図1:FAG C-10
滑空機
朝日新聞社刊 1941年8月18日発行(1円30銭)
もう一つの王国
写真を中心にまとめたグライダーの本です。ただ文章は写真につけたキャプションのみなので、体系だった知識は得られない。日本でのグライダーの歴史や人脈や組織などについては全くわかりません(泣)。緒言でこの本と同時に文書中心の本を企画中とのことがあり、これが入手できればもっとちゃんとした知識が得られるのだろうけど、まあ仕方ない。
改めて見ると戦前の日本はグライダーが盛んだったんだね。伊藤飛行機、日本小型飛行機、東洋金属木工、河合楽器、福田軽飛行機、美津濃グライダー製作所(以上日本滑空機工業組合)という具合にメーカーも複数あったのだ。つまり三菱、中島・・・といった軍用機の王国だけでなくグライダーの王国もあったということです。今ではほとんど忘れられてしまったのだけれど。私もほとんど知りませんでした。
グライダーの訓練の写真を眺めるに学生が中心だったようで、当時の日本では滑空道は男児あるいは大和撫子の嗜みだったのかもしれない。冷静に考えてみるにまだ貧しかった日本に、学生のスポーツとしてグライダーなんてのは贅沢すぎる訳で、多分将来の軍用機パイロット養成という国策的意図があった訳でしょうね。なにがしかの金銭的補助があったのかもしれない。緒言にも“朝日新聞社の中等学校滑空機寄贈運動開始に当り~”なんて書いてあるし、文部省式1型なんておそらく文部省謹製のグライダーの図面も掲げてあることから、国を挙げての事業だったのだろう。
写真がいい。白黒なのだけど優雅に大空を翔るグライダーの魅力が十分に表現されている。説明的なそれではなく写真として良いのが採り上げられているのだ。空が広いなーって感じ。
日本だけではなく、各国の状況も取り上げてあるんです。米英独ソ仏伊皆さん頑張っていますなー。が、ドイツが頭一つ抜けている感じ。やっぱりドイツ侮りがたし。
最後にドイツのこの機体(FAG C-10)。なんと後部胴体に串刺しする形でプロペラを装備し、不要時に折り畳むのだ(図1)。今更ながらにドイツ人の才気煥発なところを示しているね。写真もあるので実機もちゃんと作られているんだけど、どのくらい上手くいったのか知りたいところです。