古本探偵団(1940〜)

図1

  

機械化

財団法人機械化国防協会発行 山海堂出版部発売1943年7月号(?)

国防科学とは

国防科学雑誌というサブタイトルが面白い。この場合の科学には空想科学とか疑似科学といった、メインの意味からするとちょっと外した感じがするね(当時は大マジだったはずですが)。それはそうとこの雑誌結構有名で人気もあるみたいなんですね(もちろん一部のマニアにですが)。それは昭和の絵師、小松崎茂氏が健筆を揮っているからです。で実際に実物を入手するまで、アニメ設定集みたいに楽しい絵本かなと持っていたのですが、大日本帝国はそんなに甘くなかった。当時のこの手の雑誌の例に漏れず啓蒙的な色が強いのです(とりあえず私が入手した号は)。当時の高等教育の進学率や自動車の普及率を鑑みるに、戦争遂行には少しでも科学技術的な知識とそれを使いうる技術を、国民とりわけ兵士になりうる若年層に浸透させる必要性があることは、今の私から見てもなるほどなと思うのですが、もしかして政府あるいは軍部から国策的な指導があったのでしょうか?(財団法人機械化国防協会というのはネットで調べるに、陸軍の外郭団体として出来た組織らしい)。それとも時代の雰囲気と言ったものでしょうか?この辺り調べてみると面白いかも。はたしてどのくらい実績をあげたのか?さて内容は多岐にわたっています。表紙の架橋戦車、巻頭カラーページはお約束の小松崎茂画伯でして、この「空中航空母艦」(図1)がかっこいいぞ。ジェット推進(瓦斯タービン噴射式機関)で成層圏を飛ぶ飛行船で、飛行機を空中発進/収容できるとのこと(ガンダム?ラピュタ?)。ヘリウムをしのぐ無爆発性ガスを使っているって、何やねんと突っ込んでおきましょうか。未来の新案兵器(これも小松崎茂だ)、戦車演習移動見学(国民学校生徒による)、空想戦記小説(「姿なき新兵器」蘭郁次郎)等々といった読者受けを狙ったいわば糖衣の部分は主に前半にまとめて、中盤からは一気にギアが入って(?)やや難しい話に突入。相対性理論まで触れている自然科学入門なんてのもある。さらに、リクルート用記事として、主に軍人さんが執筆した国防と訓練の特集というのもある。当時の軍人さんの書く原稿というのは、どうにも精神主義礼賛がきつくて、それも“勇猛果敢で不撓不屈の戦車兵魂”だとか“火の出るような訓練”なんて手あかのついたレトリックで書かれるものだから却って内容の稀薄さが際立つ。今の私には一言“めんどくさい!”当時はどう思われていたのだろうか? 機甲部隊のためには学生にも運転と整備の教習をすべきという記事(学徒の機甲訓練)の中に、教習車の手配に苦慮しているという正直な記述があります。えー雑誌名は機械化でしたよね。いくら超兵器を夢想していても実情はこんなところだったんだね。あと模型の作り方とか戦車兵採用試験の解説とか本当に盛りだくさんで、100ページ超(112ページより後ろが脱落していました。とほほ)の雑誌でした。今日では本誌の本来の目的であったはずの、強い兵隊の養成に資するということは何の意味もなくなってしまったが、そのための糖衣的な部分のみが生き残って物好きの間でフィーチャーされているんですね。