このチャンスは本当に最後のチャンスだと思う。
だからこそ大事にしたい。いやしなければならない。
絶対に



One more time, One more chance




バラティエでの偶然の再会は、神を信じないオレでも神に感謝を奉げたくなるほどだった。

これ以上何を失えば 心は許されるの
どれほどの痛みならば もういちど君に会える
One more time 季節よ うつろわないで
One more time ふざけあった 時間よ


万策尽きて、本当は頼りたくもないが一番こういったことに慣れているであろうサンジに頭を下げないといけないと覚悟して、実際行動が実行されることはなかった。
バラティエに辿り着けなかったからだ。
あそこにはいつも誰かと一緒に来ていたから、所在地が曖昧で覚えていなかったのだ。
すぐにわかるだろうと思って初めてバラティエに向かった日曜の午後、夜になっても辿り着かず、何とか駅を探して這這の体で家路についた。その結果一応学習して、時間のある日しかバラティエを探すことは出来なかった。
だからこそ、思ってから辿り着くまで半年近くかかったのだ。あの冬の日から、長かったのか短かったのか?辿り着いたのだからそれはもうどうでもいい。
あの日は、たまたま大学近くに営業に来ていてかつ直帰できる状況だったから、曖昧な記憶を手繰って大学からバラティエを目指して向かってみれば、ようやく昔よく見た店構えを見つけることが出来た。
そしてドアの向こうにナミがいた。
やはりオレ達は運命によって結ばれた相手なのだと、当然のように思った。

くいちがう時はいつも 僕が先に折れたね
わがままな性格が なおさら愛しくさせた
One more chance 記憶に足を取られて
One more chance 次の場所を選べない


話をしてみると、ナミの方もこの店に来るのは今日が久しぶりらしく、その偶然に驚かざるを得ない。
久しぶりに会ったナミはやはり記憶にあるとおりのナミだった。
笑った顔も、ちょっとすねてみる顔も、得意げな顔も、ちょっと企む様な顔も。
あの別れ、そしてそれに伴う現状には何も触れずに、オレ達は他愛もない話をして楽しく酒を交わす。
会話が常にナミペースなのも変わらない。むしろそれが心地よかったんだと今気づけるのは、会えないあの時間があったからだろう。
だからナミのどんな小さな我儘すらも愛おしい。

願いがもしも叶うなら 今すぐ君のもとへ
できないことはもう何もない
すべてかけて抱きしめてみせるよ


あの日はナミとの連絡先を交換しただけで別れた。
それから毎日最低メールだけはしている。
出来ることならば今すぐにでも会いに行きたいが、社会人として何とかやっていっている大人な自分をナミに印象付けたかったから、無茶をしないでいる。
いずれ時が満ちればどうにかなるような気がするから。いやもう流れには乗っているはずだから、その速度が早くても遅くても、きっと自分が思い描くゴールに辿り着けるような気がするのだ。

寂しさ紛らすだけなら 誰でもいいはずなのに
星が落ちそうな夜だから 自分をいつわれない
One more time 季節よ うつろわないで
One more time ふざけあった 時間よ


ナミに会えないのに、会社がらみでこの一月はいつにもまして他の女と接した気がする。会社の接待であったり、同僚との飲み会であったり。その度にナミと他の女の違いを再確認した。
どんなに相手の方がその気になってきたとしても、何も動かないのだ。
特に再びナミを捕まえれる状態にある今、自分の心は一つしかないのだ。

いつでも捜しているよ どっかに君の姿を
交差点でも 夢の中でも
こんなとこにいるはずもないのに
奇跡がもしも起こるなら 今すぐ君に見せたい
新しい朝 これからの僕
言えなかった「好き」という言葉も


様々なことに対してナミに話していた習性は、そのまま毎日のメールの中の話題になった。
今日出先で遭った雨が凄かったとか、今の星空は綺麗だとか。
もう一方通行でなく対話が出来るというのは本当にいいものだ。
また互いの仕事の行動範囲も聞いたから、その範囲が重なりそうなところに行く度に、ナミがあそこからばったり出てきたりして?等ということも考える。これは恥ずかしくてナミには言えないが。
こういったのが前より度が増してる気がするのは、ナミが夢でなく現実のものとして着実に近づいているからか?

そんな時ナミからメールが来た。
「ゾロ 今週の金曜日 仕事何時ぐらいにあがれる?」
今週?手帳を出して確認しようと日付を見て合点がいった。
やはりオレはまだまだだ。オレが動くべきなのに。
しかしこのナミからのパスを上手くゴールへを導かねばなるまい!
この日はなんとしてでも絶対定時に上がってやる!
そう心に決めて返信した。
「定時に上がれると思う。
 どっか美味しいもんでも食べに行くか?
 バラティエ以外で!」


命が繰り返すならば 何度も君のもとへ
欲しいものなど もう何もない
君のほかに大切なものなど





Inspire by 山崎まさよし『One more time, One more chance』
大好きな曲です。
どうしても使いたくて「星が落ちそうな夜」というところから無理くり使用。
しかし曲の情報が古いな私。
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