皆の視線はステージに集まった。
ステージ奥から、またもやえげつないおっさんが女装、それもボンテージルックで現れた。
するとオレ以外の皆が熱烈な拍手と奇声で出迎えた。
「イワ様〜」
「よ、待ってました!」
「イワ様素敵〜〜〜〜」
「レディ〜〜〜スアンドジェントルメン。
 そして今日初めてこの王国に現れたそこのキミ。
 今日は思う存分楽しんで帰ってね。(チュッ)
 まずはそのキミのハートブレイクな心を代弁して。」

聞いてよ太陽 夢なんてないよ
そうよ みんな嘘よ
おしまい このお芝居
お伽話は素敵なことだけ
だけど世の中は 嘘だらけ

愛の歌は書けない 
空に星も見えない
恋は枯木 
まるで瓦礫
ロシア悲劇
以上ね

恋は愚かなことだわ
恋は悲しいものだわ
胸の傷が 彼のキスが

「そうよねえ。失恋って悲しいわよね。つらいわよね〜
 皆わかるわよねえ〜〜」

間奏中のステージからの呼びかけに周りはうんうんと頷いてる。みるとパティらまでもが頷いてやがる。
まあ失恋が悲しいというのは同意だが、オレのこの気持ちって失恋なんだろうか?

楽しく開く一幕
涙で閉じる二幕
筋書きさえさみしく変え
別れるのね


ステージ上から彼(彼女とは死んでも呼びたくない!)がオレに向かって話し始める。
「ねえ、ボーイ。
キミの恋は一生懸命、なりふりかまわずに頑張った、その結果だった?
 命掛けるほどの恋だった?」

鋭いところを突かれて動揺するオレにはまだまだ甚振るところはあるらしい。

「聴くがいいわ!恋する女のタマシイの叫びを!
 そして自らを省みるのよ〜!
 わかった?」

またあたしひとり 行く処もないわ
暖かい家もあたしどこにもない
もう夜だね 今夢をみよう
人みな眠る夜 ひとりで歩こう
あの人思えば幸せになれるよ
街は眠り あたしはめざめる

ひとりでも二人だわ
いない人に抱かれて
ひとり朝まで歩く
道に迷えばみつけてくれるわ
雨の歩道は銀色 川も妖しく光る
闇は樹に星明り
見えるのはどこまでも二人だけ

知ってる 夢みるだけ
話相手は自分だよ
あの人なにも知らない だけど道はある
愛してる でも夜明けにはいない
川もただの川
あの人 いない世界は
街も樹もどこも他人ばかりよ

愛しても思い知らされる
一生 夢見るだけさ
あの人あたしをいらない
幸せの世界に縁などない

愛してる 愛してる 愛してる
でもひとりさ



おっさんの歌は心にストレートに響いてきた。
そして彼の導きどおり自省する。
オレはオレなりに彼女を愛していたし、今も愛してる。
しかし今オレは一人だ。
この現状はやはり自業自得か?
納得している。が、どこかで違う方法があったかもしれない。
彼女を奴にではなくオレに振り向かせて幸せにする方法を。
もう遅すぎる。
そうオレは一人だ。



Inspire by ミュージカル クレイジーフォーユー『But Not For Me』 Inspire by ミュージカル レ・ミゼラブル『ON MY OWN』
真打登場でミュージカル特集です。
こちらにおいでの方でこれらの曲になじみのある方がどれほどいるのか。少ないでしょうね。
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