修行僧物語 U

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

3/10

2.八咫烏(やたがらす)


その日、蒼坊主は2ヶ月ぶりにのり子の家に帰ってきた。

呼び鈴を押そうと手を伸ばしかけた時、庭の方にのり子の気配を感じた蒼坊主はそのまま門を入って、庭の方へ歩いていった。

やっぱり庭か・・・・・・また、花の世話をしているんだろうな。

庭をのぞいてのり子を見つけた蒼坊主は、声をかけようとして一瞬ビクッとした。

のり子の肩に大きな黒い鳥が止まっている。
いつもと変わらず、ハンギングに花を植えている様子を見ると、のり子にその鳥は見えていないらしい。


「のりちゃん・・・・・。」
「あっ蒼坊主さん、お帰りなさい。」

作業の手を止めて軍手をとると、のり子はうれしそうに蒼坊主に近づいてきた。
肩の鳥は止まったままである。

「のりちゃん、肩の辺りなんともないかい?」
「えっ・・・大丈夫ですけど・・・・・何かいますか?」
「いや・・・・だったらいいんだが。」

怖がらせる必要は無いと思った蒼坊主は、のり子に鳥の話はしなかった。
近くで見るとその鳥には足が3本ある・・・・・・。

八咫烏か・・・・・のりちゃんにいったい何の様だ?

そのとき八咫烏は突然のり子の肩から飛び立って、今度は蒼坊主の肩に止まった。


「ふんっおまえが父親か・・・・・・のり子も苦労するな。」

そう一言言うと、八咫烏は今度は空へと飛び立って、そのまま消えてしまった。

   

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

どうやら、八咫烏がゲゲゲハウスに現れたのは偶然ではないらしい。

まあ、目玉のおやじさんの知り合いらしいし心配ねえと思うが、とりあえず鬼太郎には話しておくか・・・・・・・。

「それじゃあ、おやじさん1ヶ月ほどしたらおれかのりちゃんが迎えに来ますんで、それまでよろしくお願いします。2人が泊まる所は、砂かけのばあさんに頼んでます・・・・・・・おれはこれからちょっくら飛騨まで行って来ます。」
「天、碧、おやじさんの言うことを聞いていい子にしているんだぞ。」

「はーい。」

「おう、蒼。気をつけて行ってくるんじゃぞ。」

「ああ、そうだ鬼太郎ちょっといいか?話してぇ事があるんだ、横丁まで送ってくれよ。歩きながら話そう。」
「めずらしいなぁ♪蒼兄さんが送ってくれだなんて・・・・それじゃあ父さん、僕ちょっと行って来ます♪♪僕の分のケーキは食べて良いですよ。」

!!!!!!

「にゃにぃーーーーーーーっ!!鬼太郎のために焼いてきたのに、それじゃあ意味が無いじゃない!!!!!」

ねこ娘の目がギラリと金色に光り、爪も伸びてすでに臨戦態勢である。

・・・・・・・ああああああっ・・・・・・しまったああぁ・・・・・・・!

「蒼兄さん!!急いでいるんでしょ、早く行きましょう・・・・・・。」
「おっおう・・・・・そうだな・・・・・・。」

言うが早いか2人はゲゲゲハウスを飛び出していった・・・・・・。


「キイイイーーーッ何なのいったい!!!もうっ全部自分で食べてやるわよ!!」

「よっよせ!ねこ娘、無茶するんじゃあない!!こりゃっ鬼太郎ー!ちゃんとフォローしていかんかー!!」