古本探偵団(1940〜)

図1 脳内隼

 
 

科学朝日

朝日新聞社刊 1942年3月号 (50銭)

科学を冠する矜持

老舗の科学雑誌です(2000年休刊)。特集が南方の科学・飛行機ということで採上げます。戦局が調子良かった頃なので南方に拡大した領土とそれに資した飛行機(=軍用機)をフィーチャーしたということなのでしょう。写真で紹介されているのは各国の軍用機なんですね。多分このような特集を今行うとしたら、採上げられるのは民間機(例えば787)でしょうね。それはともかく、科学雑誌なので例えば爆撃機とはこういう物なのだという風に科学的に解説してあります。記事についても現役の研究者や技術者が執筆していて、これがかなり専門的なんですね。記事によっては高卒以上の物理の素養がないと理解できないものもあります。(完全流体とか粘性流体に境界層・・・大学の講義かよ)流石に科学雑誌!一般ピープルにも容赦がありません。飛行機の成長という記事を糸川英夫氏(!)が書いておられて、内容はというと1000馬力のエンジンと最小限のナセルだけなら940km/hが期待できるが、飛行機として成立させるための装備を追加していくと遂には500km/hになるという思考実験でして(図1)、それって隼のことだよね(^^`)。発動機についてという記事では、諸外国のエンジンについて名前だけでなくかなり技術的詳細まで知られていたことに驚く。DB601について燃料噴射ポンプによる直噴やトルコン駆動によるスーパーチャージャーなんて(テクニカルタームについては今日的な物に書き換えています)、ほんとによく知られていたんですね。でも国産化するには無理があったなんてことは書いてありません。(多分マーリンエンジンについて)余談ではあるが独英両国の空中戦ではこの高高度過給機の実用研究が遅れていたため、大変困ったらしいなんて他人事めいて書いていますが、今更ながらに何言ってんだか。当然ながら技術的内容について知っていることとそれを自分のものとして設計/製造出来ることは違うんですね。余裕があった頃だからなのか、鬼畜云々と言ったあからさまに連合国側を誹謗するような記事はなくて、科学を冠した雑誌故の矜持を感じたのですが、一つには科学に対する純粋な信仰があったのだろう。それもこの頃の雑誌に共通する雰囲気ですね。
科学朝日の続きです。1944年12月号より。苦しくなってきた日本の状況を反映するように28ページの小冊子になってしまいました。内容はあんまり科学という感じじゃなくなってて、どこから入手したのか米英の雑誌をネタに書いた記事(ほとんど兵器について)がほとんどです。興味を引いたのはV-2号の記事で、当時ドイツにV-2号というとんでもない新兵器があるということは知られていたんですね。写真は連合軍がノルマンディー上陸時に撮影したV-2号用と思しき基地のものですが肝心のV-2号は写っていない!で、記事ですが根本的に誤解しているのは飛行機(翼の揚力で飛行する)の範疇にあるV-1号の延長線上にV-2号を考えていることです。で、空気抵抗の問題から超音速飛行はできないだろうなんて書いてある。V-2号って飛行機じゃなくて純然たるロケット(推力のみで飛行する)なんですが、実物を見ていない解説者の想像の範囲外だったようだ。あとミサイルという言葉がなかったようで「巨人流星弾」と呼んでいる。かっこいい(♡)。