古本探偵団(1940〜)

図1. 海軍新鋭戦闘機こと零戦

 

図2. 隼(本名)

 

図3. タイフーン?

 

図4. ハインケル113?

 
 

世界の翼 昭和17年大東亜戦版

朝日新聞社刊 1942年7月発行(1圓80銭)

あくまで当時の世界

割と最近まで年刊という形で出版されていましたね。最新(当時)の航空機の写真に短いキャプションをつけて示すという形態の本です。が、昭和17年である。日本が勝ち戦だった頃である。当然日本機が先頭に出てくるのですが、零戦(図1)も1式陸攻も海軍新鋭戦闘機であり海軍新鋭攻撃機であり部隊マークはきれいに消されている。ところが隼(図2)だけは名前が書いてある。「加藤隼戦闘隊」という映画ができたくらいなので、秘密ではなくて逆にプロパガンダとして利用されていたんですね。逆に零戦が人口に膾炙したのは戦後のことである。アメリカ機のページでは早くもF4UやP47といった2000馬力級の戦闘機が載っている。この当時これらに機体に苦しめられることになるのを誰が予想しただろう。この時点で技術競争に敗北していたことが読みとれますね(ちなみにF4Uの初飛行は1940年5月29日)。イギリス機のページでは怪しいのがいるぞ。タイフーンだといいはるこいつ(図3)、タイフーンというと厚翼で機首のラジエータがいかつい機体がそれなんですが、こいつは似ても似付かない。はっきり言ってかっこいい。おそらくこれはネイピア・ヘストン・レーサーだと思う。後年駄っ作機としてネタにされる機体ですが、何がどう間違ったのかこんなところに迷い込んでました(1941年12月号の航空朝日に同じ機体の図を掲載してアメリカ人のウイルキンソンがタイフーンを推論したとの記述がある。おそらくこの話が元ネタだろう)。ドイツ機のページではやっぱりハインケル113型戦闘機(図4)ですね。ご存じのようにこのような機体はルフトバッフェでは使われておりません。増加試作までいったHe100戦闘機をプロパガンダとして使ったと結果ということです。それをきっちり真に受けて“ドイツ第1線の戦闘機である”と書いてある。噂によると戦中派の飛行機ファンは長らくドイツ戦闘機といえばメッサーとハインケルと思いこんでいたらしい。