飛行機設計50年の回想

土井 武夫著 酣燈社刊 1989年(2890円)

日本で一番飛行機を設計した人

昔、土井武夫氏の講演を聞いたことがある。その当時でも90歳くらいだったと思うけど、大丈夫かなってこちらの心配をよそにパワフルに話して下さり感服しました。東大卒というと青白きインテリを思い浮かべるかもしれないけど、それよりも町工場のオヤジというキャラでした。流石に日本で一番飛行機を設計した方です。このキャラで数々のプロジェクトを牽引していったんだろうね。
浅学非才な私が評するのもアレなのですが、零戦の堀越氏が完璧主義ならば土井氏は融通無碍というのが当てはまるように思う。1000馬力級エンジンに完璧に合わせて零戦をつくった堀越氏に、1000馬力級エンジンには少し重いが大して設計変更せずに1500馬力級まで対応できた飛燕の土井氏。設計者としてこの辺りもっと評価されても良いように思うけど。他にも99式双軽の主翼を切り詰めて屠龍に仕立て直したりとか、上反角の足りないYS-11の主翼胴体取り付け部にシムを挟んで対処したりとか。この合理性は恐らくドイツ人エンジニア(フォークト氏)の薫陶を受けたからだろうね(直接本人の記述はないのですが)。
あと興味深く感じたのは設計を決定するパラメータについて具体的な数字を挙げて説明する辺り。ライターではなくまごうことなきエンジニアなんだね。エンジニア的な素養のある人なら興味深く読めると思うし、ご本人もそこを伝え残したかったと思う。
2023年で航空情報は休刊とのことで、この本に留まらず過去の刊行物はどうなるのだろうか? 散逸してしまうのは如何にも勿体無い。