英空軍試作機影絵集
朝日新聞社刊 1943年11月30日発行(1円26銭)
勝手に海賊版
はっきり言っちゃうと英国空軍の機体識別用資料の海賊版なんですね。1942年頃戦場で分捕ったものらしい。内容は黒塗りのシルエットで3面図があってその下に機名と主要寸法だけがあるという体裁です。特にその機体について解説があるわけではありません。戦場で機体を識別するために用いられたものでしょうね。流石に天下の朝日新聞社がそのままパクっちゃうのは気が引けたのか、巻末に糸川英夫氏(隼の人のちにロケットの人)、木村秀政氏(航研機の人)、三木鉄夫氏(阪大の先生)の解説が載っています。
“試作機”というから試作機(も)載っているのですが、試作機ですから没になるかも知れないし、実際そうなったものも採り上げられている。そんなもの載せていても意味ないじゃんと思うのですが、採用が決定してから載せることにすればいいというのはイギリス人には通じない論法か?それはそうとそんな試作機でも結構ちゃんと描いてある律儀さも英国風ですね(明らかに怪しいってのはない)。
機体について解説がないので、日本で解説を書いた3氏も苦労したようで、“障子に寫った影法師でその人の性格を論ずるやうなもので、どうにも自信がない”などとぐちをこぼしつつも論評しています。それでも木村秀政氏がアームストロング・アルベマールについて、“こんなに貧弱な垂直尾翼で方向安定が十分であるといふことは(中略)結局極めて平凡な爆撃機だといふ證據(注:しょうこ)となる” などとだっさく機認定しているのですが、実際アルベマールは爆撃機としてはものにならなかったわけで慧眼ですね。戦闘機について書いた糸川氏の一押しはマーチンベーカーM.B.III(本文中はEXPERIMENTAL AEROPLANEとの表記)で、“長目の胴體、行き届いた尾翼配置と共に計畫者のセンスの良さが感じられる”との評です。一方ホーカー・トーネード(これも本文中はEXPERIMENTAL AEROPLANEとの表記)については、“ハリケーンを幾何学相似に大きくしたのみでであるのは、ホーカー設計部の無能さと研究心の乏しさを廣告するようなもの”と大人げないくらい忌憚ない。ま、結局両方とも没になったわけですが、評は当たっているように思う。
銃後の日本でも、マーチンベーカーM.B.IIIやホーカー・トーネード、マイルズM.20 etc.なんかが知られていた(少なくとも知りうる状況にあった)訳です。案外情報があったんだなっていう感想です。