古本探偵団(1930〜)

図1:ホルテン3型

  

航空知識

航空知識社刊1939年9月発行(50銭)

業界紙?学会誌?

タイトル通り航空に対する知識が深く得られる本ですね。昭和十四年当時(零戦が試作中!)の航空技術がどの程度であるかが分かると言う意味で興味深い。巻頭が“ロツクヒード旅客機のスロツト翼装着に就いて”(ママ)。ロッキードがロックヒードと呼ばれておったというのは、戦後もしばらくそう言われていたのでまあ置いとくとして、日本に導入された空の超特急ロツクヒード14が福岡で事故を起こして飛行停止になったことが話の伏線になっていることに注目。筆者の名前の前に“工学士”とあるのは大卒が珍しかった時代ゆえだろうなぁ。が文学士という肩書きの筆者がいるというのは?ですが。ドイツのグライダーを紹介する頁でめっけたのがホルテン3型(図1)。ホルテンというと全翼のジェット機が有名ですが、この当時から全翼機をつくっていたんですね。この記事を読んでそのポテンシャルに気がついた日本の技術者はいたのだろうか?“大馬力発動機の夢”。2000馬力時代になったそうである。エンジン開発は機体に先行しているものだから、この時点で2000馬力エンジンができていないといけなかったんだろうね。例として挙げられていたデュプレックス・サイクロンのその後はご存じの通りである(註:B-29に装備されたんですね)。エルンスト・ハインケル(!)の論文には航空機の高速化の現状と展望が述べられている。驚くのはこの当時に音速付近での抵抗急増が予測されていることだ。1000km/hの飛行には4%の翼厚が最適であるとか実に的確な指摘である。ですが後退翼についての記述はない。ブーゼマンの後退翼についての論文発表は1935年なのですが、ハインケル博士は注目していなかったのかな。閑話休題。勿論そんな速度(音速)で飛んだ人はいないし、そんな速度まで加速可能なエンジンもないのに(論文はレシプロエンジンを前提)、文中ではその速度まで対象としている。口にはしていないが、おそらくハインケル博士の頭の中にはジェットとロケットがあったはずだ(ロケットのハインケルHe176が1939年に初飛行しているしジェットのHe178も同じく1939年に初飛行している)。今更ながらにドイツ侮り難し。しかしこの雑誌、どういう層をターゲットにしたものだろうか? 航空カメラ用合金の話とかあまりに専門的学究的で、普通の人には正直面白かったのかどうか。業界人による業界人のための雑誌ということかな。
追伸 この雑誌、古本市などで良く見かける。結構一般向けに部数を出していたようですね。