ、読んだことなかったんです。すみません。
僕は、少年〜青年期にいわゆる古典本格をほとんど読んでこなかったヒトで、自分でミステリ書いてる今、ちょっとそのことがコンプレックスになってたりします。
古典を踏まえてひねりを入れてある現代の作品を読んでいると、どうしても古典は単調で読みづらさが先にたってしまって…。いや、読むとそれなりに面白いんですが、それ以上に読みたい本がどんどん出てきて。
ああ、いっぱい時間のあった若いころに読んどけばよかったなあ(ちなみに若いころの読書はSF、伝奇、モダンホラーなんかが中心でした)。
で、この作品ですが、原著は1907年ということで、古典中の古典ですね。
いや、これがなかなか面白かった! 密室トリックにも古さはまるで感じなかったし、古典の単純さもなく、練り上げられたプロットに感動しました。
たまにはこういうの読まないとね〜。しかし続けて読むのはしんどいな、というのが本音です。


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