アルス文化叢書7 航空の発達
北尾 亀男著 アルス刊 1941年10月1日発行 (1円20銭)
昔の人の苦労が偲ばれます
B6判で写真中心で巻末に記事があって、一般向けにそのジャンル全般が分かるという編集方針のシリーズでしょうね、多分。当時はライト兄弟から40年程ですから、今この手の本を編集するのに比べて1つ1つのエピソードに割く紙幅が違うのは当然なんですが、それでもなんだかなーって思うのはライト以前に31頁も使っていることなんですね(総頁数は94)。ミッシェル・ループの設計図(図1)とかグーピイュの蒸気飛行機等々私にとって初見のフライングマシーンが充実しているとは思うのですが、なかなか本編に入らないなって感じ。それ以降もエピソードの採り上げ方にムラがあるなあ。航空の発達というと、より速く、より遠く、より高く、より大きくというのがテーマでないかと思うのですが、より速くというテーマがほとんどすっぽり抜け落ちているのです!当然採り上げられるべきドペルデュサンやS.6B、MC.72等をスルーしちゃっている。当然シュナイダーカップなんて単語も出てこない。Bf109(本当はMe209)の速度記録のみってのはいかがなものか?長距離記録飛行についてはそれなりに充実しているんだけどね。穿った見方をすると航研機の世界記録樹立(これは採り上げられている)を目立たせるために長距離飛行をフィーチャーしたのかも。あるいは単にネタ本が長距離機についてのものだけだったのかも(でも参考文献にジェーン年鑑が挙げられているんだけどね)。あと、軍用機についても扱いが悪くてほとんど出てこないんですね。スワ、左翼か(いや当時の日本でそれはない)。結果として当時の航空機全般について体系的な知識が得られるかというと、そうじゃないねという残念な内容になっています。おそらく筆者は航空機専門のライターという訳ではないんでしょう(そもそも当時の日本にそんなライターがいたのか?)。それに航空機の歴史について書かれた書籍も多くはなかっただろう。つまり体系的な知識もなく参考文献も少なく作り上げたのでしょう。今ならネットで情報が潤沢に得られるんだけど、情報が少ない頃の人は苦労してたんだなあ。