3万機以上も作られたBf109、その詳細について我々が知るようになったのはいつ頃だろうか?1940年(戦争中だ)のWylam氏のMe190J(!)の図面は異常に詳細な寸法が載っていますが、胴体後部が間延びしたようで・・・似てない。ま、限られた写真資料をもとにしたのでしょう。今となっては骨董的価値しかないねぇ。「航空朝日」1942年12月号ににMe109Fの解説が載っていて翼端形状やスピナ形状が変わったことについての記述がある。はたまた「航空朝日」1943年4月号にはE型からF型への設計変更でラダー形状が微妙に変わったことが記述してある。時期的なことを考えるとびっくり!またずっと時が下ってAERO SERIESのメッサーの号(1965年刊)では写真のキャプションにFなりGなりの下のサブタイプについての記述がないものが多いし、タイプの特定についての解説もない。1970年のPaul Matt氏の図面(Me109E)は捕獲機の実測データなので結構いい線いっています。が基準線の解釈に?あり(胴体基準線と推力線にオフセットがあることを正しく描いていない)。1970年代に入って「0-9gallery」(やっと古本屋で入手)が出て、各型の解説と側面図、サブタイプまで網羅したほぼ定説といえるものができたらしい。ただ詳細な寸法云々には触れられていない。アメリカ人による実機を採寸した本(私家版)が出たらしいが入手できていない。時代が下ってこの世界の泰斗ともいえる阿部孝一郎氏の研究(「スケールアビエーション」1999年5月号より連載)が一部のマニアに熱狂的に(個人的には)迎え入れられた。現在ではこれが定説として定着しているようです。氏は恐らくドイツの公文書図書館みたいなところから原書に直接にあたって調べたのでしょう。本当に頭が下がります(私には出来ない。ドイツ語わからない)。で私に何が出来るのか?(いや頼まれている訳じゃないけど) 例によってネットで入手した資料を基にアーだコーだ言ってしまおうという訳です(厚顔無恥?)。題して全長/全幅に疑問あり?ということで。
F型以降は全幅が9924mmということになっているのですが、これはマニュアル記載値で、現在入手できる資料本ではみんなそう書いてある。ですが私が入手したflugel geheim!(翼 秘密)と書いてあるメーカー資料のコピーには片側の翼幅が4960mmと書いてあって、つまり全幅=9920mmとなる。ま、4mmだからいいか。ひょっとして外板の厚み分か?で、更に各部の寸度について入手できる資料本をいろいろあさってみると、皆さんいろんなこと書いておられますなあ(図1)。百花繚乱、右往左往、五里霧中。チェック結果は図1。罪なのはメーカー公式資料でもいろいろ書いてあること。1つには最終的な生産型が決まる迄に2転3転があった(翼端形状、フラップ、エルロン)からでしょう。また実長と平面投影寸法を混同して(?)採り上げている(内フラップ)こともある(854.4mm→860mm)。ひょっとして少数以下の数字の混じった値を
書きたくなかったということか?そんなあれやこれやで混乱したんでしょうね。諸説紛々の翼端部分が短めになっているのは全幅が決まっていて、フラップ部分〜エルロン部分の長さを引いていった結果だからか?リブ間隔などについては新規入手資料により明らかになりました。とりあえず作図してみました。主桁位置については物の本にはどれも45%付近などとぼかして描いてありますが、正確には1番リブから翼端迄同一で44.6%です。ちなみにE型までは46%(1番リブ)44.8%(翼端)です。翼端形状だけではなく主桁位置も変わっているのでE→Fへの主翼設計変更は思ったより大きくて殆ど設計やり直しと言ってもいい。構造的には1本桁構造ということになるので、胴体へは1カ所のブラケットで取り付くことになる(+それだけじゃあガタカタするので後方の補助桁でも胴体に取り付いているけれどね)。構造計算はすべての曲げモーメント/剪断力を1つの部材で受け持つので簡単になるけれど(2本桁以上ならどう荷重を振り分けるかが面倒になる)、フェイルセイフの考え方からするとちょっとおっかない。取り付け部ブラケットが製造不良ならば、バトルダメージあるいは経年疲労で損傷したならば即致命的な結果になる。それもメッサーらしいと言えるね(切れ味鋭いが折れやすい刃物の例え)。主翼を延長したH型では振動問題で開発放棄されたようですが、むべなるかな。それから申し上げにくいのですが、寸法については前述の阿部氏の研究成果とも少し違う結果となってしまいました。センター〜1番リブまでの距離は593.4mmでE型以前と変わっていないと思う(資料にそう書いてある)。ただ阿部氏の説(600mm)も説得力がある。まあ、どちらが正しいのかは諸兄のご判断に任せます(私ももう少しもがいてみます)。結論として9924mmという全幅も開発途中の1タイプの値だろう。ということで流布している全幅の値に疑問あり。ま、1/32のプラモであっても差は殆ど無視できる値なので気にすることもないのですが。少し脱線。別途入手した主翼キャリースルー(胴体内の左右主翼主桁をつなぐ部分)の図面。コメント欄を見るにメ社オリジナルではなく戦後ダックスフォードでイスパノメッサーをレストアした時に作成した物らしいのですが、主翼取り付けボルト間隔が959mmとなっていて、正式図面記載値(960mm)と1mm違う。これは実測値の誤差なんだろうね。リバースエンジニアリングの陥穽か。当時の製造公差からいって、この位の食い違いは多分範囲内。まあ飛行には問題はないでしょう。翼厚比の話をすると、1番リブで14.2%、翼端で11.35%です(F型以降)。ちなみにE型は1番リブで14.2%、翼端で11.0%です。スピット程ではないにせよ薄い。流石高速戦闘機(ハナマル!)。しかしNACA 2R1という翼型は謎だ。NACAの翼型は数字(例えば5桁23016とか)で表すのに2R1とは?(メールで教えてもらった情報によると、最大キャンバー高が2%で最大キャンバー位置は前縁から 35%におかれていて前縁から75%でキャンバー中心線を反転させ 後縁を少しそり返している翼型だそうです)それはさておき、新規入手した座標データより作図したのが図2。同翼厚比のNACA5字系と較べると最大翼厚位置は30%コードで同じだけれど、前半部分でキャンバーが小さく後半部分でキャンバーが大きめですね。それから思ったのだけど上反角6°32''というのは何? tanが切りのいい(製図しやすい)値から決めたのかと思ったんだけど、よくわからない。参考資料の記載値よりcos(6°32'')=0.9935は正しいはず。tanにすると15/131が近い値なんだけど、こんな切りの悪い値って・・・?試作型は上反角が少なかったので、設計変更の時にオリジナル+翼端でXXmm持ち上げる(プラグを挿入)ということで決まった上反角なのかなと推理しているのですが。それで主翼の各角度関係、胴体とのつながりを3D CADで作図したのがこれ。主翼と胴体の位置関係を表した図面がなかったので各々のブラケット位置を合わせて作図してみました。1番リブ桁基準点と機体軸との距離は翼幅方向に593.4mm(ぴった
り!)上下位置は基準線より下方488.5mmとなる。主翼取付角は1°42'(1.7°)ですがこれは翼弦線に対してで、側面から見ると上反角の分だけ転んでいます。もちろん殆ど意味のない差ですが。しかし今更ながらにドイツ人って面白い。主要な寸法を決めるときにきりのいいラウンドナンバーにしようとしないのかな。1番リブの翼弦長も2143mmって・・・2150でもええやん?ま、治具やテンプレートを作っちゃえば寸法がラウンドナンバーだろうが何だろうがどうでもいいという、ドイツ人の合理性か?。
小さめなおにぎり型の垂直尾翼がBf109のアイコンなのですが、E型以前とF型以降は微妙に形が変わっているんですね。漫然と写真を見ていても気がつかない程なのですが、ラダーと固定部分の取り合いが変わっています(F型以降はラダーが小さくなっている)。とりあえずF以降について作図だけしました。よ
く知られている話ですが、エンジントルク対策として垂直尾翼の翼断面が左右非対称になっているんですね。これまで私は右と左で単純に厚みが違うだけかと思っていたのですが、入手できた座標データによるとちゃんとキャンバーのついた翼型NACA2410(@基準線から770mm)になっているようです。角度の与え方が少しややこしくて、前縁は基軸に対してオフセットはなく、後縁に向かって1.7°(何故か主翼取付け角と同じ)の角度でもってラダー後縁まで至るという具合になっています。キャンバーのついた翼型なのでこのくらいの角度でうまく収まるということでしょう。そのせいで主桁は微妙に左右非対称になっています。垂直尾翼の最後にものすごく細かい話なのですが、G型後期型からの大型垂直尾翼ではなぜかラダー弦長最大値(多分尾灯、タブ含まず)が0.5mm小さくなっている。従って全長も変わってくるはず。ま、誤差の範囲なのですが。しかし細かい話ばかりしていると果てしなくスケールの小さい人間になっていくような(苦笑)。垂直尾翼の中に取り残されたかのような(
十字形)の水平尾翼がメッサーのアイコンなのですね。単純に強度が苦しいように思いますが、主翼後流をさける為といった空力要求から来てるのでしょう。構造的には水平尾翼取り付け部までの垂直尾翼は胴体の延長という感じで、がっちりしたフレームが通っています。で作図(F型以降)です。翼厚はROOTで9.5%、翼端ヒンジ部で9.8%でここをクリック。普通の対称翼ですね。あとE型とは微妙に形が違っています。
量産性が良いというのはメッサーの大きな特徴ですが、その秘密はプレスを多用した構造にある。後部胴体には独立したフレームというのはなく外板と一体でプレス成形して、それを順にはめ込んでストリンガーで綴ってリベットを打って完成という大胆さ。だからフレーム単体の図面(No.xxフレーム)というのは無いんですね。これがメッサーの後部胴体が縦に分割ラインが並んでいる理由だ。外板のクラックがフレームまで及ぶ可能性があるので今日的な目で見るとフェイルセーフ性に少し問題があるように思いますが、当時は勿論問題にならなかった。
後部胴体のフレーム間隔は453mmで同じなのですがフレーム同士の嵌め込みシロ(20mm)分のオフセットが前/後ろにあるので分割ラインは等間隔にならない。モデラーの方は御注意ください。で、とりあえず入手データを集めて作図しました。具体的な何型というのではなくF型以降のエアフレームの基本形という図です。機首胴体断面はこんな感じ。後部胴体断面はこんな感じ。
スピナ部分の詳細な図面が入手できなかったので長さ(550mm)は推定(直径は760mmで正しい)→図面寸法を積み重ねた全長(たいていの資料本には9020mmと書いてあるが)はよく分かりません。今後の課題ですね。あと、?と思ったのは、プロペラ推力線です。公式3面図では0°43'アップスラストとなっていますが、入手図面では0°40'アップスラストと書いてある。ちなみに「グスタフに翼を」(大日本絵画刊)では1/2°上方と書いてある。0°43'と0°40'の多分どちらかが試作段階の値ではないか?作図は0°40'アップスラスト説を採って描いています。いうまでもなくほとんど差はないのですが。